東京拠点のプログレッシヴロック・バンド、
金属恵比須が、3月15日(土)に東京・吉祥寺・シルヴァーエレファントにて〈猟奇爛漫FEST Vol.7〉を開催しました。完売御礼となったこの日は、2023年後半〜2024にかけて不在だったキーボーディストに迎えた春木香珀のライヴ初お披露目のステージ。
ヴァイオリニストでもある春木がその腕前を披露した「誘蛾灯」をはじめ、春木の提案も取り入れた新アレンジの楽曲群を、隙のない高密度の演奏で披露した本公演。今回、昨年8月の〈邪神“大和田千弘”覚醒〉に続き、バンドリーダーの高木大地(g,vo)自らがライヴを振り返り“金属恵比須の新陳代謝”を語るレポートが到着。新布陣で披露した楽曲の背景や恒例の“猟奇爛漫体操”の元ネタ、“楽屋裏ではそんなことが…”ということまでを明かしているほか、公演を終えたメンバーの感想もインタヴューしています。
なお、金属恵比須は8月30日(土)に、
頭脳警察〜
人間椅子〜
ジェラルド〜
Damian Hamada's Creaturesという錚々たる経歴を持つ重鎮ドラマー、
後藤マスヒロの還暦を祝う〈後藤マスヒロ還暦記念ライヴ〉を東京・高円寺HIGHにて開催。「松・限定鑑賞券」「竹・自由席」は早くも完売したものの、「梅・立見」は発売中です。詳細は金属恵比須の公式サイトをご確認ください。
[ライヴ・レポート] バンドはナマモノ。ビートルズやレッド・ツェッペリンのように不変の編成が価値のバンドもあるが、一方イエスやユーライア・ヒープのようにメンバーチェンジを繰り返して進化するバンドもある。新陳代謝こそがバンドの成長の糧なのだ。
金属恵比須はおそらく後者のタイプのバンドだ。2025年で結成34年。2023年にベースの栗谷秀貴とキーボードの宮嶋健一が脱退。ベースには20代の埜咲ロクロウが加入したものの、キーボーディストは空白のままだった。2024年にはゲストをお招きしてライヴ活動を行ない、ライヴ・アルバム『邪神〈ライヴ〉覚醒』にパッケージングし発表。ゲストは伝説的プログレ・バンド“プロビデンス”のリーダーで那由他計画を主宰する塚田円と、アヴァン・プログレ・バンド“烏頭”を主催するピアニスト大和田千弘だった。
二人をお招きしたのにはバンドとしての理由がある。前任が10年在籍しており、金属恵比須のキーボード・プレイのイメージの固定化を危惧した。まだ見ぬ新任キーボーディストがそれにとらわれないようにと、あえて2人の個性的ミュージシャンをお呼びして自由な解釈での“脱構築”をしていただいたのだ。金属恵比須は本来自由なものである、ということを示したかった。
2024年8月20日、加入して1年にも満たない埜咲が人事部長として奮闘し、春木香珀のスカウトをし、キーボーディストの座に着くこととなった。バイオリンも達者で、金属恵比須初のバイオリンの導入ともなる。
かくして新たな布陣で2025年3月15日、プログレの殿堂である吉祥寺シルバーエレファントにおいて「猟奇爛漫FEST Vol.7」を催した。7ヵ月ぶりのライヴということでチケットは早々にソールドアウト。
会場は鮨詰めの中、開演前に筆者による前説からステージは始まる。メンバー自身が注意事項を説明というロックの必須要素「カリスマ性」の片鱗もないオープニングである。
その後ステージは暗転し、「映画『八つ墓村』より『呪われた地の終焉』」(芥川也寸志作曲、オーケストラ・トリプティーク演奏)が流れ、メンバーが登場。1曲目「阿修羅のごとく」で幕を開ける。埜咲加入後初の演奏なのだが、埜咲自身演奏してみたかった曲のひとつのようで、リハーサルでもかなり入念にアレンジについて話し合った。続く「誘蛾灯」では春木が早速バイオリンを披露。ジプシー音楽の様相が出て妖しさ満点、新境地が見えた。続いて新曲を披露。「怪獣総進撃の歌(仮)」の歌詞はできておらず前代未聞のスキャットによる対応。後藤マスヒロのツボを得たドラミングがテンションを上げる。
MCを挟み、6年ぶりに演奏する「真珠郎」は、横溝正史の隠れた推理怪奇小説をモチーフにしたもの。春木の提案で再びバイオリンを持ち、真珠郎の物悲しさを表現。続いて代表曲「ハリガネムシ」では埜咲による若々しいベースソロを披露し、「武田家滅亡」に。続く「鏡の中の女」も横溝正史の小説がモチーフで名探偵・金田一耕助が登場する。銀座が舞台ゆえにピアノでエレガントなアレンジを所望したら見事に春木が応えてくれた。
「魔少女A」を経て「邪神覚醒」に。前任キーボーディストの宮嶋最後のレコーディング作品で、その後は塚田と大和田がそれぞれ個性的なアレンジで披露されていた曲だ。果たして新任の春木がどう表現するのか。ピアノとオルガンをバランスよく使い分け、先人への敬意を表しつつも、クラシックや現代音楽の強要を感じさせるインテリジェントなアレンジとなった。
そして本編最後はお馴染み「猟奇爛漫」。途中で曲を止め、ドラムのリズムに合わせてお客様とメンバー全員で「猟奇爛漫体操」の練習をする。両手を上げながらブランブランとさせて「リョーキランマン、リョーキランマン」と唱える不思議な体操。実はこれには元ネタがある。2003年、シルバーエレファントで対バンをした“カラフルシューズ”というバンドがやっていた「元気満タン体操」というのを参考にした。「元気満タン」を金属恵比須で置き換えるとどんな言葉になるだろうと考案したのが「猟奇爛漫」という言葉だった。奇しくも公演前週にシルエレでカラフルシューズがライヴを催していたのを知り、ああ、シルエレの沼に浸かっているのだなと実感。
「猟奇爛漫体操」によりお客様の「猟奇」をチャージしたところで本編終了。アンコールへとなだれ込む。ヴォーカルの稲益宏美の顔に傷が? メイクスタッフがサプライズで考えたサプライズで、稲益自身も知らなかった特殊メイクだったらしい。
一緒に楽屋にいた筆者は、「レッド・ツェッペリンのように楽屋で喧嘩したことにしよう」とロックの文脈のストーリーを即座に考えたのだが、稲益は拒否。
ステージに戻り発した言葉は、「イタコにされた〜」。意味がわからない。それに後藤マスヒロが乗って、どこかのバンドで聞いたようなフレーズを。「お前もイタコにしてやろうか」。会場は困惑と爆笑の渦。当然の如く「イタコ」を披露した。
そしてアンコールは続く。締めはキング・クリムゾン「太陽と戦慄パートII」。6年ぶりのカバーである。バイオリンが達者な春木を擁したらやらざるを得ない選曲。お客様も最高潮となりライヴは終了した。笑顔で会場をあとにするお客様を見て、新生・金属恵比須を受け入れてくれたのだと安堵する。
ほっとして家に帰って顔を触るとフキデモノが。なぜかを調べると代謝が悪く加齢が原因とのこと。バンドの新陳代謝は成功したが、個人の代謝は低下しているようで。「猟奇爛漫体操」を本気でやろうかな。金属恵比須・高木大地[メンバーへのインタビュー]とにかく様々なことが初めて尽くし。だから逆に余計なことは考えなかったのでマイナスな緊張はしませんでした。メンバーの顔を見て安心できたのも大きかったですね。これまでの方々のアレンジ解釈を汲み取りながら、自分なりに今自分が持っている最大限を出そうと集中していて、結構“ゾーン”みたいなものに入れた気がします。ステージングの面で、もっとお客様に直接訴えかけられるような演奏ができたらなと思っています。――春木香珀(key,vln)春木の加入により若返ったバンド。自分も刺激されて、演奏のアプローチが変化していくのを実感できた実りあるコンサートでした。真の意味で“プログレッシヴ”な金属恵比須、まだまだ進化が止まらないぞ!――後藤マスヒロ(ds)春木加入初のライヴにもかかわらず堂々たるプレイ! 大いに刺激を受け、バンドも活性化しました。ハプニングあり、笑いありの展開でライヴも大盛り上がり。変化の中で“プログレス”しながら充実した活動ができるのは幸運の極み。これからの金属恵比須にもご期待ください!――稲益宏美(vo)研究者精神と野心と音楽への愛に溢れた春木の演奏は、金属恵比須の音楽性と相性抜群。ようやくその感覚を皆さんと共有できました。比較的近い年齢の逸材が仲間入りし、自分も負けていられないなという思いを演奏に込めました。――埜咲ロクロウ(b)撮影:木村篤志