バンドの“素”にフォーカスした、ねごとの新作ミニ・アルバム『“Z”OOM』

ねごと   2014/03/19掲載
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 ドリーミーでありながら、芯のあるオルタナティヴ・サウンドを聴かせる4人組ガールズ・ロック・バンド、ねごと。彼女たちが完成させた新作ミニ・アルバム『“Z”OOM』は、ずばり、ねごとの新たな出発点となる作品だ。昨年発表したセカンド・フル・アルバム『5』での考え抜かれた物語性の高い歌詞と構築されたサウンドも良かったが、その先に向かうために彼女たちは気持ちの面で原点回帰を図り、より人間的な部分を前面に押し出すサウンド作りへシフトチェンジしていったという。活き活きとしたバンド感と進化したサウンドの詰まった新作について話を聞いていこう。
ねごと『“Z”OOM』 初回限定盤 / 通常盤
――新作ミニ・アルバムは、全体的に雰囲気がチェンジした印象がありますね。
蒼山幸子(以下、蒼山) 「変えようというよりは、今回は作り込んだり考え込んだりせず、ありのままの音を出そうとしたんです。前作『5』とはガラッと印象が違うんですが、もともと、ねごとはそういう部分を大事にしてるバンドだし、そこが伝わったら良いなって」
――フラットなマインドに立ち戻ったと。作詞も全員でやってますよね。
蒼山 「今回の収録曲を選んでいく中で、それぞれ作詞をやってみようって話になったんです。それもバンドの強みになるなって」
――では、曲に触れながら話を進めましょう。1曲目の「真夜中のアンセム」は、ドラマ『おふこうさん』の主題歌ですが、ドラマありきで作っていったんですか?
蒼山 「もともと曲はあったんです。主題歌のお話をいただいて台本を読んだら、元の歌詞の世界観とマッチしてたんです。なのでドラマに無理に寄せることもなく、元にあるものをブラッシュアップした感じですね」
沙田瑞紀(以下、沙田) 「曲は最初に全然違うバンド・サウンドがあって、メロディが良かったのでメロだけ残して全然違う音にしたんです。元のバージョンは全然4つ打ちじゃなく、コンガが鳴ってる常夏っぽいイメージだったんですよ」
――それで、カウベルだけ残ったんですか。
沙田 「そうですね。リズムワークが面白い曲だなと思っていたので、メロディの強さに引っ張られて、もうちょっとビリビリ来るサウンドに持っていけたらなって」
――サウンド面では、4つ打ちから始まりパートごとで音の雰囲気が変わります。それぞれ演奏で心掛けたところは?
沙田 「ギターはリズム感を大事にしつつ、歪みのバランスもどれだけクリーンに聴かせられるか。極力少ない音数でいろいろ考えました」
――曲の後半、ギターソロで突き抜けますね。
沙田 「最初ソロは考えてなかったんです。バンド・サウンドに引っ張られて、あとからアレンジが浮かんだんです。今回ギター1本で終わらせようというのはなくて、2本でも3本でも欲しい音があったら入れようって。そういう意味では開放されてるなって思います」
――やりたいものを制限なく注ぎ込んだと。キーボードの音色も多彩です。
蒼山 「(沙田)瑞紀がフレーズのイメージがあったので、プロデューサーと一緒にいろんな音色を作っていったんです。ポリシンセ的なものから、レズリーも回したり。バキッとしてるより歪んでる方がいいよねって」
澤村小夜子(以下、澤村) 「ドラムは、私シンバルとか金物鳴らすの好きなんですけど、この曲では必要なところだけ入れて相当我慢しました(笑)。シンプルでカッコいい音を追求しました」
――ビートの太さが出てますね。
藤咲 佑(以下、藤咲) 「ベースも太さは大切だなと思って、どれだけタイトにリズムをキープできるかに重点を置きました。あとはギターとの絡みも考えました。いつも間奏は好きな感じでハイポジションで奏でることが多いんですけど、みんなで話して、ギターがハイ寄りなので、低音に行く方がアンサンブルがきれいになるってことになり、あえてロウの方で弾いたんです」
――そうなると音の空間が広がりますよね。歌詞の面では、夜から朝に向かっていく前向きな思いを感じますが。
蒼山 「歌詞は、メロディが浮かんだ時点で出てきた言葉を大事にしたんです。出だしの“ふつつかな夜の間で”からサビの部分が出てきて、そこから広げていこうって。自分が歩いてるから景色が変わっていくっていうのを見せたくて。ねごとでサビが3回ある曲ってあんまりないので、そういう意味では情景の変化が書けたかなって。強さはありつつ、有機的な単語を使いたいなというのもありました」
――じわじわと気持ちの変化が表れてます。この前向きさは、今の自分たちの思いと繋がってるものですか。
蒼山 「自分たちの今のモードですね。ライヴが楽しかったり、新しいことに挑戦してることが、プレッシャーではなく、次に進むために大事だって予感がしてるので。それがちゃんと出てますね」
――ワード的にポイントになった言葉ってありますか。
蒼山 「“嵐”って言葉を使いたかったんです」
――それは何故ですか?
蒼山 「自然と沸き起こってやってくる、避けることはできない大きなものだし、例えば気持ちが激しく乱れるようなことって誰にでもあることじゃないですか。無機質的じゃなく有機的なものにしたいというのは、アルバム全体通してあったんですね。物語風だけど絵本のような話じゃなく、現実にも当てはまるものを描きたいなと思いました」
――確かに生感は出てますね。そうしたいと思ったきっかけがあったんですか。
蒼山 「『5』を作って、いろいろ挑戦できたこともあったけど、でも無機質なものより生きてるものが自分たちは好きだなって気持ちもあったんです。最近の歌詞は、君とか僕とか相手を連想する言葉を排除してたんです。それは、いろんな人が聴けるようにと思ってそうしてたんですけど。でも逆に、自分たちの思い、今の気持ちを正直に書いた方が届くのかなと思うようになったので、歌詞の面でも制限をなくしていこうって」
――あと、アルバムを通してですが、歌い方も変わってきましたね。
蒼山 「そうですね。今回どの曲もマイクをいろいろ試したり、曲にどういうふうにアプローチすればいいか、すごく考えました」
――歌の表現によって伝え方も広がりますよね。
蒼山 「この1年ぐらいでライヴも変わってきて。ライヴの楽しさが増したんです。もっと歌えるようになりたい、こういう声も出るんだって発見もあったので、レコーディングでも楽しんで歌えました」
――先ほども言いましたが、新作全体に希望感がありますが。
蒼山 「はい、前向きです、今は(笑)」
――後ろ向きだったときもあった?
蒼山 「あったかも(笑)。抜けた感じはありますね」
沙田 「溌剌とした感じがアルバム通してありますね」
――抜けたきっかけはライヴですか?
沙田 「『5』のツアーがZepp Tokyoで終わって、これからどういうライヴをやっていきたいか、改めてみんなでミーティングする機会があったんです。お互いどういうライヴが好きでどういう表現をしたいかを話し合ったり。大学も卒業したし、自分たちの中でリスタートしたい気持ちがあったので。で、“良いライヴがしたい=どれだけ自分たちが楽しめるか”っていう結論になって。ライヴを楽しみたいってところに気持ちをシフトしていったら、次に向かってやりたいことが見えてきて。それが制作にも繋がって、今いい調子で階段を昇れてるなって」
――すべてがプラスの方向に進めてると。さて、「Dreamin'」はマイナーコードの疾走感からサビで明るく広がっていく展開がスリリングです。
沙田 「3年くらい前からあった曲をリアレンジしました。世界観は前と同じですね」
――当時はなんで収録しなかったんですか。
澤村 「カッコいい曲だったけど、私たちの気持ちが暗かったから、まんま暗い曲になりそうだなって(笑)。今回、瑞紀が歌詞を書いて、暗さよりも突き抜ける方向に持っていけましたね」
沙田 「バンドが転がって、押し進んでるのが伝わればという思いがありました。サビでドカンって行く感じも含めて。歌詞は、ありのままが一番良いなっていうのがメインテーマです」
――「M.Y.D.」は、ファンキーなリフ、ミドルテンポなグルーヴ感で持っていく、ねごとでは珍しい曲です。
沙田 「これは最近作った曲ですね」
蒼山 「ねごとって横ノリの曲があまりなかったので今回の中では一番難しかったけど、やって楽しかったです。レコーディングまでの練習量は一番多かったです。(メンバー全員、首を横にゆらゆらする)」
――みなさん話ながら揺れてますよ(笑)。
沙田 「(笑)。ちょっとヒップホップ的なファンキ−さで、歌も崩れててノリだけで突っ切る曲を作りたいなと思って。これはシンセも入ってないんです。(蒼山)幸子がライヴでハンドマイクで歌ってる姿を見て、それに感化されて作った曲でもあるんです」
澤村 「後ろにノリを持ってく感じってやったことなかったから、今までこんなにドラムを練習したことがないってくらい練習しました(笑)。ファンキーに聴かせるにはって、深夜に練習して研究したんです」
――私は黒人のファンキードラマーだと言い聞かせて(笑)?
澤村 「いや、設定は白人ドラマーがざっくりとファンキーに叩いてるって感じで(笑)」
藤咲 「以前ライヴでライムスターさんとコラボしたときに、ファンキーな曲をやったときにベースが案外好評で、それから、こういうタイプの曲は、やってなかったので楽しかったです。首を動かしてリズム取るのも楽しいです(笑)。表現が広がりましたね」
――ヴォーカルは巻き舌感が面白いです。
蒼山 「声の表情も変化を出したいなと思って。どれだけ遊べるかを大事にメロディと歌詞を考えました」
――夢を見続ける探検家っていう主人公は、自分たちでもあるのかなって。
蒼山 「そうかも。ちょっとファイター的な精神はありますよね(笑)」
――あと、曲的に沙田さんの好きなフランク・ザッパ感もありますね。ジョージ・デュークとかがいた頃の。
沙田 「ありますね(笑)。そういう感じを彷彿させるのもひとつの面白さになるかなって」
――そして「風惹かれ」は、イントロはポストロック的ですけど、歌が始まってからは本作で一番ストレートなロックチューンです。歌詞は、藤咲さんが書いてますね。
藤咲 「“風光る”って春の季語があるんですね。春の風が光ってるように見えるって意味で、すごく曲にピッタリだなって。そこからインスピレーションを受けて、タイトルを付けたんです。歌詞はいつも曲のイメージから単語を寄せ集めて、何を書きたいかはめていくんですけど。この曲は春っぽいな、風が吹いてるな、走ってる人がいるなってワードからスタートして、夢を追いかけてる、ギリギリ追いつけないときが一番楽しいなってイメージをストレートに表現しました」
――“いつだってときめいていたいの”“駆け出したら春の予感”って青い感じが良いですよ。
藤咲 「ストレートな歌詞って恥ずかしくもなるんですけど、今はそれすらも出してもいいのかなって(笑)。誰でも受け取りやすいし、そういう曲を書いてみたいなって」
蒼山 「佑らしい歌詞で、自分では書けないので新鮮でした。歌は、アップテンポだけどニュアンスを大事にしたんです。Aメロの切ない部分とピュアな部分のギャップ、あとサビで地声と裏声を使い分けるのが難しくて、歌は一番最後にレコーディングしたんです」
――「迷宮ラブレター」は、オルタナティヴでスペース・ロック感のあるナンバーです。
沙田 「これこそ黒人ドラマーです。足ブッとい系の(笑)」
澤村 「ふくらはぎが黒人っていうのがキーワードで叩きました(笑)」
沙田 「腕もじゃない?」
澤村 「ムキムキのマッチョのイメージですね。超疲れました(笑)」
――パワフルにブッ叩いたと。
沙田 「レコーディングで(澤村)小夜子が初めて“5分休憩”って言ってたから、相当大変なんだなって(笑)。曲に関して言うと、軽快だけどファットにっていうのを大事にしたんです」
――歌詞では、何万年先とか火星とか壮大なキーワードが出てきますけど、でも実はシンプルなラヴ・ソングっていう澤村ワールド全開です。
蒼山 「ファンタジックですね」
澤村 「宇宙に行っちゃってましたね。こういう歌詞が書けて楽しかったです」
――そしてラストの「勲章」は、スローテンポでじんわりと広がってく良い曲です。
沙田 「これも3年くらい前に幸子が歌詞とメロディを弾き語りで持ってきた曲で、それをバンドアレンジで膨らませたんです」
蒼山 「サウンドを瑞紀がつけてくれて、すごく長いシューゲイズっぽい間奏が入ってることでねごとらしい曲になったなって。あの間奏が来ると、聴いてる人が走馬灯のようにいろいろ思い出がフラッシュバックしそうだなって」
――後半はストリングスまで入って壮大になってます。
沙田 「メロディがすごくきれいなので、ドラマチックに寄り添いたくて入れたんです」
――歌詞では、別れがあっても自分の道を行くっていう、人生に対する想いのような言葉が綴られています。
蒼山 「歌詞もちょっとしか変えてないんです。今おっしゃられた、“別れ”というのは“進む今が違っても一人きりの幸せを抱きながらまた歩いてゆく”っていう歌詞だと思うんですけど、そこだけ新しく差し替えた部分なんです。たとえ大事な人がいても、それぞれの人生があるし、人は結局ひとりだし、生きていかないといけないし。物理的な別れじゃなく、そういうことがあるけど大事に思っているよってことを伝えたかったんです。この曲も今回入れられて良かったなって思います。2〜3年前だとほんとに切実な歌になってた気がするので。今はだいぶ柔らかい気持ちで歌えますね」
――曲が本来持つ希望感を、今のタイミングだからこそ歌えたわけですね。さて、『“Z”OOM』を作り終えて今どんな思いがありますか。
蒼山 「もともと、このミニ・アルバムが、サード・フル・アルバムに向けての助走になればいいなと思っていたんです。今はやりたいことを純度100%でお届けすることが大事だと思っていて。純度100%のハチミツがどんなお菓子になっていくかって段階だと思うので、その感じがいろんな人に伝われば良いなと思います」
――改めてのスタート地点ってことですね。
沙田 「そうですね。ここから次のサードがどれだけ良いものになるかですね。どんな曲をやってもねごとになるのは証明されたと思うし、いろんな広がりを見せつつ、しっかり自分たちが納得いくものを1曲1曲作っていけたら、最終的にひとつ進んだ作品ができるっていうことを今回のレコーディングで信じられるようになりました」
――タイトルの『“Z”OOM』は寄りですか、引きですか?
蒼山 「ズームインですね。自分たちのありのままの部分にフォーカスを当てるっていうのと、ひとりひとり作詞してるので、メンバー個々にもズームインするって意味で」
藤咲 「さっき言ったミーティングのとき、今までのねごとのイメージって何だろうって話もしたんです。そのときに、人間が見えない、温かみがないとか、そういうイメージを自分たちも持っていて。そうじゃなく有機的な人間っぽさも持ってるんだし、ひとりひとりの個性を見せたいよねって」
――気持ちも新たになったと言うことで、唐突ですが、ねごとの新シーズンの意気込みを漢字1字で表すと?
蒼山 「“素”ですね。今の若い子たちの音楽を聴く取っ掛かりって、“カッコいい”とか“楽しそう”とか、明らかに第一印象に左右されるような感じに変わってきてるなと思うんです。もちろん、私たちもそこで戦えなきゃいけないと思うんですけど、それと同時に、もっと音楽って深いんだよっていうのを伝えられるようになれたらいいなって思うんです」
沙田 「もっと音楽で、ときめきたいですね(笑)」
藤咲 「あと、人間性に惹かれて音楽に入るってこともあるから、ただ音楽をやってるだけじゃダメだなって。黙ってたら誰もついてこないし、自分たちをもっと発信しなきゃっていう思いもあります」
蒼山 「なので、これからもっと“素”でぶつかっていきたいと思います(笑)」
取材・文 / 土屋恵介(2014年2月)
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