何か良からぬことを考えている連中というのは、概して、逃げ足が早かったり、人目に付かないところで事を起こしたりするものだ。“悪い奴ら”を意味するEL-MALOという名を頂いた2人組が90年代の音楽シーンから忽然と姿を消してから7年。2004年にアルバム『New Paradigm』をリリースしたものの、再び消息を絶った彼らが4年の歳月を経て遂に帰ってきた!
その2人とは、
木村カエラや
髭のプロデュースを手掛ける一方、2006年には3人組バンド、
FOEとして、4thアルバム
『FOETUNES』を発表。重厚なストーナー・ロックを展開してみせた會田茂一。そして、表立った活動はほとんどなかったものの、2006年に開催されたイヴェント〈RAWLIFE〉で
GREAT3の白根賢一のモバイル・ディスコ・ユニット、
LASVEGASにヴォーカリストとして参加するなど、シーン最深部で神出鬼没な動きを見せていた柚木隆一郎のこと。彼らは陰に日向に、その音楽性を研磨し続けてきた。
「ここ最近は、〈RAWLIFE〉周辺のシーンもそうだし、ライヴ・ハウスの数も増えて、そこでやってるコたちも、俺らとちょっと違ってて、メジャーに出ていくことを考えずに好きなことを好きなようにやってるし、気負いがないんだよね。かつての俺らは、使命感の名のもとに、メジャー・フィールドへ出ていって音楽をやって、悩んだり自暴自棄になったりもしたんだけど(笑)、当時から少なくとも一回転はしたからね。作り始めるとなると、もちろん楽ではなかったけど、今回はゼンマイをもう一度巻き直して、いっちょうやってやろうかな、と」
そう息巻くのは柚木隆一郎だ。
DJ SHADOWや
DJ KRUSHを輩出した英国のレーベル、MO'WAXから93年にデビューを果たして以来、ヒップホップ以降のアブストラクトなアーバン・ブルーズを分裂気味に、そして、ディープに極めてきた彼らだが、ニュー・アルバム『NOFACE BUTT 2EYES』は、折衷的でありながら、淀みなく覚醒感のある楽曲をテンポ良く放ってゆく。
「今回は、ダウナーなものではなく、原始的かつ体感的でアッパーなものが作りたかった。あと、昔は“1分でも長くしてやる”ってことでワケの分からないパートを入れたりしてたけど、今回は3分30秒を大体の目標に、曲の尺もコンパクトにしたかな。ただ、コンパクトにはなっても、さすが、EL-MALOだけあって、あっさりはしてないんだけどね(笑)」
NATSUMENのA×S×Eや
PANICSMILEの石橋英子、
toeの柏倉隆史、FOEの佐藤研二ら、一癖も二癖もあるプレイヤーをフィーチャーした本作は、
キャプテン・ビーフハートや
フランク・ザッパをサンプラーでリコンストラクトしたかのようなアヴァン・ポップを今日的な音響感覚で鳴らしている。
「4曲を一緒に録った後、情報を共有することなく、各曲を2人別々に作業していったんだけど、俺の曲は、以前の遮断された感じとは違って、録る時の部屋鳴りとかエアー感にこだわりつつ、ざっくりしたデモをもとに一発録りに近い感じでレコーディングしたのに対して、アイゴン(會田茂一)の曲は、ほぼ一人で作り込んだものになっているっていう。でも、それをアルバム一枚に合わせた時、整合感が出ているのは面白いよね」
かつては、注釈や説明を要するほどに折衷的であった彼らの音楽性だが、スーパー・フラットな現在の音楽シーンにあっては、いよいよ、その必要がなくなった。そんな時代の追い風を背に受けながら、“悪い奴ら”はどうやら絶好調らしい。
「自分がやった昔のライヴ映像って、ほとんど観ないんだけど、こないだ、たまたま当時の映像を見てみたら、昔のEL-MALOのライヴって、お客さんとの距離感があって、お互いの様子をうかがってる感じだったんだけど、今は、そもそものお客さんの嗜好がぐちゃぐちゃだし、ワッとなるんじゃないかな。そんなことを妄想しつつ、今年はライヴをたくさんやりたいし、今、実は2人ともソロ・アルバムを作ってるんだよね。狂い咲き? まぁ、春はそういう季節なんじゃないの?(笑)」
取材・文/小野田 雄(2008年2月)
【EL-MALOワンマン・ライヴ情報】
公演タイトル:MySpace プレゼンツ EL-MALO'08 NOFACE BUTT 2 EYES
公演日:2008/5/26
地域:東京
会場:恵比寿LIQUIDROOM
開場:18:00
開演:19:00
問い合わせ先:ディスクガレージ/ 03-5436-9600