フォンテインズD.C.の通算3度目となる来日公演が、2月21日(金)大阪、2月23日(日)東京にて開催されました。23日東京公演では、昨年リリースされた最新アルバム『Romance』収録曲や、『Dogrel』や『A Hero’s Death』に収録された初期曲も披露。さらに、MVが公開されたばかりの新曲「It's Amazing To Be Young」も世界初披露され、会場は嵐のような歓声に包まれました。
出音は圧倒的にヘヴィで高密度だが、その重みに押し潰されることのないしなやかなグルーヴ、コンプレッサーにかけたようなタフな音塊をあっさり切り裂くシャープネス、ゴシックな構築性と裏腹の甘やかな叙情……と、ギター・ロックが持つあらゆる快感が次々に押し寄せてくる興奮に、超満員の会場はのっけからヒートアップ!「Jackie Down The Line」ではギターソロで歓声が上がり、「Death Kink」のような非シングル曲ですら爆音でシンガロングが起こるなど、この日を待ち侘びていたオーディエンスの熱狂もまた過去とは桁違いだ。
グリアン(vo)曰く『Romance』はライブでの再現性を度外視して制作したアルバムであり、だからこそ彼らは同作を冠したツアーでバンド・フォーミュラを大きく変え、ギター・バンドとしての純潔主義に別れを告げる必要があった。キーボードをサポートに迎えたことに加えて、個々のメンバーも大きく役割を拡張していた。かつては垂直にザクザク刻んでいたコナー(g)のギターはエフェクターを駆使してドライブ感を増し(彼が弾く「Here's The Thing」のイントロはこの日一番の落雷ポイント!)、カルロス(g)はほぼマルチプレイヤーと化して音響の実験を繰り広げ、グリアンがアコギを手にしてバンド・アンサンブルに加わる一方で、他メンバーはコーラスを積極的に担うようになった。ギターをアンプ直差しで掻き鳴らしていた初期の彼らのミニマリズムが嘘のように、マキシマムなパフォーマンスだ。「Sundowner」や「Horseness Is The Whatness」といった途方もないスケール感を持つエクスペリメンタル・チューンがもたらす陶酔は、そんな彼らの現在地を象徴するものだったと思う。
フォンテインズは土台となるポスト・パンクにシューゲイズ、ネオ・サイケデリック、ラウド・ロック……と、アルバム毎に新たな要素を肉付けしていったバンドであり、故に彼らのサウンドの過剰は最新作『Romance』で極まっている。しかし、その肉付けがあくまで贅肉ではなく筋肉として行われたことは、4人のストリングスが錯綜しつつも全く濁らずクリーンに響く「Favourite」にも明らかだった。彼らがいかにサウンドバランスとダイナミクスに気を配っているかが伺えたし、『Dogrel』や『A Hero’s Death』の初期曲もそんな『Romance』モードに引き上げられ、意外なほどカラフルに響いていたのも印象的だった。フォンテインズD.C.がこれほどまでにアイコニックなバンドとなったのは、単に曲の良さやテクニカル面での成長だけに起因するものではない。新作で大胆なイメージ・チェンジを果たした5人の佇まいが醸し出す、ロック・バンドとしての爛れるような色気や、愛と喪失を巡るディストピアをアルバム丸々使って描くハードな構築性、アルバムを「ロマンス」と名付けてしまう文字通りロマンティックな性質、そのロマンティシズムを文学へと昇華した歌詞etc.、それら全てが噛み合った場所に立つバンドであるからこそ、フォンテインズD.C.は特別なのだと、演奏から照明から彼らのコスチュームから何まで、『Romance』の世界観で徹底されたこの日のステージは物語っていた。ディーゴ(b)曰くそんな『Romance』の世界観に少なからず日本が、特に東京の街がインスピレーションを与えたのは私たちにとっても嬉しいことだし、新曲の「It's Amazing To Be Young」がこの日、世界初披露されたのもTPOとして必然だったのかもしれない。
「In The Modern World」で幕開けたアンコールは、グリアンの歌声の素晴らしさに改めて唸ってしまったセクションで、「I Love You」は彼が歌わなければこれほどカタルシスティックな曲にはなっていなかったはず。殆どノンブレスで同曲の最終コーナーを歌い切った彼の声に酔いしれる寸暇の余韻も掻き消すように雪崩れ込む最終曲は、もちろん「Starburster」だ。フォンテインズの最新最強のアンセムにして、昨年のロック・シーンを代表するこの曲の元でバンドとオーディエンスがグニャグニャに溶け合い、灼熱のマグマとなって噴出したフィナーレは、私たちが今、新たな伝説のバンドの誕生に立ち会っていることを確信させてくれるものだったはずだ。