若さゆえのフレッシュさに加えて、表現力豊かな演奏を聴かせるピアニスト、
桑原あい。彼女が率いるai kuwabara trio projecが3作目となる
『the Window』をリリースした。昨年は東京JAZZへの出演に加えて、初のアメリカ・ツアーを敢行するなど、着実にステップアップを続けている彼ら。本作で聴ける、勢いと一体感のある演奏、多彩なアレンジやインタープレイからも、彼女らの成長を感じ取ることができる。この取材において「この一年で大きな変化があった」と語る桑原に加えて、ベーシストの
森田悠介にも同席してもらい、トリオ・プロジェクトのここ一年の成長と変化、それらの経験によって生み出された最新作について語ってもらった。
――去年は初のUSツアーもありましたね。まずはその感想から教えてください。
森田 「とにかく楽かったです。特にサンフランシスコが印象的で、僕らもウキウキしてたし演奏のテンションもすごく高かったです」
桑原 「とにかくお客さんが自由で反応もダイレクトでした。こっちがMCをしているときにかぶせて喋りかけてくるし(笑)。でも、その分やっぱりエンタテインメント感も強くて、自分たちももっとオープンでいていいんだって思えました。アメリカは演奏がイマイチだとオーディエンスが帰ってしまうって聞いていたし、自分たちの音楽が受け入れてもらえるかという不安もありましたが、すべての公演でスタンディング・オベーションが起こったので、とても嬉しかったです。USツアーでの体験は『the Window』にも影響していると思いますね」
――どの辺りに影響を受けましたか?
桑原 「新作自体が去年一年間に起こったことから生まれたアルバムなので、USツアーもその一部という感じです。一番影響が強かったのは去年の〈東京JAZZ〉に出演できたことで、その体験を基に曲を作っていき、USツアーで異なる景色を見ることで、未完成だった部分を構築していきました」
――〈東京JAZZ〉には思い入れがあったんですね。
桑原 「10年前からずっと出たかったイベントでした。それまでプロの音楽家としてやっていくのがどういうことか、自分に言い聞かせていたんですが、いろいろと迷いもあって。それが〈東京JAZZ〉のワン・ステージで完全に迷いが消えて“この道で間違いないんだ”って思えるようになりました」
――それは音楽的な部分で、それとも人間的な面においてですか?
桑原 「両方です。人間的な部分では最近、憧れのミュージシャンに直接お会いできることもあって。大好きなドラマーの
スティーヴ・ガッドさんにお会いする機会があったんです。そのときにガッドさんの暖かいの心がしゃべっていてもすぐに伝わってきたんです。それで素晴らしい音楽ができる人ってこうなんだっていうのが分かってきたというか。音楽家の前にまず人間なので、人間的な成長が音楽にも影響するんだなって」
森田 「僕は〈東京JAZZ〉の少し前にヨーロッパに行く機会があり、その時に
ドミニク・ディピアッツァというベーシストの個人レッスンを受けたんです。演奏技術はもちろんですが、一流の演奏家としての佇まいや空気感に感動しました。すごく穏やかで自分のペースを持っていて、器の大きさや包容力を感じました」
桑原 「それってストイックさの裏にあるやさしさだと思うんです。ただやさしいだけじゃなくて、ものすごい強さを秘めている」
――そういった経験が新作のどんなところにフィードバックされましたか?
桑原 「新作の〈A little weird〉って曲があって、この曲のレコーディングでソロを弾いたときに、“何かイメージと違う”って思ったんですよ。それで、他のブースで演奏している2人を見たら、初めて2人の気持ちがすごく伝わってきて。多分、今までは自分だけの世界を表現するのに精一杯で、今回初めてトリオとしてお互いに受け止められるようになった気がします。それは森田君も感じていることだと思います」
森田 「僕らの演奏って曲によっては、あらかじめ決まっているテーマ以外は、即興演奏だったりするんです。で、最高の演奏ができているなって思えるときは邪念がなくて、何も考えずに指が勝手に動くというか。そういう瞬間がこの曲にはありましたね」
――今回はアルバム全体のテーマよりも、個々の楽曲が先にあったようですね。
桑原 「アルバム・タイトルの“the Window”というのは最初から決まっていました。これから先に見たい世界がたくさんあること。それと、私たちトリオにとっても前向きな作品にしたくて。“window”って“開ける”ってイメージも強いんですけど、言葉自体の意味合いが抽象的過ぎて、まとまらなくなってしまって。普段、私は曲作りをする前に企画書を書くんですが、今回はそれができなくて曲を作り終えたあとに、企画書を書いてメンバーに渡しました」
森田 「僕は作曲段階から曲を聴かせてもらっていたので、イメージはついていたんですが、ドラムの
石若(駿)君は当日に企画書をもらう感じで。でも、彼は曲のつかみ方がすごくて、アルバムのリハは2日間深夜にやったんですが、それでしっかりとテイクを決めてくれました。彼はずっとフリー・ジャズのバンドもやっていて、即興の対応力にも長けているんですよ」
――今作のリズムが複雑だったり少し難解なのは、石若さんのドラムによる部分もあるんでしょうか?
桑原 「難解かどうかはまったく意識していなくて。ただ、フリー・ジャズに挑戦した〈Innocent reality〉のような曲は、石若君だから出来たものだと思います。今回は彼に“こんなドラムをたたいてほしい”って考えて作った曲もたくさんありました」
――今作の制作を振り返ってみてどうでしたか?
森田 「彼女が冷えピタを貼って、泣きながらピアノを弾いていたことが一番印象に残っていますね(笑)。さっき言っていた〈A little weird〉って曲のときの話ですけど」
桑原 「今思うとあの涙は何だったのかよく分からないんです(笑)。私としては今までで一番作曲に手こずったことかな。これまでは曲を作ってからは、プレイヤーに戻って演奏に臨んでいましたが、今回は最後まで作曲家の視点で、曲が望んでいる方向にいっているかをずっと考えていました。でも、それは自分がやりたかったことでもあったんです。だから、去年まで何か足りていないって感じていたことは、これなんだってことも分かりました。こうやって一つずつ成長していけたらよいなって思います」
2014年7月20日(日)東京 渋谷 Hakuju Hall〒151-0063 東京都渋谷区富ヶ谷1-37-5開場 13:00 / 開演 13:30
ご予約 3,500円 / 当日 4,000(税込 / 全席自由)※当日お並び順の入場となります[お申込み方法]
メールの件名を「7/20桑原あい」とし、本文に「お名前 / 住所 / 電話番号 / ご希望枚数」を明記の上「info@ewe.co.jp」までご送信ください。ご案内メールを返信させていただきます。
※受付期間: 2014年5月1日(木)〜7月14日(月)※お問い合わせ: East Works Entertainment inc.
03-5468-3801