夕食後、就寝前にリラックスしてくつろぐ“寝酒”の時間を意味するクラシック音楽のラウンジ・イベント“NIGHTCAP”の第1回目〈
THE NIGHTCAP WITH ARTISTS ALEXEI VOLODIN〉が、10月16日(水)に東京・代官山 蔦屋書店で開催されました。本イベントには、現代ロシアを代表するピアニスト、アレクセイ・ヴォロディン(Alexei Volodin)が登場し、トークや演奏を繰り広げました。
本イベントには、『東京ウォーカー』をはじめとする雑誌ウォーカーの総編集長を務めていた、現KADOKAWA·2021年室エグゼクティブ・プロデューサー担当部長の玉置泰紀がモデレーターとしてともに登壇。観衆の代表として素朴な疑問をヴォロディンに投げかけました。初めて日本を訪れた18年前と現在で日本の印象の変化についての質問には「変わったかという言い方をしてしまうと、プラスがマイナスになったり、その逆であったりするような感じを受けますが、そうではなく、印象が複合的(complex)なものになりました」と応じ、世界を股にかける旅続きの生活について尋ねると「旅は大好きなのですが、最近は長期的に家にいるのも良いのかなと思うようになりました。人間は自分が手に入れられないものに憧れるのが自然なのかもしれませんね」と答えるなど、ヴォロディン独自の視点を交えつつ真正面から回答。
10月21日(月)に東京・四ッ谷 紀尾井ホールで開かれる〈アレクセイ・ヴォロディン ピアノ・リサイタル〉のプログラム“Fairy Tales”については「私が演奏会のプログラムを組む際には、何らかのストーリー性を持たせるようにしていて、コンセプトを表すタイトルを付けています。そして、私のなかにひとつの大きなルールがあるのですが、それは“自分が大好きな曲しか演奏しない”ということ。今、自分の心があまり動かないものはプログラムに入れないのです」とコメント。今回のコンセプトの核になっているメトネルは、ロシア出身で、後にイギリスに移住した作曲家兼ピアニストです。メトネルの『おとぎ話集 Fairy Tales』は、本国ロシアでも知名度の低い作品で、この作品について「音楽が有名か無名かは自分にとって大事なことではありません。その音楽が魂に触れるかどうかだけが重要なのです。そんな言い方をするとプロフェッショナルっぽくないかもしれませんが、音楽をどう分析したとしても、その音楽が活きてこなければ何にもなりませんよね。私がメトネルの音楽に感じた情熱を、今度は聴きにきた皆さまに伝えたい。それがメトネルを取り上げる理由なのです」と語りました。
公演でメトネルに加えて演奏される、
チャイコフスキーの『眠れる森の美女』を
ミハイル・プレトニョフ(Mikhail Pletnev)が超絶技巧のピアノ曲として編み直したヴァージョンについては、「先ほどもお話ししたように私は大好きな曲しか弾かないのですが、そのなかで(皆さまにとってなじみの薄い)新しい音楽と、人気が高くてよく知られた音楽を組み合わせて紹介したいと思っています。とにかくコンサートは、来ていただいた方に楽しんでいただくというのがいちばん大事なことですから、新しい曲を知ってもらうというのはその次なのです。人々は自分の好きな曲を聴きたいから、音楽ホールまで出かけてきてくださるわけですよね。好きな曲だからこそその期待も高まるわけですし。だから、私は知られていない曲ばかりでプログラムを構成するのは、如何なものかと思っているのです」と心意気を述べました。
©Katsunori Abe