柴田聡子
“いきすぎた友達”
柴田聡子
“いじわる全集”
柴田聡子の音楽は一聴するとちっとも優しくない。と言うと本人は本意ではないかもしれないけれど、少なくともリスナーにとってはたいそう素っ気ない音楽に聞こえるだろう。言い方を換えるなら、みんなの面倒まで見てられないよ、いついなくなるかわからないよ、それでも楽しんでくれるならどうぞ、とでもいうように、それは聴き手との一定の距離を置き、時には突き放してみせたりもするサディスティックな作業のようにも思える。しかしながら、例えば今年の〈RECORD STORE DAY〉に7inchシングルとして限定発売された「いきすぎた友達」(新作にも収録)などを聴いていると、突き放していて素っ気ないが、転じて、こっちを見ていて、聴いていて、という本音の現れではないかとも感じるのだ。まあ、言ってみれば、とても面倒くさい、厄介なアーティストなのだ、柴田聡子は。でも、とてもヒューマンで可愛らしいアーティストでもある。
三沢洋紀とDJぷりぷり(現 セクシーキラー)が制作に深く関わったデビュー作
『しばたさとこ島』に続く2ndアルバム
『いじわる全集』は、そんな柴田聡子のぶきっちょであまのじゃくな思惑が歌詞のみならずサウンド・スタイルにも現れた力作だ。基本的にはアコースティック・ギターの弾き語りによる一発録音。
テニスコーツの
植野隆司が参加した曲もあるが、今作は加工もしていなければ、音を加えてもいない。アレンジらしいアレンジは殆どないまま。柴田聡子がポツンとそこにいるのみだ。そう、ポツンとただ一人。今、彼女はなぜレコーディングの現場でも一人で歌いたくなったのか。まずはそんなシンプルな質問から始めてみた。
――ひとりで制作するというアイデアはどういうきっかけから生まれたのですか?
「一年くらい試し録りをしながら、今度こそ本当に録音できそうだ、と思って年末から年明けにかけて集中して、神保町の
『試聴室』で録音しました。実はその前に一度別の作業でやろうとしていたんです。前のアルバムを手伝ってくださった三沢(洋紀)さんとDJぷりぷりさんとかと一緒に。でも、途中で我がままを言って、いったん白紙にさせてもらったんです。それが何故かというのは、感覚で“やめたほうがいいかも”ってものでしかなく、その自分のあいまいな気持ちも嫌で、このまま進むのがどうしても出来なくなって。それが去年頭くらいのことでした」
――つまり、弾き語りで録音したものに、後から第三者が音を加えるという1stのやり方で最初は次も作ろうとしていた、と。
「そうです。今回も三沢さんとぷりぷりさんにお願いしようと。でも、そこで今回は自我というか、結局自分が一番可愛いって気持ちになったんだと思います。前のアルバムの時って、まだ私自身にアイデアがなくて、ぼーっとしてたところもあったんですけど、今回の16曲に関しては、どうしてかはわからないけれど、前と同じにはいかないかもしれないと感じたんです。私自身は、あまり自分の作品を大事にし過ぎるのはどうなのかなあって思っているところもあって。誰かに丸投げして仕上げてもらうってことはすごく良いことだし、わくわくします。けれど、今回はどこに投げればいいかもわからなかった」
――柴田さん自身の音楽の向かうヴァイブのようなものが変化してきたということ?
「そうかもしれません。実際、当たり前ですけど、曲の感じも1stの時とは違ってきていて。こんなんでアルバムが出来上がるのかな?って不安も出てきたんですけど、積極的に誰かにアレンジしてもらおうというよりは、一人、もしくは二人くらいでライヴをして、その中で曲のことを考えて行く流れになっていきました」
――自分の書く曲が変化してきたと気づいたのはいつ頃のことでしたか?
「いや、実はあまり私自身は気づいてなくて。徐々に……だとは思うんですけど、ただ、ライヴでも1stの曲をやるより、新しい曲をやった方が自分でも楽しい瞬間が多かったり。新曲は単純に、ぜんぜんわからないからやってて面白いし、ライヴを一緒にやったりしていたテニスコーツの植野(隆司)さんや
TEASIの
松井一平さんとかからも“変わったね”って言われたり。そういうのに気づくことが自我なのかもしれないし、そう言われて自我が芽生えたのかもしれないけど、なんか、とにかく今の自分が進んでいる方向は、今までとは違うのかなと、強く意識しないまでも、ぼんやり思い始めました」
――ライヴを多くこなすようになって、ステージでは軸になっているシンプルな弾き語りというスタイルそのものを、レコーディングでも実践したくなった、とか?
「いや、そういうわけでもなくて。1stも、今聴いてもすごくいいと思うし、あれの制作中は楽しくて面白くて、すごくハッピーなものにしてもらったと思っています。弾き語りだからやりたいとか、今回急にやりたくなった、ってわけでもなかったんですよね。1stは三沢さんたちに丸投げしてよかったな、と今でもそう思っています。聴かせ方のスタイルを選ぶというのではなく、今の自分がそうするしかないっていうのも含めて自然とそうなって、やっていることに忠実にやったって感じですね。去年の頭には一度弾き語りでデモを作ったんですけど、そこには今回の新作の曲がすべて入っていて……まあ、曲自体は早い段階でできていたから、レコーディングに関しては本当に私の自我が出たんじゃないかと思っています。自意識というか。そういうのを削っていきたいんですが、そもそも曲作り自体、意識して“こういう曲を作ろう”みたいなことを考えて作ったりするのはあまり得意ではないんです。作り方自体は、そういう意味では変わっていないような気もします。いまだに曲作りについて自覚していない部分は多いんですけど、ギターを弾くのはどんどん楽しくなるんです。頑張って曲を作ろうと思って作れるわけではないのかな、とも感じます」
――他のアーティストや作品から刺激を受けることはありますか?
「何か物足りないって思う瞬間も多いです。すごくいいと思っても、何か足りない。何が足りないんだろう?って思うけど、誰かにとって自分もそうなのかなあ、って思ったりもして。もちろん、素直に本当にいいなあ、すごいなあ、って思える人もいます。私は、多作な人が好きなのかもしれないです。どんどんどんどん流れて行く、止まらない蛇口みたいな感じが」
――常に音楽を絶やさない人々。
「そうかもしれません。話題とかじゃなくて、音楽そのものを絶やさない。曲を大事にし過ぎるのにあまり価値がないと思えるのも、そうやってどんどん作ってどんどん出すのが面白いと思えるからなのかもしれないですね。それも、出したら出しっ放しって感じでもない。いつのまにかやってるんだけど、ただ作って売るのとは違うんですよ。なんでしょうね、何が違うんでしょうね? 向上心に冷めているところがあるのかな。何かに冷めながらも、先々の計画とかを立てずに目の前をずんずんと進んでいる感じがいいなあと。増殖に近いような……。軽やかさがあるような。私も、先の先まで見据えて活動したりするより、目の前に現れた飛び石にひょいひょいと乗っていくような感じでやっているな、と思います。でも何が起こるかわからないから常に這いつくばってる感じという」
――それは、人生どうなっていくかわからない危機感や不安みたいなものに抗わない、ということでしょうか。
「ああ、そうかもしれない。思い切り不安はありますが。そういう気持ちは確かに曲とかに出てるかも。極端に言えば、いつ死ぬかわからないというのを、わけもなく心に留めています。突然死ぬことも十分起きるわけだから、死ぬのはめっちゃ怖いけど、立ち行かなくなったらそれはそれで、悔いはあっても運命だしなあ、って。私の曲は守るべきものが一つもない歌だとも思います。もちろん目の前でビリッと破られたりしたら悲しいですけど、だからって“私の歌です、大事にしてください”って気持ちもない。それは、“自分もでっかい何かの中のただの点”だから、“まあいいか”って思いもそうさせてると思います。ここ1年くらい、同じ映像を何度も何度も観ていて。
ニーナ・シモンの「Feelings」のライヴ映像とか、
エイミー・ワインハウスのライヴ映像とか。イミー最後のライヴ映像は本当にすごいんですよ。途中でエイミー自身が泣いたりして、人生が歌に翻弄されている瞬間にも見えて、尊いなって思うんです」
――ニーナ・シモンもエイミー・ワインハウスも故人だけど、既にこの世を去っている人の晩年に興味があるという心理はありますか?
「ああ、もうすごくありますね。そもそも“死”に興味があります。とても普通のことですけど。最後の日記とか、死に際の歌とかって特に興味あります。で、とりわけひどい人生だった人が、なんでこんなにひどいのに最後まで歌を歌ったりしていたんだろう? なんてことを考えたりするんですけど、“ほんとそんなのどうでもいいや”っていうのと、“どうでもよくない、すごく悲しい”と思うのを行き来するんです」
――確かに柴田さんのステージを見てると、“いつかは死んでゆく”っていうある種の刹那や開き直りや畏怖に対するユーモアみたいなものがよく伝わってくるんですよ。ところが、それらを共有しようとするオーディエンス、リスナーに対しては、スッと交わしちゃうようなところがある。この人はサディスティックだなあと思うことが多いですね。
「そうですか!嬉しいかも。自分では“どんとこい”みたいなどっしりした気持ちでいたいとは思うんですよ、ライヴとかでは特に。もっともっと入ってきてくれていいんですよ、お願いします、って」
――そんなに普通に優しい感じはしないなあ。それこそ“いじわる”なところが歌にある。
「ああ、まあ、そう、確かにいじわるなのは間違いなくて。なんかどんどんいじわるになってきてます。もう、私、性根が悪すぎて。特に女の人に対しては、まずいじわるになって憎むんだけど、そのあと愛しくなる感じです。愛憎が湧き易い」
――つまり、『いじわる全集』のいじわるの対象は女性である、と。嫉妬も共感も憧れも蔑みも全て女性に向けられている、と。
「そう言われれば、そうですね。自分自身への憎悪も含めて。いや、でも女の人は、心底かわいいと思いますけど」
――でも、それが陰湿な形にはなっていない。柴田さんの曲は基本的にあっけらかんとしています。それはなぜだと思いますか?
「本当にひどい目に遭ってないからだと思います。これがマジでひどい人生になってきたらどうなるんだろう。よく悩んでる風な話をしたりするんですけど、根は楽天家で、“なんとかなる”みたいな気持ちで生きてるんだろうなあって思いますね。なんかね、のんきなんですよ、私。時間が解決するって最近は特に思えてきましたからね。昔は海の底くらい、落ち込みましたけど」
■ 2014年5月23日(金)
“鈴木常吉 / 柴田聡子 / 伴瀬朝彦”東京 池袋 ミュージック・オルグ開場 19:00 / 開演 19:30
前売 2,000円 / 当日 2,300円 (税込 / 別途ドリンク代)[出演]
鈴木常吉 / 柴田聡子 / 伴瀬朝彦[ご予約]
yoyaku@minamiikebukuromusic.org
予約フォーム minamiikebukuromusic.org/schedule/5883■ 2014年5月24日(土)
“植野フェス”東京 神保町 試聴室 開場 13:30 / 開演 14:00
ご予約 2,800円 / 当日 3,300円 (税込 / 1ドリンク・おにぎり付)[出演]
植野隆司
ゲスト: さや / 柴田聡子 / 池間由布子■ 2014年5月30日(金)
“柴田聡子と植野隆司のゴーフィッシグつあー”兵庫 神戸 旧グッゲンハイム邸開場 19:30 / 開演 20:00
前売 2,000円 / 当日 2,500円 (税込 / 別途ドリンク代)[出演]
植野隆司 / 柴田聡子 / タナカ + 村岡 充 / 稲田 誠 ほか[ご予約]
guggenheim2007@gmail.com
075-201-9461■ 2014年5月31日(土)
“柴田聡子と植野隆司のゴーフィッシグつあー / みんなレコ発LIVE!!!”京都 北野白梅町 喫茶ゆすらご開場 17:30 / 開演 18:30
前売 1,800円 / 当日 2,000円 (税込 / 別途ドリンク代)[出演]
植野隆司 / 柴田聡子 / タナカ + 村岡 充 / 稲田 誠 ほか[ご予約]
moyashirecords@yahoo.co.jp
078-220-3924■ 2014年6月1日(日)
“柴田聡子と植野隆司のゴーフィッシグつあー”三重 四日市 カリー河開場 17:30 / 開演 18:30
前売 2,000円 / 当日 2,300円 (税込 / 別途1オーダー *でもカリーでも大丈夫)[出演]
植野隆司 / 柴田聡子 / Gofish[ご予約]
muigihosomari@gmail.com■ 2014年6月2日(月)愛知 名古屋 みのや開場 / 開演 19:00
投げ銭 (1,000円〜)[出演]
植野隆司 / 柴田聡子 / Gofish■ 2014年6月4日(水)
“やんてらの企画 うたの森だより vol.3”東京 浅草・合羽橋 なってるハウス開場 19:30 / 開演 20:00
ご予約 2,500円 / 当日 2,800円 (税込 / 別途1ドリンク代400円〜)[出演]
松倉如子(vo) + 熊坂るつこ(acc) / 柴田聡子(vo, ag) + かわいしのぶ(b)[ご予約]
knuttelhouse@mb.point.ne.jp
03-3847-2113 (18:00〜23:00)
※演奏中・お休みの日はつながらない事があります。■ 2014年6月5日(木)
“THE LAST BAUS / LAST LIVE”東京 吉祥寺 バウスシアター 1 (220席)開場 18:30 / 開演 19:30
前売・ご予約・当日 3,000円 (税込)[出演]
石原 洋 with friends / テニスコーツ / 柴田聡子[ご予約]
件名を「(出演者名)予約希望」とし、liveatbaus@gmail.comまで「お名前 / ご連絡先 / 枚数」をご連絡ください。■ 2014年6月27日(金)
“柴田聡子と山本精一のツーマンツーデイズ”
supported by HOMESICK京都 木屋町 UrBANGUILD開場 18:00 / 開演 19:00
前売 2,000円 / 当日 2,500円 (税込)[出演]
柴田聡子 / 山本精一■ 2014年6月28日(土)
“柴田聡子と山本精一のツーマンツーデイズ”
supported by HOMESICK大阪 難波 BEARS開場 18:00/ 開演 18:30
前売 2,000円 / 当日 2,500円 (税込)[出演]
柴田聡子 / 山本精一[ご予約]
「イベント日時 / お名前 / 人数」を明記の上、homesick.kyoto@gmail.comまでご連絡ください。■ 2014年8月11日(月)
“いじわる全集発売記念ライブ”東京 日本橋劇場 (中央区立日本橋公会堂)※詳細後日発表