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ヴィム・ヴェンダース監督映画『アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家』、田中泯を迎えたトーク・イベント開催

2024/06/07 12:30掲載
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ヴィム・ヴェンダース監督映画『アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家』、田中泯を迎えたトーク・イベント開催
 ヴィム・ヴェンダース監督が手掛けるアートドキュメンタリー『アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家』が、6月21日(金)より東京・TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国順次公開となります。これに先駆け、6月6日、東京・ヒューマントラストシネマ渋谷にて、ヴェンダース監督の話題作『PERFECT DAYS』にも出演したダンサー / 俳優の田中泯が登壇するトーク・イベントが開催。聞き手を映画評論家の森直人が務め、ヴェンダース監督からの信頼も厚く、監督とアンゼルム・キーファーとは同じ1945年生まれだという田中泯が作品について語る模様が公開されています。

 本映画は、戦後ドイツを代表する芸術家であり、ドイツの暗黒の歴史を主題とした作品群で知られるアンゼルム・キーファーの生涯と、その現在を追ったドキュメンタリー。キーファーは、ナチスや戦争、神話などのテーマを、絵画、彫刻、建築など多彩な表現で壮大な世界を創造する、戦後ドイツを代表する芸術家で、1999年、高松宮殿下記念世界文化賞・絵画部門を受賞。ヴェンダース監督と同じ、1945年生まれであり、初期の作品の中には、戦後ナチスの暗い歴史に目を背けようとする世論に反し、ナチス式の敬礼を揶揄する作品を作るなど“タブー”に挑戦する作家として美術界の反発を生みながらも注目を浴びる存在に。1993年からはフランスに拠点を移し、わらや生地を用いて、歴史、哲学、詩、聖書の世界を創作しており、一貫して戦後ドイツ、そして死に向き合い、“傷ついたもの”への鎮魂を捧げ続けています。

 『パリ、テキサス』(84)、『ベルリン・天使の詩』(87)、『ミリオンダラー・ホテル』(00)などの劇映画だけでなく、『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(99)、『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』(11)、『セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター』(14)などドキュメンタリーも手掛け、世界各国から高い評価を受けているヴェンダース監督が、制作期間に2年の歳月を費やし、3D&6Kで撮影。従来の3D映画のような飛び出すような仕掛けではなく、絵画や建築を、立体的で目の前に存在するかのような奥行きのある映像として再現し、ドキュメンタリー作品の新しい可能性を追求した作品にもなっています。監督は「先入観を捨てて、この衝撃的なビジュアルをただ楽しんでもらいたい」とコメント。キャストには、アンゼルム・キーファー本人の他、自身の青年期を息子のダニエル・キーファーが演じ、幼少期をヴェンダース監督の孫甥、アントン・ヴェンダースが担当。『PERFECT DAYS』が出品された第76回カンヌ国際映画祭で、ヴィム・ヴェンダース監督作品として2作同時にプレミア上映されました。

[トークイベント・レポート]
田中:このアンゼルム・キーファーの映画、本当にいい映画ですので、トークイベントに参加できて光栄です。

森:田中泯さんご自身が出演されている以外の映画では、初めてのトークイベントへのご参加になるそうですね?

田中:舞台挨拶っていうのはなんか恥ずかしいんですけど、今日は本当にアンゼルムのことを話せるので楽しみにしてきました。

森:田中泯さんは、ヴィム・ヴェンダース監督の『PERFECT DAYS』と、短編『Some Body Comes Into the Light』にご出演され、また昨年6月、カンヌ国際映画祭に出席された後、フランスにあるアンゼルム・キーファーさんのアトリエを訪ねられた。その時にアンゼルム・キーファーと初めてお会いしたんでしょうか。

田中:南仏のバルジャックのアトリエで会いました。昨年、カンヌ国際映画祭が終わって一旦、日本に帰ってきて、またすぐにフランスに出かけて行って会いました。

森:アンゼルム・キーファーは、田中泯さんのドキュメンタリー映画『名付けようのない踊り』を既にご覧になられていたと、お聞きしたんですが。

田中:そうなんです。僕は30代初めから、ヨーロッパに行くようになって、ちょうど、キーファーとか、ボルダンスキーとか美術家たちがドンと出てきて、僕はキーファーにびっくりしたんですね。その時に直感なんですけども、自分に似てるんじゃないかと思ったんですよ。それで調べたら同じ歳で、しかも誕生日が2日違い。

森:アンゼルムさんは1945年3月8日、泯さんは3月10日、東京大空襲の日でもあるという。。。

田中:それで、アンゼルムに自分は東京の空襲の日に生まれたって言ったら、俺だってドイツの空襲の日に生まれたって(笑)。
彼が産院の地下で生まれたらしいですけども、その日、彼の家は空襲で焼かれてなくなっていたと。

森:お二人は何か似てますよね?

田中:周囲から戦争について、その当時の話を聞かされる訳ですよね。
この間、山田洋次監督の映画に出してもらった時に、東京大空襲で川に飛び込んだ人の死体の数が最も多かった橋の上で芝居をやらせてもらったんですよ。偶然なんですけども。僕は1945年の生まれを「戦後ゼロ年」と言ってるんですけども、戦争は二人とも体験はしてないんです。ただ、戦争の真っ只中、戦争はまだ終わってなかったんですよ。終戦後のドイツの物凄さ、ひとづてに聞けば国民の半分は盗みを働いていたという言われるくらいに戦後のドイツは辛くて辛くて大変だった。僕が子供の頃は、戦後であるということがそこらじゅうで感じることができたんです。キーファーも一緒でそこら辺の話は彼としました。

森:今年4月、表参道のファーガス・マカフリー東京でアンゼルム・キーファー展が開催中の期間、アンゼルムさんが泯さんの舞台『TIME』(新国立劇場)を観に来られたとお聞きしましたが。その時にキーファーがインタビューなどは全然受けてないのに、泯さんだけに会いに行っていた(笑)。やっぱりソウルメイトみたいな感じになっちゃってるということなんでしょうか。

田中:そうなんでしょうね。9月にもキーファーのところに踊りに行ってきます。

森:ヴェンダース監督も「戦後ゼロ年」生まれなんですよね。8月生まれで。

田中:ヴェンダース監督については、30年以上前になるんですけども、僕がまだ映画なんか出てない時代に、彼がローマの美術館で講演をしていて、その時に少し話す機会があって、この人は繊細だって直感的に思いましたね。
彼の映画に出る、最大のきっかけを作ったのはたぶん、ピナバウシュっだと思います。僕はピナバウシュとは口論ばかりしてました(笑)。それが「田中泯、田中泯」って言ってたらしいです、本当かどうか分かりませんが。でも『PERFECT DAYS』を構想した当初から「田中泯は、まだ踊っているのか?」ってヴェンダース監督が言っているとプロデューサーに聞いて、会うことになったんです。『PERFECT DAYS』の撮影の最終日に車に乗って帰ろうとしたら、ヴェンダース監督が追いかけてきて、「泯、俺たち同い年だよね」って(笑)。
彼は自分の誕生日は広島・長崎の原爆が投下されて、「世界中のニュースになっているときに俺は生まれたんだ」って。

森:8月14日がヴェンダース監督の誕生日ですね。

田中:もちろん僕たちは何も覚えてませんよ。周りから聞かされた話、自分から焼夷弾みたかのような気になってますから。

森:「戦後ゼロ年」生まれのお三方が一緒に表現を立ち上げられているのが凄いことだと思います。映画『アンゼルム“傷ついた世界”の芸術家』をご覧になった率直な感想はいかがですか?

田中:キーファーは映画監督になりたかったらしいんですよ。それはヴァンダースもそんな話をしていて、相当の昔からキーファーとヴェンダースは、ずっと交流を続けていて、それがベースでこの映画ができたんだと思います。


森:信頼関係と、共鳴し合ったお二人、同じ「戦後ゼロ年」世代の田中泯さんにはどう映りましたか?

田中:この人は俺に近い人なんじゃないかと思ってしまったのは、そういう時代に生まれたことが特殊なことでは決してなくて、人間の歴史の中の、ある一コマな訳じゃないですか。でも繰り返し繰り返し人類は悲劇を創造している訳ですよね。
それに対する「ムカムカ」って僕は言うんですけども、子供として大人に対して「ムカムカ」する。どんな瞬間でも大人が社会を動かしているんですね。だから大人っていうのはいつまで経っても良くないんですよ。体のどこか奥の方に「ムカムカ」したものを抱えている人っていうのは、「匂う」んですよね。そういう人たちほとんどが子供っぽいんです(笑)子供みたいに戯れあって、冗談を言える。キーファーって哲学者みたいな顔してるじゃないですか?でも、ものすごいダジャレ言いますよ(笑)。あと、めちゃめちゃ体が強いんですよ。一緒に山を歩くんですけど、キーファーは全然疲れない。

森:アトリエも広いんですよね?

田中:東京ドームの何十倍かな。そこに50いくつかの貯蔵庫というか、ガラスハウスっていうか・・・その中に巨大な絵があって見れるようになっていて、見上げるほどデカい絵がいっぱい。もう、巨大なミュージアムですね。

森:キーファーは戦後ドイツのタブーとされている歴史をあえてモチーフにて再構築している。それが「“傷ついた世界”の芸術家」という邦題にも繋がってきていると思うんですけども。

田中:ドイツでは彼は裏切り者・・・戦後ドイツでは邪魔者扱いというか、バッシングされた時期もあって、映画でもそう言ってますよ。ヒトラーを忘れちゃダメだって、こういうパフォーマンスをするんですよね(右腕を掲げる)。その時は誤解を恐れずやるんですよ、写真に残して。

森:お好きなシーンとかございますか?

田中:一瞬なんですけども、キーファーが斜めのワイヤーを綱渡りしてるんですよ。ひっかかるんですよね。なにか、エッジ(縁)をやっとこすっとこ歩いている感じがしないでもないな。ちょっとバランスを崩すと落ちる。バルジャックの彼の半数くらいの作品が見られるアトリエは、実は地下道で繋がっているんです。すごいです。最初は大型の重機で掘り始めるんだけども、途中から手掘りなんですよ。いまだに掘ってるんです。これをキーファーは「オーディトリアム」って言うんです。アンダーグラウンドです。要するに作品と作品の間を行き来する時に、サロンなんかを通るな、地下道を通れって、そう言うメッセージを受け取りました。


[コメント]
「見て、感じて、思った」
こころは細胞となってカラダを突き動かす。誰しもがだ。一生の運動一生の表現。誰しもが完全な個人として世界に現れる。その時の世界という環境を刻印されて生命を始める。誰しもがだ。
一九四五年、アンゼルム・キーファーとヴィム・ヴェンダースは戦後0年の荒れ果てた国ドイツに生まれた。この情報だけで、こころ動かす幾多の基調低音が聞こえてくる。
キーファーさんの夢想が好きだ。思想と称ぶ人が多いが、何が違う。ヴェンダース監督は、広島・長崎の原爆投下のニュースが世界を席捲したその時に生まれた。
映画の中でB29の低音が聴こえたのは僕だけだったのか?アンゼルムの創造物は常に傷ついた物と事に満ちている。日本の戦後0年に生まれた僕のこころの奥底にもムカムカはある。子供の頃からずっとだ。
アンゼルム・キーファーとは、年齢から追放された記憶の創造者の事だ。

――田中泯

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『アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家』
2024年6月21日(金)より東京 TOHOシネマズ日比谷ほか全国順次公開
unpfilm.com/anselm
配給: アンプラグド
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