11月6日に閉幕したアジア最大級の映画の祭典〈第37回東京国際映画祭〉のクロージングセレモニーが東京・有楽町のTOHOシネマズ日比谷にて開催され、
吉田大八監督の『敵』が東京グランプリ/最優秀男優賞/最優秀監督賞の主要三冠を受賞、主演の
長塚京三が映画祭史上最高齢で最優秀男優賞を受賞しました。
映画『敵』は、
筒井康隆の同名小説を『
桐島、部活やめるってよ』『
騙し絵の牙』の監督・吉田大八が映画化した作品で、2025年1月17日(金)より全国公開が決定しています。
主演は、『
ザ・中学教師』(92)で初主演を飾り、『
ひき逃げファミリー』(92)で第47回毎日映画コンクール男優主演賞、『
瀬戸内ムーンライト・セレナーデ』(97)で第21回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞するなど、1974年にフランスで俳優デビューしてから実に50年、名優として日本映画、ドラマ、舞台の歴史に名を刻んできた長塚京三。2013年公開の『ひまわり〜沖縄は忘れない あの日の空を〜』以来、12年ぶりの主演映画であり、“理想の上司像”の印象も強い長塚が、本作では元大学教授・渡辺儀助を演じ、人生の最期に向かって生きる人間の恐怖と喜び、おかしみを同時に表現します。また、清楚にして妖艶な魅力をもつ大学の教え子には
瀧内公美、亡くなってなお儀助の心を支配する妻役には黒沢あすか、バーで出会い儀助を翻弄する謎めいた大学生には
河合優実。そのほか
松尾諭、
松尾貴史、
カトウシンスケ、
中島歩ら実力派俳優陣が脇を固めます。
『敵』の映画化にあたり、日本文学界の巨人・筒井康隆は「すべてにわたり映像化不可能と思っていたものを、すべてにわたり映像化を実現していただけた」と絶賛。吉田監督は「自分自身、この先こういう映画は二度とつくれないと確信できるような映画になりました」と自身の新境地を見せています。
東京国際映画祭で、日本映画がグランプリを受賞したのは『雪に願うこと』(根岸吉太郎監督/05)以来19年ぶり。日本人俳優の最優秀男優賞の受賞も同作品で佐藤浩市が受賞して以来同じく19年ぶりとなり、更に長塚京三の79歳での最優秀男優賞受賞は、東京国際映画祭史上最高齢での受賞となります。このたび、クロージングセレモニーでの受賞発表と、その後、吉田監督と長塚京三を迎えての記者会見の模様を伝えるレポートも到着しています。
[第37回東京国際映画祭クロージングセレモニーのレポート] 東京国際映画祭で、日本映画がグランプリを受賞したのは『雪に願うこと』(根岸吉太郎監督/05)以来19年ぶり。日本人俳優の最優秀男優賞の受賞も同作品で佐藤浩市さんが受賞して以来同じく19年ぶりとなり、更に長塚京三さんの79歳での最優秀男優賞受賞は、東京国際映画祭史上最高齢での受賞となった。
最優秀男優賞の発表には、本映画祭のコンペティション部門の審査委員長を務めた、香港の俳優トニー・レオンさんがプレゼンターとして登壇。「スクリーンに登場したその瞬間から、その深み、迫真性で私たちを魅了しました」と絶賛の講評を述べ、壇上に登場した長塚さんにトロフィーを手渡した。長塚さんは、2日前の舞台挨拶から間もない発表だったことに触れ、「あまり急なことで、びっくりしてまごまごしています」とコメント。その上で「敵という映画に出させていただいて、これは歳をとってそしてひとりぼっちで助けもなく敵にとりこめられてしまうという話なんですけれども、結構味方もいるんじゃないかと気を強くした次第です。もうぼつぼつ引退かなと思っていた矢先だったので、うちの奥さんは大変がっかりするでしょうけど、もうちょっと、ここの世界でやってみようかなという気にもなりました」と作品に触れながら受賞の喜びを明かし「東京国際映画祭、ありがとう。味方でいてくれた皆さん、どうもありがとう」と観客に感謝を述べた。
続いて発表された最優秀監督賞を受賞した吉田監督は、『紙の月』(14)で宮沢りえさんが最優秀女優賞を受賞して以来の受賞となるが、今回は自身も最優秀監督賞を受賞。「この小さな映画を誕生から旅立ちまで見送ってくれている全てのスタッフ、俳優の皆さんに心から感謝します。まだ自分がいい監督かということに自信は持てませんが、間違い無く皆さんのおかげでこの映画はいい映画になったと思っています」と感謝と共に、本作への自信を滲ませた。
最後に発表された本映画祭の最高賞にあたる、東京グランプリ/東京都知事賞の発表では、再び審査委員長のトニー・レオンが壇上に登場。「本当にこの素晴らしい映画、心を打ちました。知性、ユーモアのセンス、人生の様々な疑問に我々は皆苦戦するのですが、本当に素晴らしいタッチで、シネマを感情的な形のものとして、全て完璧に仕上げたと思っております。エレガントで、新鮮な映画表現」と映画『敵』を絶賛した。再び長塚さんと舞台に登壇した吉田監督は、『敵』という作品名にかけて「味方も意外と多いと気づくことができてよかったです。僕も長塚さんも皆さんの敵であり、同時に味方でありたいと思っている」と話し、会場に向けて改めて感謝を伝えた。クロージングセレモニーの最後には、審査委員長のトニー・レオンが「全員一致で大好きな映画を見つけることができた」と話し、10月28日から10日間に渡って開催された、第37回東京国際映画祭を締めくくった。
その後行われた記者会見では、吉田監督と長塚京三さんが二人で登場。制作の経緯についての質問が出ると、吉田監督は「原作小説を30代のころに読んでいたが、読み直して30年前とは違う感覚を覚え、何かの形で吐き出せないかということで映画をつくった」と明かし、「撮影の中では苦労することはあったが、ものすごく楽しい映画作りの経験でした。またこのような華々しい機会にも恵まれ、やはり映画づくりってこういうことがあるから楽しいなと改めて思いました」と喜びを噛み締めた。
俳優人生50周年での今回の受賞について聞かれた長塚さんは「(今回の受賞に関して)全然そういう予測はつきませんでした。想像もつきませんでした」と予想外の受賞であったことを明かし、「(撮影では)ロケ地が遠かったので、朝早くから行って、帰るころには遅くなっている。毎日一日の撮影を終えることに精一杯。妻のサポートがあってこそです」と撮影を振り返った。
さらに、本作がモノクロ映画であることへの質問について吉田監督は「主人公が古い日本家屋に住んでいるので古い日本家屋をたくさん見ているうちにいつのまにかモノクロに影響されたようです。前半のストイックな主人公の生活を描くときに、モノクロの方がより抑制的なので良いと思いました。結果、モノクロにしたことで、カラーを観ているときよりもより注意深くみてくれる、つまり没入感が増す、ことに繋がりました」と明かした。
最後に、以前『紙の月』(14)で観客賞、主演の宮沢りえさんが最優秀女優賞を獲ったことから、東京国際映画祭で賞を獲るコツを聞かれた吉田監督は、賞を獲るコツはないと答えながら「ボクは映画を何で観に行くかというと“俳優”を観に行く。なので、僕の映画は“俳優”を観に来て欲しい。ですから俳優賞をいただけることは、ひとつ自分の想いが達成したという気持ちがすごく強い」と答えた。 ©2024 TIFF
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