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Buffalo Daughter、新作を携えたツアーがスタート ライヴ・レポート公開

Buffalo Daughter   2022/02/08掲載(Last Update:22/02/09 18:15)
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Buffalo Daughter、新作を携えたツアーがスタート ライヴ・レポート公開
 2021年9月に7年ぶりのアルバム『We Are The Times』を発表したBuffalo Daughterが、1月28日(金)の東京・恵比寿 LIQUIDROOM公演を皮切りに、新作を携えたライブ・ツアー〈We Are The Times Tour〉をスタートさせました。東京公演のダイジェスト映像が公開中。今後の公演は、2月23日(水・祝)愛知・名古屋 TOKUZO、2月25日(金)京都・MUSE、2月26日(土)岡山・YEBISU YA PRO、2月27日(日)大阪・心斎橋ANIMAです。

 音楽評論家・小野島大によるLIQUIDROOM公演のオフィシャル・ライブ・レポートが公開されています。

[ライヴ・レポート]
 去る1月28日、バッファロー・ドーター8枚目のアルバム『We Are The Times』のリリース・ツアー『We Are The Times Tour 2022』初日の東京・恵比寿リキッドルーム公演が行われた。COVID-19オミクロン株の急拡大に伴う東京都の「まん延防止等重点措置」の時短要請に伴い、直前になって開場・開演時間が前倒しに変更になるなど、混乱のさ中での開催になったのは、結果として混沌とした世界の様相を、シビアな時代の深層を切り取った『We Are The Times』というアルバムのツアーにふさわしい幕開けだった……と言えなくもない。

 そしてライヴの中身もまた、『We Are The Times』のテーマを厳しく、妥協なく具現化したものだった。新作のリリース・ツアーであり、演奏曲目が『We Are The Times』収録曲を中心としたメニューとなるのは当然の話だが、合間にプレイされる旧曲もすべて『We Are The Times』のテーマやコンセプトにふさわしいものが選ばれ、ふさわしいものとして改変され、そして的確に演奏されて、ライヴ全体が『We Are The Times』の世界観を構成するように緻密に組み立てられていた。いつもはあまり演奏されることのないナンバーも多く選ばれていたが、それらは驚くほど『We Are The Times』の作り出す流れに合致していた。全体にかなりハードでフィジカルな実体感を感じさせるライヴだったが、私の知る限り、たとえ新作のリリース・ライヴであっても、バッファローがここまでコンセプトを決め込んだショウをすることはあまりない。いつも彼らの多面性や多様性、柔軟性を表すようなバラエティに富んだ楽曲とサウンドで構成されることが多かっただけに、今回のライヴは彼らの表現したいものがかつてなく明確であることを感じさせた。おそらくはそうならざるをえない切迫した状況が2022年という現在であり、だからこそ今回のライヴはいつもとは異なる緊張感に貫かれていたように思う。

 新作のオープニング・ナンバーでもある「Music」が今回のライヴでも一曲目にプレイされた。“音楽はビタミン / ありがとう音楽”とアカペラで歌われる柔らかいヴォーカルとシンプルなサウンドはバッファローの提示する世界への入り口であり、そこから『The Weapons of Math Destruction』(2010)の2曲が続けてプレイされ、ライヴは一転してハードでアグレッシヴな音像に急展開していく。この選曲は意表を突かれたが、しかし同作が『We Are The Times』同様にハードな社会的視座とポスト・パンクに通じるストイックで硬質なサウンドを持った作品であったことを考えれば、彼らの一貫した思想と姿勢がうかがえる選曲として当然と思える。ファンキーかつムチのように切れ味のいい演奏と、曖昧さのないシャープで硬質な音響が相乗しておそろしくカッティング・エッジなサウンドだ。大野由美子の弾く分厚いシンセベースと松下敦のドラムスのコンビネーションがダイナミックに演奏を推進し、シュガー吉永のギターは鉄が軋むようなピリピリした生々しさで鳴って、山本ムーグの耳障りなスクラッチ・ノイズが脳髄を刺激する。とりわけ松下のパワフルかつ的確なプレイはバンドの土台を支えるのみならず力強く前へと押し進める原動力となっている感があった。また曲によってはかなり音数の多い入り組んだアレンジも聴けるが、サポートで参加している奥村タケルの存在は大きいと感じる。バンド全員が余裕をもってプレイしているのがわかるのだ。

 前半のアグレッシヴな流れは新作からの「Global Warming Kills Us All」を境にディープでサイケデリックなものへと変化するが、全体を貫くハードな流れは変わらない。それはバッファローが捉えた世界の現実そのものなのだろう。照明と10本のLEDが明滅するだけで、映像も使われないシンプルな演出は、だからこそ彼らの意図を的確にサポートしていた。

 『Captain Vapour Athletes』(1996)『New Rock』(1998)といった初期アルバムからも演奏されたが、よくあるファンサービス的なノスタルジーは一切なく、現在の表現として研ぎ澄まされていた。さんざん聴きまくって味わい尽くしたはずの古い楽曲がこれほどまでに刺激的に聴こえるのは、全体の『We Are The Times』という世界観の中にしっかり組み込まれているからにほかならない。

 クライマックスはDMBQのカヴァー「No Things」(DMBQと相互の楽曲をカヴァーしたスプリット・シングルより)を経ての『We Are The Times』収録の3曲。

 「ET(Densha)」は、黒川良一による強烈なPVが大きな話題になったが、ライヴでは映像は一切使わず、音源よりもさらにディープでドープなダーク・アンビエント・サウンドを展開する。そして「私たちが時代」とマニフェストする「Times」で、ライヴ本編は終了した。

 張り詰めた空気はアンコールを経て多少華やいだ雰囲気となり、最後に演奏された曲(あえてタイトルは伏せる)で、ようやく『We Are The Times』の世界は終わりを迎える。怒りと絶望が支配する現在の社会を音楽でもって突破する。音楽というビタミンさえあれば、ニュートラルな心を取り戻すことができる。彼らが伝えようとしていたのはハードな世界を生き抜くための音楽という夢の力であり、私たちはコンサートが終わって現実に引き戻されるのではなく、むしろ現実を生き抜くエネルギーを得たのだった。


――小野島 大


Photo: Ryo Mitamura

Buffalo Daughter official site
buffalodaughter.com
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