No Lie-Sense
“First Suicide Note”
――まずはユニット結成の経緯を教えてください。
KERA 「慶一さんが音楽をやった『ボクの四谷怪談』っていうお芝居を観に行った時、休憩中に煙草を吸いながら、慶一さんに〈何か一緒にやりませんか〉って話をしたんです。まあ、雑談みたいな感じですけどね」
慶一 「その後、KERAがやってるイベントに出て、昔、KERAと二人でやった
秩父山バンド(*)の曲を歌ったんだよ、〈DEAD OR ALIVE(FINE, FINE)〉というシングルB面曲。私はもう、すっかり忘れてましたが」
*80年代にTV番組の企画で結成。TVアニメ『ドクター秩父山』の主題歌「未来のラブ・オペレーション」をシングル・リリースした。
KERA 「あんな強烈な曲を忘れていたなんて信じられない(笑)」
慶一 「それでライヴの後、KERAと話をしているうちに、これまで二人でちゃんと何かを作ったことはなかったな、と思って。KERAの企画したアルバムとか芝居には参加したことはあったけどね。秩父山バンドもKERAが作詞、私が作曲という分業だったし。だから、この際、何かやってみようと思った」
慶一 「ほぼ同時だね。コントロヴァーシャル・スパークは〈ワールド・ハピネス〉に出演するという最初の目標があったから先に発表したけど」
――No Lie-Senseの方向性について、二人で何か話し合ったりは?
KERA 「一回だけミーティングをしましたね。その時はNo Lie-Senseというユニット名を決めて……」
慶一 「あと、〈じんじろげ〉とかヤマスキ(*)とか、そういう意味のない歌詞の曲をいろいろ聴いて分析したりして、“意味のない曲を作ろう”ということになったんだよ」
*フランスのグループで、71年に怪し気な日本語で歌うアルバム『Le Monde Fabuleux Des Yamasuki』を発表。
――意味のない曲、というコンセプトはどこから思いついたんですか?
慶一 「私の場合、ちょうど
ムーンライダーズが2011年に活動を休止して、そのヒストリーみたいなものから解放されたかった。その開放感の表現のひとつとして〈意味のないことをやる〉ということがあって。ムーンライダーズは様々な音楽を聴いてきたことの経験値から成り立っているけれど、そういう経験値ってたまに邪魔に思うんだよね」
――過去からも意味からも解放されたかったと。アルバムでは有頂天の「僕らはみんな意味がない」をカヴァーしていますが、そういうコンセプトあってのカヴァーだったんですか? KERA 「いや、慶一さんと何かやるということで直感的に思いついたのが、〈僕らはみんな意味がない〉とムーンライダーズの〈だるい人〉だったんです。あと、イベントでやった〈DEAD OR ALIVE〉。この3曲をカヴァーすることが決まった段階で、なんとなくアルバムの方向性が見えてきたというのもありますね」
――確かに、その3曲はアルバムのテイストを象徴してますね。「僕らはみんな意味がない」のナンセンスさ、「DEAD OR ALIVE」のノヴェルティっぽさ、そして、「だるい人」のスーダラ感。
KERA 「スーダラ・テイストを持ち込んだバンドって、有頂天とムーンライダーズしかいないんじゃないかと思っていて」
KERA 「ですね。もしかしたら、
パール兄弟も意識していたかもしれない。〈だるい人〉は個人的に大好きな曲で、2011年の大晦日にやったムーンライダーズのライヴに出させてもらった時、“何が歌いたい?”って訊かれて迷わずこの曲を選んだんです。なんか自分が歌わないといけない気がして。そしたら、メンバーの誰もコードを憶えていなかったという(笑)」
慶一 「あの曲はコードが難しいんだよ。メンバー全員で作った曲だから、全員が集まらないと思い出せない」
――今回の歌詞はナンセンスさのなかに毒もあって、戦争をイメージさせるキーワードが散りばめられていますね。
慶一 「〈大砲〉やらなんやらね。結局、今も戦時中じゃないかと。だから、ナンセンスなんだけどシリアスだったりもする」
KERA 「最初に慶一さんから送られて来た歌詞が〈けっけらけ〉で、それを見た時は、どうしようかって思ったんです。この線で10曲やるのかと思って(笑)。でも、歌詞の中に“けっけらけーは戦後のドッカンだ”というフレーズがあって、それが印象に残った。それを引きずりながら〈反転せよ / 火事〉の歌詞を書いたんです」
慶一 「そして、その歌詞を見て、私が新しい歌詞を書く」
KERA 「そうやって順番に一曲ずつ上げていく、みたいな感じだったので、イメージがどんどん蓄積されるわけですよ」
慶一 「そんななかで、一曲だけ完全に合作したのが〈MASAKERU〉」
――歌詞もサウンドもナンセンスさを極めた問題曲ですね。最初から最後まで意味不明の言葉で歌われていて、曲の展開もデタラメで先が読めない。
慶一 「この曲は同じコード進行で3つのメロディーがある。そのメロディーが順番に出てきて、最後に3つのメロディーが一緒に歌われると、やがてメロディーはノイズに変わっていく。曲がメタモルフォーゼしていく感じだな」
――曲の途中で、女性がドアを開けて部屋に入ってきて歌う、という演劇的な演出もありますね。ビョークの「ライフ・ザン・ディス」みたいな。 慶一 「あれは緒川たまきさんにハンディレコーダーを渡して、一人で録ってもらった」
KERA 「メロディーを一回だけ聴かせて、歌詞は即興で歌ってもらったんです。テイク3まであったけど、最初が一番良かったんですよね。段々メロディーを憶えて、きちんとしてきたから」
――よくあれだけデタラメに歌えますよね。そうかと思ったら、デスメタルっぽいパートがあったりもして。
KERA 「そこは大槻(ケンジ)ですね。追っかけ(のコーラス)が
犬山(イヌコ)。大槻はメロを憶えてこなくて、“叫ぶだけでいい”って言ったのに中途半端に憶えたまま歌ってくれました」
――結構、スタジオで即興的に作っていくことが多かったんですか?
KERA 「即興性は高かったですね、今回は」
慶一 「それぞれ曲の断片を持ってきて、それをスタジオで検証しながら、その場で発展させていったんだ」
――曲の構成も独特で、いろんな音をエディットして構成したコラージュみたいな感じもしました。
KERA 「曲全体の構成を考えるというより、“このパートをどうするか?”みたいな感じでしたね。慶一さんがいきなりドラムをドンドン叩きはじめたり」
慶一 「そうやって出た音を貼っていって、“ここからは違う音にしよう”とかね。(録音を担当した)
ゴンドウ(トモヒコ)君のスタジオには、いろんな楽器があるんだよ。ウクレレとかトイピアノとか。そういうのを見ながら、〈よし、今度はこれを使ってみよう!〉と。だから今回、楽器はかなり使っている」
――慶一さんがいろんな楽器を弾いている横で、KERAさんはどんなことをされていたんですか?
KERA 「次のアイデアを考えてました(笑)。僕は楽器をほとんど弾いてなくて」
慶一 「でも、エレキ・ギターのソロ弾いたじゃない」
KERA 「弾けないのに弾いてます(笑)。実際に楽器を弾いているのは全体の10分の1くらいですけど、だからといってやることなくて退屈だってことはなくて。慶一さんがやってることがすんなり通ることが多いんですけど、“なんかもうちょっと別の何かが欲しいな”と思ったりとか、“この曲をどう壊すか?”って考えたりとか」
――まさに演出家ってかんじですね。
KERA 「そうかもしれない」
慶一 「俺がやってる作業でロックのイデオム的なものが登場すると“そうじゃないんじゃない?”って反応があって、違うフレーズになっていくんだよ」
――歌詞のナンセンスさとか、脈絡なく展開していくサウンドとか、どこかモンティ・パイソン的な感じもしました。 KERA 「ああ、なるほど。オチがないのもモンティ・パイソン的だし」
慶一 「これまでそういうことを非常にやりたかったんだよ。曲には始まりがあって終わりがある。そして、そのなかに映画一本分の情報を入れた歌詞にする、というようなことを考えがちなんだけど、そういう常識みたいなものから解放されたかった」
――今回、めでたく解放されたのは、KERAさんとの共同作業だったからでしょうか?
慶一 「だね。これが
ビートニクスだと手の込んだものを作ろうとする。いろんな理屈を詰め込んでストーリーテラーになるんだ」
――非ロックでDIYなサウンドは、80年代ニュー・ウェイヴみたいなテイストもありますね。
慶一 「そこは二人の趣味は合致している部分だろうな。それに今回はギターやリズム・セクションで演奏者を呼んでないから、音もスカスカになっていく。なんの音かわからないパーカッションがいっぱい入ってるけど全部二人でやってるし」
KERA 「最初はもっとスカスカになるかと思ってましたけどね。結果的にどこにもない感じになったと思ってます」
――確かに不思議なアルバムですね。新生ナゴムの第一弾にふさわしい作品になったと思いますが、最初からナゴムから出そうと思っていたんですか?
KERA 「途中で思いついたんです。このアルバムをリリースするために何かレーベルを作りましょうか、という話になって。それでいろいろ考えているうちにナゴムになった」
慶一 「それを聞いた時、私は倒れたんだ。“そんなことでいいの!?”って(笑)」
KERA 「それで良かったと思います。そうすることで聴いてくれる人もいると思うし」
慶一 「そういえばナゴム、去年で30周年だったんだよね」
KERA 「そうなんです。だから何かやれたらいいなと思っていて、“そうだ、再始動ってのがある”と思ったんですよね。行き当たりばったりなんですけど、これまで、その行き当たりばったりが背中を押してくれた。そもそもナゴムの成り立ちも、自分達が作ったレコードにレーベル名を入れなきゃいけないってことででっち上げたところもあったし、そこからいろんなことが繋がっていく偶発性みたいなものに身を任せてきたんです」
――今回のアルバムも、その“行き当たりばったり力”のなせるワザだったと。
KERA 「そうですね。なかなかですよ、“行き当たりばったり力”(笑)」
――慶一さんがKERAさんと共にレーベルのオーナーに就任したのも、行き当たりばったり?
KERA 「レーベルを二人でやろう、ということから話が始まっているので、ナゴムであろうと二人でやりましょうと。一人だと寂しいんで(笑)」
慶一 「オーケン(大槻ケンヂ)が心配してるんだよ、“慶一さんだとちゃんとしちゃうんじゃないの?”って。ちゃんとしないよ、別に(笑)」
――そういえば、慶一さんもナゴムと同時代に水族館レーベルを主宰していましたよね。
慶一 「あれはメジャーなレコード会社のレーベルで、3枚だけ出して短命に終わるわけだよ。とりあえず、当時の音楽業界に風穴が開けばいいや、と思ってやったんで、(参加したアーティストは)後は各自が自力でなんとかしてって感じだった。でも、ナゴムの歴史はずっと続いているわけで。しかも、純粋なインディーズとしてね。それってすごく大変なことでさ。だから今、結構覚悟してますよ(笑)」
――KERAさんも覚悟してます?
KERA 「まあ、やるからにはちゃんとやっていこうとは思ってますけど、そのために無理をするつもりはないんです。何もタマがないのに、無理矢理何か出すみたいなことはしたくない」
慶一 「タマがなかったらNo Lie-Senseの2ndだ(笑)」
――オーナーみずからが責任をとる(笑)。5月10日には初めてのワンマン・ライヴが行われますが、見どころを教えてください。
慶一 「見所? そりゃ観てもらわないとわかないよ。だから観て欲しいんだよ。 観ていただく時の注意点は、とにかく女性は悲鳴を上げてくれ。 男性は怒鳴ってくれ。演奏が聞こえないくらいにな。お願いいたします。 そしたら俺たちはサボれるしな。お願いいたします。 見所じゃなくて聴き所はたくさんあると思うよ。まあ、どっちでもいいけど、 観に来て下さいまし」
KERA 「すんばらしいアルバムのすんばらしい楽曲がなんと全曲生で聴けるだけでも充分有り難いだろうに、 すんばらしい新曲やすんばらしいカヴァー曲にが披露される。日本音楽史上とは言わないが、 少なくともNo Lie-Sense史上最もすんばらしいライヴになるのは二割方間違いない。 会場の東京キネマ倶楽部って所がまた、他のライヴハウスとは全く異なるレトロ な雰囲気をもった、すんばらしい小屋なのだ。本当に有り難く思ってほしい」
――有り難く拝見します! では最後にライヴに向けて決意表明を。
慶一 「決意? このショウは小さな決闘みたいなもんだ。だから 万全の準備を整えて臨むよ。せこい手も使うぜ。ありとあらゆる手を 使うと、ここに宣言する。よろしくお願いします。一生懸命やりますので、 皆さん応援よろしくお願いします」
KERA 「4ヶ月ぶりに歌うので、慶一さんの丁度10倍がんばります。 どうか嘘でもいいから人気があると思わせて頂きたい。お待ちしております」
No Lie-Sense
ワンマン・ライヴ2014年5月10日(土)東京 鶯谷 東京キネマ倶楽部開場 17:00 / 開演 18:00
前売 4,900円 / 当日 5,400円 (税込 / 別途ドリンク代)[出演]
No Lie-Sense (鈴木慶一 + KERA)
ゴンドウトモヒコ / 川村成史 / 伏見 蛍 / 山本哲也 / 湯浅佳代子 / リンダちゃん
ゲスト: アーバンギャルド 大きな地図で見る