現行UKジャズ・シーンを代表する
エズラ・コレクティヴのメンバーとしても高く評価される、ロンドン拠点のキーボードプレイヤー / 作曲家 / コラボレーター / プロデューサーの
ジョー・アーモン・ジョーンズ(Joe Armon-Jones)が、
ブラック・ミディのドラマー、Morgan Simpson、
ヌビアン・ツイストのベーシスト、Luke Wynterを伴ったトリオ編成でのジャパン・ツアーを開催中。その初日となる東京・WWW X公演が11月20日(水)に開催されました。
これまでに盟友
ヌバイア・ガルシアとの共演、
ジョルジャ・スミス /
モーゼス・ボイド /
ジョージア・アン・マルドロウらとのコラボレーションやフィーチャリング、ソングライティングやキーボーディストとしての活動など多岐に渡り才覚を発揮するジョー・アーモン・ジョーンズ。近年では自身のレーベル「Aquarii Records」からダブをテーマにしたシリーズ作品『Wrong Side Of Town』、ジャマイカの伝説的DJ
ランキン・ジョーとの共作『Ceasefire』をリリース。12月6日(金)には第3弾EP『Sorrow』数量限定12インチの発売も控えています。
本ツアーは11月22日(金)京都・Club METRO、11月23日(土)名古屋・24PILLARS、11月24日(日)東京・虎子食堂、11月26日(火) 東京・BAROOMと続きます。今回、東京・WWW Xでの初日公演のレポートが到着。ネタバレを含みますので、ツアーに参加される方はご注意ください。
[ライヴ・レポート(※ネタバレを含みますのでご注意ください)] ジョー・アーモン・ジョーンズの音楽にはどこか安らぎがある。それはアンビエント的なものではなくて、速さを求めないことで生まれる安息だ。それは一見、彼の所属するバンドであるエズラ・コレクティヴのレコードには存在しないようにみえるかもしれない。だが、彼らは1を一瞬で100にするバンドではない。ジャズからアフロビート、ヒップホップ、レゲエ/ダブ、ソウル、ブロークンビーツ、ブラジル音楽、ラテン音楽までを折衷的に、ゆっくりと繋いでいくバンドだ。そのサウンドは確かにダンス・ミュージックだが、いたずらに高揚感を煽るものではなく、リラックスしたムードも感じさせる。その安らぎを担っているのが、ジョー・アーモン・ジョーンズの演奏なのではないだろうか。
そして、この日のライヴはそのチル的な感覚を見事に表現したライヴと言っていいだろう。まず印象的だったのは序盤の流れ。来年リリース予定の新作に収録されるという新曲「Lifetones」を1曲目に配置し、ブラック・ミディのモーガン・シンプソンのタイトなドラムと、ヌビヤン・ツイストのルーク・ウィンターのダビーなベースの間でジョーンズが自由連想のようにメロウな旋律を奏でたかと思えば、続く「Pray」では、ジョーンズの流麗なキーボード演奏にゆっくりとベースとドラムが加わっていき、しなやかなグルーヴを生み出す。ジョーンズが即興的になるにつれ、シンプソンも違う拍子を挟んだり、ウィンターもフレーズを巧みに変えたりと、サウンドが徐々に違う表情をみせているのにもかかわらず、しっかりとグルーヴをキープしているのが実に素晴らしい。
中盤のゴスペルを想起させる穏やかな「Hurry Up & Wait」からDJミックスのように「Icy Roads (Stacked)」に繋げ、カオティックな展開に持ち込む大胆さにも驚かされたし、まさかのジェイ・ポール「BTSTU」のメロウでサイケデリックなダブ・リメイク「BTSTU In Dub」の無邪気さにもあっと言わされたが、それ以上に驚嘆したのが、フランク・ザッパ「Watermelon In Easter Hay」のカヴァー。テンポをぐっと落とし、原曲の情感的なギターを静謐なピアノに置き換え、抑制的なベースとドラムがそれを支える。この転回的なアレンジはザッパを現代に蘇らせるだけではなく、ジョーンズの音楽に内在するチル的な部分を顕在化させたと言っても大袈裟ではないだろう。このミニマルなカヴァーはおよそ10分強続いたが、永遠に鳴り続けてほしいと思ったのは筆者だけではないはずだ。
そんな静けさが空間を支配したあとに演奏されたのが、これまた新曲の「Acknowledgement Is Key」。この曲は骨太なベースと丁寧にリズムを刻むドラムに哀愁漂うメロディが織り重なる様が印象に残った。そして、その演奏の延長線上でジャー・シャカへのリスペクトを込めた重厚なベース・ラインを繰り出し、本編最後の「Mollison Dub」へ突入。先月公開されたBRUTUSの談話で「僕がダブからインスピレーションを受けるのは、即興の要素が含まれているところ。ジャズのソロパートと同様、音楽的な判断がリアルタイムで行われ、瞬間的にフレーズが生み出される」と語っている通り、ダブに即興の要素を見出し、ライヴ感を高めた演奏には、この日一番のテンションが溢れていた。
アンコールの「Almost Went Too Far」の演奏が終わったのが21時50分すぎ。気づけばスタートから2時間も経っていた。この日のサウンドの軸はレゲエ/ダブだったが、先人たちの音楽へ敬意を払いながら、メロウかつグルーヴィーに昇華した演奏は、彼が新しいフェーズに入ったことを示すに十分だったと思う。わたしはジョー・アーモン・ジョーンズの音楽の深淵を垣間見た気がしている。 Text by 駒井憲嗣
Photo by Kaoru Goto