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ヨ・ラ・テンゴ、ジャパン・ツアー中に突如EPを発表 初日東京公演のレポートも到着

ヨ・ラ・テンゴ   2023/11/08 13:46掲載
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ヨ・ラ・テンゴ、ジャパン・ツアー中に突如EPを発表 初日東京公演のレポートも到着
 今年2月に4年ぶりのアルバム『This Stupid World』をリリースし、〈FUJI ROCK FESTIVAL’23〉にも出演、11月6日より開催中の東京、名古屋、大阪3都市を巡る単独来日公演は全公演すべて完売という快挙を成し遂げたヨ・ラ・テンゴ(YO LA TENGO)が、来日ツアー開催中の11月7日に、ブルックリン「ザ・バンカー・スタジオ」で演奏された5曲を収録したEP『The Bunker Session』を突如リリースしました。このEPには、『This Stupid World』の楽曲「Fallout」、「Sinatra Drive Breakdown」、「Aselestine」、「Apology Letter」と、1997年の『I Can Hear The Heart Beating As One』からのジェイムズ・マクニュー率いる名曲「Stockholm Syndrome」のライブ・パフォーマンスが収録されています。

 また、大盛況で幕を閉じた、初日の東京・恵比寿 THE GARDEN HALL公演のライヴレポートも公開されています。

[ライヴ・レポート]
※セットリスト、演出等のネタバレを含みます。

 その長いキャリアのなかで、ヨ・ラ・テンゴのベストセットというのはそのリスナーの数だけはあるだろう。7月のフジロック以来の来日公演、開放感あふれる野外フェスだけでなく、こうしたホール/ライヴハウスでのパフォーマンスも観逃すわけにはいかない。待ち望んだオーディエンスで埋まったガーデンホールのステージに、業界の慣習?に逆らい定刻きっかりに現れた3人。予告されていたように2部構成となる最初の「Quiet」セットは、アルバム『This Stupid World』と同じく「Sinatra Drive Breakdown」で幕を開けた。続いてジェイムズがヴォーカルをとるグレイトフル・デッドを思わせるコズミックな「Tonight's Episode」。気の遠くなるようなアイラのギター・ソロがフィーチャーされた「Swing for Life」のゆったりとしたグルーヴに、聴衆は身を任せ揺れている。内向的な主人公が自分の心のありかについて歌う「Last Days of Disco」からジョージアがヴォーカルをとる「Aselestine」への心安らぐ流れでは、じんわり染み入ってくるメランコリーとともに、ここにある包容力と肯定感はヨ・ラ・テンゴの魅力のおおきな部分であることを再確認する。

 万雷の喝采のなか「日本に戻ってこられて嬉しい。フジロックはとても素晴らしかったけれど、こういう場所でプレイするのも大好きなんだ」とアイラが挨拶する。「前の曲は最新アルバムからだったけれど、次はむちゃくちゃ古い曲……ご両親に聞いてみて」という紹介のあと1989年発表の「Alyda」をアコースティック・バージョンでプレイ。サブスクにも登録されていないナンバーだが、ヨ・ラ・テンゴの楽曲がタイムレスな輝きを放っていることを証明する瞬間だった。「Nowhere Near」ではけだるく、もの憂いムードのなか突然挿入されるアイラのギター・ソロが耳をつんざく。「Quiet」パートの後半は最新作から穏やかな「Apology Letter」、そしてアルバムのエンディング「Miles Away」、アイラのギターが放出するシューゲイズな美しいフィードバックノイズとブレイクビーツの霧のなか、ジョージアの歌声がさまよう。ヨ・ラ・テンゴの表現する「Quiet」は単に「静か」ということではなく、その奥にグルーヴが漲っている、そのことをこの流れは象徴していた。

 短いインターバルを置き、「Loud」セットのオープナーは疾走感あふれる「Fallout」で、「スゴい!」「ヤバい!」の声とともにフロアから一斉に手が挙がる。「From a Motel 6」では凄まじいノイズに歓声が巻き起こり、あの破壊的なギター・ソロを心ゆくまで堪能できたのが嬉しかった。1997年の名盤『I Can Hear The Heart Beating As One』収録の「Stockholm Syndrome」でも、瑞々しいメロディラインのうえでメタリックなギターが暴れまわり、それに反応して客席からも叫び声が止まない。アイラのピアノとジョージアのヴォーカルがオールドタイムな「Shades of Blue」を挟み、『I Can Hear〜』からスリリングなジャムが結晶化された「Moby Octopad」へ。

 メンバーが入れ代わり立ち代わり楽器とパートを変えて演奏する彼らのスタイルは健在で、「This Stupid World」ではジョージアがキーボード、ジェイムズがドラムセットに座り、アイラのギターがギターを振り回し、ときに背中に背負いノイズを吐き出し続ける。そのアイラがヒップなオルガンを弾きまくる「Sudden Organ」では、振り切れ方が得も言われぬカタルシスを生む。オリジナルよりもさらに重心低めにヘヴィーなサイケデリアを生んでいた「Shaker」、イントロにフリーなジャムを加えた稀代の名曲「Sugarcube」の色褪せない疾走感に場内の興奮が爆発する。そのままヘヴィーなベースラインが永遠に続くような「Pass the Hatchet, I Think I'm Goodkind」の15分にも及ぶジャムを終えて、メンバーはステージを後にした。

 アンコールの拍手が鳴り止まぬなか登場した3人は、客席前方の観客からのリクエストに応えアイラのキーボード+ジョージアとジェイムズによるドラムで「Autumn Sweater」を披露。この季節にふさわしいメランコリックな旋律により、場内にあたたかなムードが満ちる。さらに恒例のカヴァー・コーナーでは変名バンドCondo Fucks名義で発表していたザ・キンクスの「This Is Where I Belong」を演奏。最後にアイラがあらためて感謝を述べ「金曜日は違う曲をたくさん演奏するよ――もしくは全く同じセットで違うミスをするかも」と場内を笑わせ、この後の日本公演への期待も高まるなか、サン・ラのドゥーワップ・ソング「Somebody's in Love」のチャーミングなカヴァーでこの夜を締めくくった。

 ここ数年彼らはバンドの異なるスペクトラムを共存させるための試みとして2部構成のセットリストを導入してきたが、本公演ではファースト・セットで近年で最もライヴ感の強い最新作『This Stupid World』で提示した風景を過去の美しいナンバーで補完し、セカンド・セットはそこには収まりきれないベクトルのナンバーと過去の代表曲を盛り込むことで、バンドのポテンシャルを余すところなく伝えることに成功していた。興奮冷めやらぬ終演後のフロアを名残惜しそうに去るオーディエンスの上気した表情も、ポップ・ミュージックへの愛情が詰まった、とびきりファンタスティックなライヴであったことを物語っていた。


Text by 駒井憲嗣(KOMAI Kenji)
Photo by Cheryl Dunn


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■2023年11月7日(火)配信リリース
ヨ・ラ・テンゴ『The Bunker Session』
配信リンク
ylt.ffm.to/bunkersessions
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