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アフリカ系アメリカ人監督の知られざる傑作を上映する「アメリカ黒人映画傑作選」開催

2025/04/15 13:56掲載
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アフリカ系アメリカ人監督の知られざる傑作を上映する「アメリカ黒人映画傑作選」開催
 アフリカ系アメリカ人の監督による知られざる、衝撃の傑作三作品を上映する「アメリカ黒人映画傑作選」が、4月18日(金)から5月8日(木)の期間、東京・ヒューマントラストシネマ渋谷にて開催されます。

 上映されるのは、キャスリーン・コリンズ監督『ここではないどこかで』(84)、ビリー・ウッドベリー監督『小さな心に祝福を』(85)、ジュリー・ダッシュ監督『海から来た娘たち』(91)の3作。今回、公開に向けて、杏レラト、榎本空、押野素子、中村隆之からの推薦コメントが到着しています。

 創成期以来、白人中心の映画業界、ハリウッドのなかで、せまい固定観念や侮辱的なステレオタイプへ反発、人権の向上のために闘い続けてきたアフリカ系アメリカ人の映画監督たち。スパイク・リーや昨今ではジョーダン・ピールバリー・ジェンキンスなどの活躍もみられるものの、残念ながら映画史のなかで正当に評価、紹介されることのなかった「黒人映画」は少なくありません。今回、画一的な〈黒人映画〉のイメージを打ち破るような、市井の人々の営み、女性たちの眼差しや活き活きとした姿をとらえた、注目されるべき驚嘆の才能をもつ監督たちの知られざる三作品が上映。いずれも日本初の劇場公開とります(『海から来た娘たち』は1993年の「カネボウ国際女性週間」での上映および『自由への旅立ち』のタイトルでNHK衛星第2でオンエア済)。

 キャスリーン・コリンズ監督の『ここではないどこかで』は、製作当時は本国アメリカでも正式に公開されることはなかったものの、昨今評価の機運が高まっている珠玉作。画家の夫と過ごす夏のヴァカンスをとおして、自分のアイディンティティを見つめなおす哲学教授の女性を描いた物語で、エリック・ロメール作品を彷彿とさせるエレガントで知的な会話の数々や、カラフルなファッションや洒脱なインテリアも魅力のひとつ。主人公、サラを演じるのは『プリティ・ベビー』(78)やTVシリーズ『特捜刑事マイアミ・バイス』などにも出演した女優セレット・スコット。

 続く『小さな心に祝福を』はロサンゼルスに住む失業者の男とその家族の生活をモノクロ映像で丹念に描いた物語。経済的な困難、家族を維持すること、そして夫婦の問題という難しくも普遍的なテーマを、当時、新しいスタイルの映画づくりを目指した〈LAリベリオン〉の主要人物であったビリー・ウッドベリ―が監督、チャールズ・バーネットが脚本と撮影を担当して描きだします。

 三作目は2019年にイギリスBBCによる「女性監督による史上最高の映画」10位、2022年にSight & Sound誌の「史上最高の映画ベスト100」60位に選出された名作、ジュリー・ダッシュ監督の『海から来た娘たち』。奴隷解放後、20世紀初頭の大西洋沖の島を舞台に、異なる世代の女性たちが物語る歴史と誇り高い魂を描きあげた作品で、2016年にリリースされたビヨンセのアルバム『レモネード』が多大な影響を受けていることも話題に。詩情豊かな美しい映像を手がけるのは撮影監督・演出家として、スタンリー・キューブリックソランジュ、スパイク・リーなどとコラボレーションをおこなってきたアーサー・ジャファで、本作でサンダンス映画祭撮影賞を受賞しています。

 なお、ヒューマントラストシネマ渋谷ではトーク・イベントも開催。4月18日(金)『小さな心に祝福を』上映後には藤田正(音楽評論家)が登壇。4月20日(日)『ここではないどこかで』上映後には、斉藤綾子(明治学院大学教授)、4月26日(土)『海から来た娘たち』上映後は岡真理(早稲田大学文学学術員教授 / 現代アラブ文学)が登壇します。詳細は、ヒューマントラストシネマ渋谷のホームページをご確認ください。

[コメント]
LAの反逆者たちとNYブラックインディ。スパイク・リー出現前の70〜80年代の若き黒人映画人のムーブメント。多くがその名前や歴史を知らないのは、公開されることがなかったからだ。大手映画会社では叶わなかった自分たちの映画には、他とは違うアメリカ文化、歴史、民話、生きざま、音楽、芸術、性、女性の社会進出、社会への抵抗が前衛的かつ耽美的にフィルムに収められ、「自分たちの映画を作る」はスパイクらに引き継がれた。時に切なさといった共感を覚えるのは、人種・時を超えた普遍的ゆえ。日本での公開は奇跡であり、最高の喜び。
――杏レラト(黒人映画歴史家)

私はあなたが理解できない沈黙。
ブラック・シネマという系譜。人々が奴隷制の余生を生きるために、がんじがらめの生をよりよいものへと変えるために必要としたもう一つのイメージ。
物語は前触れもなく動き、時の流れを錯乱する。唐突にはじまるダンスに、出口のない言葉の応酬と諦めたような瞳に、己の傷を鎧へと変えようと呼びかける女の言葉に、四百年の歴史の隅々までが詰まっている。
ハッピーエンドはない。美しい生は一瞬の鮮明さのうちに捉えられ、刻々と配列を変えていく肉体の躍動のうちに見出される。誰もそんな物語の名前を知らない。
だから刮目せよ。その声に耳をすませ。イメージを肉体に刻め。

――榎本空(文筆家・翻訳家)

自立した黒人女性の葛藤がにじみ出る『ここではないどこかで』、不況に苦しむ庶民の生々しい姿を描いた『小さな心に祝福を』、アフロフューチャリズム作品のプロトタイプともいえる『海から来た娘たち』。いずれもタイプはまったく異なりますが、どれも心から「観てよかった」と思える発見に満ちた傑作です。個人的なお薦めは、『小さな心に祝福を』の夫婦喧嘩シーン。映画史上最高にリアルとも言えるやり取りの中で、黒人女性の健気さ、悲しさ、やるせなさ、さらにはユーモアまでもが、ありありと浮かび上がります。
――押野素子(黒人文学翻訳者)

「知られざる傑作」はいつでも存在する。大学で哲学を教える女性の一夏を通じて「愛とは何か」を知的かつエレガントに問い、観る者すら誘惑する『ここではないどこかで』。失業中の中年男性の家族の苦境と悲哀を、モノクロの映像でブルージーに唄い続ける『小さな心に祝福を』。奴隷制の壮絶な過去を生き延びてきた家族の迫り来る生き別れを女性たちの視点から語る、黒人映画の不朽の叙事詩『海から来た娘たち』。ブラック・ディアスポラ文化に関心のある方は、次があるか分からないこの機会を絶対に見逃さないでほしい。
――中村隆之(早稲田大学/環大西洋文化研究)


[作品概要]
『ここではないどこかで』Losing Ground 
監督・脚本:キャスリーン・コリンズ 出演:セレット・スコット、ビル・ガン
1982年 / カラー /アメリカ /86分
©1982 Kathleen Collins, Courtesy of Milestone Films and the Kathleen Collins Estate
大学で哲学を教えるサラは、画家の夫ヴィクターとニューヨークに住んでいる。夏の間、リゾート地で創作活動に専念したいと言い出すヴィクターに対し、論文執筆のため街に残りたいサラだったが渋々付き合うことに。しかしヴィクターは現地の女性にちょっかいを出し、サラは腹いせに教え子から頼まれていた自主映画への出演を決めてしまう。アフリカ系女性監督による最初期の長編映画。正式公開には至らず、製作から6年後に監督のキャスリーン・コリンズは逝去。2015年に修復され上映を果たし、映画評論家のリチャード・ブロディが「ニューヨーカー」誌で「この映画が当時広く公開されていたら、映画史に名を刻んでいただろう」と評するなど絶賛された。エリック・ロメールを思わせるような軽妙かつ洗練された語り口で、男女の機微を活き活きと描く。


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『小さな心に祝福を』Bless Their Little Hearts
監督:ビリー・ウッドベリー 出演:ネイト・ハードマン、ケイシー・ムーア
1984年 /モノクロ / アメリカ / 85分
©1983 Billy Woodberry, Courtesy of Milestone Films and Billy Woodberry
ロサンゼルスのワッツ地区で暮らす失業者チャーリーは3人の幼い子を養うため、職探しの毎日。日雇いの仕事にありつければまだマシな方、なかなか金を稼ぐ手立てが見つからない。妻のアンダイスは夫の不甲斐なさに半ば諦め顔、家計のやりくりに苦心しながら家事に忙殺されストレスがたまる一方。そんな中、チャーリーの浮気が発覚、ついにアンダイスの怒りが爆発する。貧困地帯を舞台に、黒人家族の過酷な日常を抑制の効いたモノクロ映像で丹念に追う。監督は〈L.A.リベリオン〉※の中心人物の一人、ビリー・ウッドベリー。脚本と撮影を“最も偉大な黒人監督”と評されるチャールズ・バーネットが手掛けている。Rotten Tomatoesで100%の支持率を獲得。10分近く長回しで捉えたキッチンでの夫婦喧嘩は壮絶の一言。


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『海から来た娘たち』Daughters of the Dust
監督・脚本:ジュリー・ダッシュ 出演:コーラ・リー・デイ、バーバラ・O・ジョーンズ
1991年/カラー/アメリカ/112分
Images Courtesy of Park Circus/The Cohen Film Collection
1902年、アメリカ大西洋沖シー諸島のある島。長年住んだ故郷を離れ、北への移住を決めたぺザント一族だったが、長老のナナは亡き夫が眠るこの地に残ると言い張る。それぞれの思惑が交錯する中、いよいよ島を出る時が来た。これから生まれてくる子供のモノローグで綴られる、ガラ族の女系家族の物語。虐げられても失わなかった高貴な魂と誇りを、詩的な映像美で高らかに謳いあげる。黒人女性監督による初めて公開された長編映画で、2016年にリリースされたビヨンセのアルバム『レモネード』が本作に多大な影響を受けていることから注目が集まり、2022年にはサイト&サウンド誌「史上最高の映画ベスト100」の60位に選出されるなど、今も語り継がれる名作。1991年のサンダンス映画祭で撮影賞を受賞。


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©1982 Kathleen Collins, Courtesy of Milestone Films and the Kathleen Collins Estate
©1983 Billy Woodberry, Courtesy of Milestone Films and Billy Woodberry
提供:マーメイドフィルム 配給:コピアポア・フィルム


「アメリカ黒人映画傑作選」
2025年4月18日(金)〜5月8日(木)
東京 ヒューマントラストシネマ渋谷にて開催
そのほか全国順次ロードショー
blackamericancinema.jp
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https://www.cdjournal.com/main/cdjpush/tamagawa-daifuku/2000000812
https://www.cdjournal.com/main/special/showa_shonen/798/f
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