2021年の大晦日公演を最後に活動休止期間に入っていた5人組ロック・バンド、
lynch.が、11月23日に復活を飾る東京・日本武道館公演〈“THE FATAL HOUR HAS COME”AT日本武道館〉を開催しました。
lynch.は、初期楽曲「melt」や「
ADORE」をはじめ、過去さまざまな時代の楽曲を盛り込み、2度に及ぶアンコールでの7曲を含め、総計29曲を披露。lynch.史上最高動員を記録した、ファンとの“約束の地”である初の武道館公演は大盛況のうちに終幕しました。
また、終演後にはスクリーン上で、大晦日に18周年記念公演〈THE IDEAL〉が開催されることと、2023年春にニュー・アルバムをリリース、それに伴うツアー実施することも発表されました。
[ライヴレポート] それは夢が現実となり、新たな希望が生まれた瞬間だった。11月23日、lynch.は『“THE FATAL HOUR HAS COME”AT日本武道館』と題された公演を実施。それは彼らにとって初の武道館公演であるのみならず、2021年の大晦日公演を最後に一時的な活動休止期間に入っていた彼らにとっての復活の舞台。この日の東京はあいにくの雨に見舞われ冬の到来を実感させる寒さだったが、この約束の地での活動再開を待ち焦がれた熱心なファンが各地から集結し、lynch.史上最高動員を記録する結果となった。
場内は開演定刻の午後5時を10分ほど過ぎた頃に暗転。18年に及ぶ今日までの歴史がコンパクトに纏められた映像に続いて鳴り響いたオープニングSEは“AVANTGARDE”。背景のスクリーンにはlynch.の巨大なロゴが浮かび、けたたましいほどの手拍子が自然発生する。まばゆい光を放つステージ上、玲央(g)、晁直(ds)、明徳(b)、悠介(g)がそれぞれの配置に就き、葉月(vo)がゆっくりと中央に歩み出て両腕を左右に広げてみせる。その姿はまさに、客席から発されているすべての熱を体感しているかのようだった。
次の瞬間に聴こえてきたのはピアノの響き。記念すべき初の武道館公演の幕開けを飾ったのは“LAST NITE”だった。黒衣に身を包んだメンバーたちの奏でる整合感のある轟音に、葉月の艶めかしい歌声が絡んでいく。そしてこの曲を丁寧に歌い終えると、彼は「行くぞ、武道館!処刑台へようこそ!」とオーディエンスに宣告。曲は次なる“GALLOWS”へと雪崩れ込んでいく。観客はいまだにマスクの常時着用を求められ、大声を出すことは禁じられている状態にある。しかしそれでも場内は確実に一体感に包まれていた。
以降も彼らは、lynch.なりの緩急を設けながらもスピード感を損なうことなく、次々と楽曲を繰り出してくる。結果的にその演奏曲数は、二度に及ぶアンコールでの7曲を含めて総計29曲となり、ライヴ自体も3時間20分に及ぶものとなった。活動休止明けであるだけに、今回の公演は新譜リリースの伴うものではないし、いわゆる新曲披露を目玉とするものでもない。だが、彼らにはこの機会に演奏した曲が山ほどあった。中盤で初期楽曲の“melt”を披露する際、葉月は、当時21歳だった彼にはその世界が表現しきれなかったと言い、「この曲を武道館まで連れてきた」と語った。その言葉が象徴するように、彼らには「武道館を体験させたい曲」がたくさんあったのだ。
だからこそ今回の演奏プログラムは、過去さまざまな時代の楽曲が盛り込まれたものになっていた。ただ、単なる総括に終わっていたわけではない。最初のアンコールの締め括りに“EUREKA”が組み込まれていたこともそれを物語っていた。アルキメデスが発したとされる、何かを発明・発見した際の歓喜の言葉がそのままタイトルに冠されているこの楽曲について、葉月は「この曲ができた時から、(この場所で)ずっとやりたかった」と語っていた。高い天井に向けて希望の光を放つようなこの曲は、まさしくバンドが新たな境地に達した喜びを示しているように感じられたし、彼自身、この場でそれをオーディエンスと共有することを待ち望んできたのだろう。
ただ、その“EUREKA”をもってしても初の武道館公演が完結することはなかった。改めてのアンコールで炸裂したのは“ADORE”と“A GLEAM IN EYE”という、lynch.の歴史を見守り続けてきた2曲だった。バンド側ももちろんだが、ファンもこれらの曲を聴かずしてこの夜を終えることはできなかったはずだ。そうした楽曲たちが武道館という聖地での初めての演奏機会を経たことで、バンドは次の段階へと歩みを進めることができ、各楽曲も経験値を増してアップデートされることになるのだろう。
ステージ上でメンバーたちが発した言葉にも印象深いものがあった。ことにリーダーであり最年長メンバーである玲央がこの日を無事に迎えられた安堵の言葉を男泣き寸前の表情で発し、「みんなを武道館に連れて行きたいとずっと思っていたが、みんなに連れて来てもらった」と語った際にはもらい泣きしたファンも少なくなかったことだろう。明徳が敢えて過去の不祥事について触れながら、それによって当時決まっていた武道館公演ができなくなったというこれまで表沙汰になっていなかった話を明かし、一時的にバンドを離脱していた彼を改めて迎え入れたメンバー、スタッフや仲間たちに対して改めての感謝の言葉を述べた際についても同じことが言えるだろう。
lynch.はその一件により武道館公演実現の最初のチャンスを逸し、二度目の機会はコロナ禍に邪魔されることになった。それが今回ようやく実現に至ったわけだが、こうした紆余曲折もまた、彼らに遠回りをさせることになった。ただ、この日のステージを持って彼らは間違いなく何かを発見したはずだし、それはバンドのこれからの歩みのあり方にも少なからず影響をもたらすことになるだろう。もちろんポジティヴな影響だけを。
終演後にはスクリーン上で、大晦日に18周年記念公演『THE IDEAL』が開催されること、また、2023年春のニュー・アルバム発売とそれに伴うツアー実施が発表された。lynch.が敢えて活動休止期間を設け、改めて自己再確認を経たうえで臨んだ今回の初武道館公演。それが彼らにもたらしたものの正体がそこで明かされることになる。ステージ上では葉月が達磨に目を入れるという象徴的な場面もあったが(念願だったZEPPツアーが初めて実現した2013年末にファンからもらった達磨に目を入れ、その時点から彼は武道館公演を目標に掲げた新たな達磨を持ち続けてきた)、彼らが次にクリアしなければならないのは、日本武道館という約束の場所に帰還を果たすことだろう。そして、それがそう遠くない未来に実現することを、このライヴの目撃者となったすべての人たちが確信したに違いない。![拡大表示](https://www.cdjournal.com/image/jacket/100/Z3/Z348003745.jpg)
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文: 増田勇一
撮影: 江隈麗志