今年ソロ・デビュー15周年を迎え、伝統的な津軽三味線をベースに、ジャンルを超えたセッションを重ね進化を続ける三味線プレイヤーの
上妻宏光が、国内のトップアーティストを集結させたイベント〈日本流伝心祭 クサビ 其ノ四 -伝統と革新-〉を8月29日(土)東京・渋谷公会堂にて開催しました。「日本の文化や風土に立脚しながら、世界に通じる新しい価値観を発信したい」という上妻の想いに賛同したアーティストを集め2011年に立ちあがった“クサビ”は、開催4回目を数える今年も、例年に劣らない豪華なラインナップを揃え、満員御礼の公演となりました。
公演は静寂を打ち破るかのように上妻宏光と歌舞伎囃子方・田中傳次郎の2人による「大蛇」(おろち)で開演。この曲は昨年、
市川海老蔵の自主公演〈ABKAI 2014〉のために上妻が書き下ろした楽曲で、三味線と小鼓のコラボレーションに会場中が惹きこまれます。
その後、和装に着替えて登場した上妻は、フラメンコギタリスト・
沖 仁とのジャンルを越えたコラボによる「卯月花嵐」(うげつはなあらし)を披露。東西の撥弦楽器が出会い、それぞれの違いと共通性を浮き彫りにし、ぶつかり合うさまは圧巻です。
さらに、真っ赤なきらびやかなドレスに身を包んだ
由紀さおりがステージへ。上妻との交流について由紀さおりは「もともとラジオで上妻さんのアルバムを紹介してからお友達になりました。このあと登場する
(市川)猿之助さんのプロデュース公演でコンサートを行った際に猿之助さんに三味線で一緒に歌わせて欲しいという希望をかなえていただいたのが縁で以前に共演もしました」と語ります。そして、
ピンク・マルティーニとコラボし大きな話題となった2011年発売のアルバム
『1969』収録の「マシュ・ケ・ナダ」を披露。続いて上妻の最新アルバム
『伝統と革新-起-』にボーナストラックとして収録されている
美空ひばりのカヴァー「リンゴ追分」を披露しました。昭和が誇る大歌手へのリスペクトを感じさせながらも、上妻の勢いのある三味線の音色と由紀の透明感のあるボーカルにより、まさに伝統と革新のふたつの要素が封じ込まれた「りんご追分」となっており、会場一体が惹きこまれました。
和太鼓の第一人者、
林 英哲と、上妻、沖 仁のトリオによる「YOSARE」は、豪放な和太鼓のリズムと、三味線、フラメンコギターによるまさに異種格闘技のセッションで、筋書き無しの一本勝負の様相を呈した熱いステージに観客の熱は最高潮に。
そんななか、いよいよ後半のクライマックスに差し掛かったところで市川猿之助が登場。歌舞伎の演目「春興鏡獅子」にインスパイアされて制作された上妻の楽曲「荒獅子」を、市川猿之助の“獅子の舞”と共に披露するコラボレーションを行ないます。獅子の姿に身を包んだ猿之助が登場すると会場は沸きに沸き、その後は上妻、そして林英哲の和太鼓、さらに、田中傳次郎率いる囃子方による、圧倒的な熱を帯びた演奏が繰り広げられ、猿之助のパフォーマンスと一体化。
上妻がプロデュースする“クサビ”の本質がここで最高のかたちで提示されました。
伝統に根ざしながら、新たなカルチャーやジャンルを取り入れ飲み込む蛮勇を持ちつつ、聴衆を自然と熱狂させるエンターテイメント性も忘れないという離れ業。それをオーガナイズする上妻の発信力をまざまざと見せつけた一夜となりました。