第72回ベルリン国際映画祭ほか21の映画祭に出品され、世界が熱視線を送る
三宅唱監督の最新作『ケイコ 目を澄ませて』が東京・テアトル新宿ほかにて大ヒット上映中。この度、メイキング映像が初公開されています。
本作は、聴覚障害と向き合いながら実際にプロボクサーとしてリングに立った小笠原恵子をモデルに、彼女の生き方に着想を得て、『
きみの鳥はうたえる』の三宅唱が新たに生み出した物語。ゴングの音もセコンドの指示もレフリーの声も聞こえない中、じっと〈目を澄ませて〉闘うケイコの姿を、秀でた才能を持つ主人公としてではなく、不安や迷い、喜びや情熱など様々な感情の間で揺れ動きながらも一歩ずつ確実に歩みを進める等身大の一人の女性として描き、彼女の心のざわめきを16mmフィルムで捉えました。
2月に開催されたベルリン国際映画祭でプレミア上映されると「すべての瞬間が心に響く」「間違いなく一見の価値あり」と熱い賛辞が次々に贈られ、その後も数多くの国際映画祭での上映が続いています。主人公・ケイコを演じた
岸井ゆきのは、厳しいトレーニングを重ねて撮影に臨み、新境地を切り開きます。そして、ケイコの実直さを誰よりも認め見守るジムの会長に、日本映画界を牽引する
三浦友和。その他、
三浦誠己、
松浦慎一郎、佐藤緋美、
中島ひろ子、
仙道敦子など実力派キャストが脇を固めます。ケイコの心の迷いやひたむきさ、そして美しさ。全てを内包した彼女の瞳を見つめているうちに、自然と涙が込み上げてきます。
この度、本作のメイキング映像が初公開となりました。公開されたのは予告でも一部使用している、ケイコと会長が鏡越しに並んでシャドーボクシングをする本作の中でも最も印象的だと多くの感想が寄せられている1シーン。本作はケイコがプロボクサーになって第2戦に勝利してから第3戦までの間の心の移り変わりを描いていて、ボクシングをこのまま続けるのか、あるいは辞めるのかという葛藤が映し出されます。劇中では「一度お休みしたいです」と書きとめた手紙をなかなか渡せず一度はジムを飛び出すも、踵を返しジムへ後戻りするケイコの姿が描かれます。そしてメイキングが捉えるのはその後のジムの中での出来事。鏡越しにケイコと会長が並び、会長の動きをみて、真似をするケイコ。心の移り変わりやジムの閉鎖を巡って、距離が出来てしまったケイコと会長が再び心を通わせていくシーンです。相手と同じ動作をする中で、お互いを感じていきます。ケイコと会長の間にある特別な信頼関係を、2人の全身の動きを捉えることで表現しました。
三宅監督は、撮影現場について「全員が岸井さんを真剣にみつめ、吸い寄せられ、また引っ張られるようにして1ショット1ショットを丁寧に積み重ねていくという現場でした。緊張感と、全員で一緒に物を作っているんだという興奮が混ざり、いい時間だったと思います。スタッフも全員マスクをしていますので、相手の目を互いにみてコミュニケーションを取る機会が増え、自然とグルーヴ感が生まれていったようにも思います」と語ります。監督もスタッフもその場にいた全員が、「ケイコの瞳」、そしてその表情を見つめ、真剣に向き合ったからこそ生まれたシーンです。そしてシャドーしながら静かに涙するケイコを見つめる観客の目にもまた涙が零れ落ちていきます。
©2022 映画「ケイコ 目を澄ませて」製作委員会/COMME DES CINÉMAS