石井岳龍監督最新作で、
永瀬正敏、
浅野忠信、
佐藤浩市らが豪華共演を果たし、第74回ベルリン国際映画祭にてワールド・プレミア上映され話題を呼んだ『箱男』が8月23日(金)より東京・新宿ピカデリーほかにて全国公開。これに先駆けて、7月8日(月)にジャパンプレミアが東京・新宿ピカデリーにて開催。その模様を伝えるレポートが到着しました。
原作は、『砂の女』「壁」などその著作が世界二十数ヵ国に翻訳され、今なお世界中に熱狂的な読者を持つ
安部公房が1973年に発表した代表作の一つ。その幻惑的な手法と難解な内容の為、映像化が困難と言われてきた本作は、幾度かヨーロッパやハリウッドの著名な映画監督が映像化を熱望し、原作権の取得を試みたものの、安部公房サイドから許諾が下りず、企画が立ち上がっては消えるなどを繰り返してきました。
そんな中、最終的に安部公房本人から直接映画化を託されたのは、『
狂い咲きサンダーロード』(1980)で衝撃的なデビューを飾って以来、常にジャパン・インディ・シネマの最前線を走ってきた鬼才・石井岳龍(当時:石井聰亙)。安部からの「娯楽にしてくれ」という要望のもと、1997年に製作が決定し、石井は万全の準備を期し、ドイツ・ハンブルグで撮影を行うべく現地へ。ところが不運にもクランク・イン前日に、撮影が突如頓挫、クルーやキャストは失意のまま帰国することとなり、幻の企画となっていました。それから奇しくも安部公房生誕100年にあたる2024年に、映画化を諦めなかった石井は遂に『箱男』を実現。主演には27年前と同じ永瀬正敏、永瀬と共に出演予定だった佐藤浩市も出演を快諾したほか、世界的に活躍する浅野忠信、数百人のオーディションから抜擢された
白本彩奈ら実力派俳優が揃い、制作頓挫から27年を経て映画が完成しました。
7月8日のレポートは、石井監督や永瀬、佐藤が当時を振り返り、映画完成を万感の思いで迎えたことや、映画実現への情熱が伝わるものとなっています。
[イベント・レポ―ト] 世界に熱狂的な読者を持つ作家・安部公房による原作を映画化した『箱男』(8月23日公開)。7月8日にはジャパンプレミアが都内映画館で実施され、永瀬正敏、浅野忠信、白本彩奈、佐藤浩市、石井岳龍監督が出席した。
本作は石井監督自身が生前の安部公房から映画化の許諾を受け、永瀬主演で1997年にクランクインを迎えるはずだったが、撮影開始前日に頓挫するという悲劇に見舞われた。それから27年。主人公のわたしを演じる永瀬は「ここまでに27年かかりました。今日は本当に嬉しいです」と時を超えた完成に感無量。石井監督も「まるで夢のよう。まだ私が箱の中に入っていて夢を見ているようです」と満席の観客を前に痺れていた。
永瀬は27年前当時を回想して「経験したくないことが起きた。明日クランクインでまずはスチール撮影をしようとみんなでロビーに集まっていたら石井監督がプロデューサーに呼ばれて。しばらくして監督が一人でホテルの外を歩いて行く後姿を偶然見た。あれ?と思ったらプロデューサーから『この映画を中止にします』と。あの時の監督の後姿は一生忘れないだろうと思った」とドイツ・ハンブルグでの衝撃的な一コマを打ち明けた。
箱男殺害の完全犯罪を目論む軍医を演じた佐藤も、当時を経験した一人だ。「白夜の季節で21時22時でも明るい中で冷たくないビールを飲みながらドイツを感じていました」と回想。すると永瀬は「浩市さんから『永瀬、デートしよう』と言われて、あんなに緊張するデートは初めて」と笑わせつつ「浩市さんから『お前はどうするんだ?』と言われたときに『俺は石井さんと『箱男』をやりたい』と答えたら、浩市さんはニヤッと笑われて『わかった』と。そこで俳優同士での意思の疎通が出来て嬉しかった」と思い出した。当時佐藤はその言葉に「嬉しくもあり切なくもあり」というセンチな感情を抱いたという。
石井監督も「製作しないという選択肢はなくて、いつか必ず撮りたかった」と情熱は消えなかったそうで「安部公房さんからは『娯楽作にしてほしい』と言われた。『箱男』は安部さんにとって非常に重要なテーマが描かれている貴重な作品。50年前の小説だけれどまさに今の世の中に通じるものがある。情報化社会が進んで一人一台スマホを持ち、コロナ後は一人一人が家に籠った。一人一人が見えない箱に入ってしまった、そんな現代を予見している物語」と時代を経たことでテーマが一層炙り出されたと確信していた。
永瀬は役作りについて「前回と同じように、撮影前に箱に入らせてもらった」と箱男化したそうで「でも今は猫という相棒がいてくれたので前とは違いました。相棒が箱に興味を持ってくれて一緒に入ってくれたりして。彼(猫)も箱が気に入ったようです」と相棒との共同作業に嬉しそうだった。
わたしの宿敵となるニセ医者を演じた浅野は「27年前の出来事は聞いていたので、このタイミングで!? とビックリしました。でもこの人たちならばやってくれるだろうという安心感で、最初から目の前に完璧なものが用意されている気がした」と全幅の信頼。石井監督作『五条霊戦記 GOJOE』『ELECTRIC DRAGON 80000V』でも永瀬の宿敵を演じており「永瀬さんの宿敵ばかりをやっていますが…でも出演出来て本当に幸せです」と笑顔だった。
ニセ医者が開く安部医院で看護師を務める葉子役の白本は、オーディション合格の瞬間を聞かれて「絵にかいたようなガッツポーズと雄叫びをあげました。受かった実感が湧いてきて痺れるような嬉しさがこみあげてきた」と喜び大爆発。石井監督は「白本さんの役に対する解釈には説得力があり、なおかつ堂々としていた。この人ならば日本映画界を代表する猛獣たちと上手くやって行けるのではないかと。こちらの期待以上の存在を示してくれました」と絶賛だった。
最後に主演の永瀬は「今日の事が嬉し過ぎて2日前から知恵熱が出てしまいました。でも皆さんに作品を楽しんでもらえたら嬉しいです。色々なものが詰め込まれた渾身の一作。水分をとりながら見てください」とアピール。浅野は「皆さんがどのようにこの作品を受け止めてくれるのか気になるのでSNSに感想を書いてください。それを覗かせてもらいます」とエゴサを予告。
白本は「27年越しに描ける今だからこそ、27年前とは違ったものが見えるし伝えられるはず」と期待し、佐藤も「まさに感じ方は十人十色の映画。各々の感想があると思うので、それを知りたいです」と興味津々。石井監督は「僕は映画館でしかできない体験する映画が大好きです。この映画を通して皆さんにも箱男になってもらい、迷宮の闇の奥に誘われるような冒険をしてほしい。わからないところもあるかもしれないけれど、難しく考えずに素敵な俳優さん方が皆さんをしっかりと導いてくれるので、そこに身をゆだねて体験してください」と呼び掛けていた。 ©2024 The Box Man Film Partners