現代を代表するピアニストの一人、
ヴァレリー・アファナシエフ(Valery Afanassiev)が、11月28日(火)に大阪・ザ・フェニックスホールから開催される来日公演を前に、最新録音の『ベートーヴェン:ハンマークラヴィーア』を11月22日に発表しました。
2019年に『
テスタメント(遺言)』と題した6枚組の大作アルバムを発表し、あたかも録音活動にピリオドを打ったかに思えたアファナシエフが、6年ぶりにふたたび録音に復帰し、手がけたのが
ベートーヴェンのソナタの中でも最大・最難のピアノ・ソナタ第29番「ハンマークラヴィーア」。76歳をむかえ、みずからの録音活動の集大成として、音楽上の師である
エミール・ギレリスがもっとも得意とし、名録音を残している同ソナタについて、どうしても自分の解釈を残しておきたいという思いが募り、2023年6月、ドイツ・ヴェルニゲローデのコンツェルトハウス・リープフラウエンでの録音が実現しました。
ベートーヴェンのピアノ曲は、アファナシエフにとってみずらの音楽的なルーツでありかつ根幹となるパートリーであり、これまで32曲のソナタのうち18曲の録音を残しています。とくに後期ソナタは演奏会で繰り返し取り上げ、複数の録音を残しているほどですが、そのベートーヴェン後期の一角をなす第29番「ハンマークラヴィーア」については、過去に演奏会で取り上げたことはなく、ドイツでの録音が“初演奏”となりました。
アファナシエフは「ハンマークラヴィーア」について、「私がこのソナタと初めて出会い、それを初めて鍵盤上で弾いた時からずっと、私はこのソナタの真ん中で生きてきたと言えるだろうか。それは分からないけれども、ある程度までこのソナタとともに生きてきたこと、そしてこれを録音しないままこの世に別れを告げるのはとても耐えがたいことだろうとある時点で実感したのは確かだ。その私の夢は現実のものとなった」と記しています。
初演奏とはいえ、長年作品を研究してきただけあって、楽譜の隅々にまで行き届いた慧眼は驚くべきもの。演奏時間は全4楽章58分で、アファナシエフの名前を世界に轟かせたシューベルトの最後のソナタを上回る遅さであり、とくに22分をかけてじっくりと構築した第3楽章アダージョは明晰な筆致でベートーヴェンの思索と哲学が描き出されているかのようです。
Photo by Henri Gonzales