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dip、2024年の全国ツアーより田渕ひさ子と細海魚をゲストに迎えた東京公演のライヴ・レポート公開

dip   2024/12/10 19:37掲載
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dip、2024年の全国ツアーより田渕ひさ子と細海魚をゲストに迎えた東京公演のライヴ・レポート公開
 昨年9年ぶり、14作目のアルバム『HOLLOWGALLOW』をリリースした孤高の3ピース、dipが、今年11月に福岡、京都、名古屋、大阪、東京と全国5ヵ所をめぐるツアーを開催しました。

 福岡・京都はdipのみで出演し、日程が進むごとにアルバムにも参加したギタリスト・田渕ひさ子とキーボーディスト・細海魚がゲストとして合流していった本ツアーより、5人体制で全18曲、2時間を超えるパフォーマンスを披露した11月30日東京・下北沢 Queでのツアー最終公演〈Labo 28〉の模様をお届けします。

[ライヴ・レポート]
 2016年作『neue welt』以降、戸川純バンドをはじめ数々のプロジェクトで八面六臂の活躍ぶりだった、稀代のギタリストにしてフロントマンのヤマジカズヒデが重い腰をあげて完成させた新作『HOLLOWGALLOW』は、ノイ!の楽曲を連想させるアルバム名からして、これまでに発露してきたクラウトロック愛の集大成を感じさせるものだった。また、多彩な活動を経たヤマジのギターの音色、奏法への凝り方も凄まじく、バンドらしさが凝縮されつつ実験精神が随所にあふれ、往年のファンから新しいファンまでをも唸らせた。

 アルバムの衝撃が色あせないのか、発売後その音に魅了されるものが増えていったのか、開演前の下北沢 QUEはすし詰め状態。そんな超満員の会場にノイバウテン「Halber Mensch」が流れる中、ステージにヤマジとゲストのうちの一人、細海魚が登場しアンビエント・インプロが始まる。続いてナガタヤスシ、ナカニシノリユキが登場。

 歓声と浮遊感漂うシンセ音に重ねてスタートを切るのは、SUGIURUMNによるダンス・リミックスもリリースされた、ストレートにクラウトロックの流れをくむアルバム冒頭曲「kauteater」。直線的なビートにあわせ、軽快に飛びはねてウォームアップするヤマジ。オーディエンスの興奮もぐんぐん加速していく中、歪んでいるのに滑らかなギターのソロ・フレーズが滑り込んでくる。ギター・マガジン2024年3月号のインタビューでヤマジ本人が明かしたところによると、楽曲の中でギターの“歪み”が3段階に増えていく凝りようの楽曲だが、リフ、ソロと芸術品のようなギターの音色が空間を満たすのを体感すると、ライヴに来た喜びもひとしおだ。

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 スピードを保ったまま、NO WAVEに通じる鋭いギター・カッティングが印象的な新曲「DUEL」、クリア・トーンのアルペジオが聴きどころの「LABO」と続き、アルバムではFRICTIONのЯECKが参加した「self rising flower」へ。ベースのナガタ、ドラムのナカニシが刻むシャープなビート感、ヤマジの強烈な歪みを伴ったギターの咆哮とЯECKのノーウェイヴィなギターのからみが魅力の同曲。五輪まゆみ「少女」のストリングスから着想されたという、間奏の妖しいギターにも酔わされたが、ライヴでは繰り返しに近い、歌メロ自体にもかなりの中毒性があることに気づく。

 ここで、ゲストのうちの一人、細海魚が紹介され、「DeeDee Gordon」が披露された。奇抜でミュータントなシンセの音と切り裂くようなギターがからみあうのは新感覚で言葉にできない気持ちよさがあった。続いて、個人的には最も音源化が望まれる新曲「wolf」へ。轟音ギターが刻まれる6/8拍子のモチーフを挟み、陰鬱なアルペジオにのせて牧歌的なメロディ、童謡のようなメロディと次々に表情を変える構成で、引き出しの多いヤマジが何らかのメドレーを作ってしまったのかと勘違いしてしまったほど多面的な楽曲だ。まだまだ聴き足りない。

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 そして、ライヴ前半のハイライトと言える、アルバム屈指の人気曲「hollowgallow」が演奏された。闇をひた走るように直進するビート、70sパンクの凶暴性みなぎるヴォーカル、ギターと、dipらしさが詰まった楽曲だが、何といっても最大の見せ場は、アラビックな旋律で炸裂するギターソロのブレイクだろう。ここで歓声が上がらないことはない。回転数が狂ったような、禍々しいギターの音色に、フロアに充満していた興奮が一気に決壊してしまう瞬間。続くギターソロは、もはや質量を感じる物体のようで、“物理的”に身体を揺さぶるうねりが狂乱状態の観客の間を抜けて空間を満たしていく。

 濃厚だが圧倒的なスピードで駆け抜けたライヴ前半が終わり、ここで「レジェンダリー・ヒサコ」の紹介のもと、田渕さひこが登場。

 ヤマジはこの日、赤の64年製ジャズマスターだったが、田渕さひ子も国内屈指のジャズマスター使いとして知られるところ。2本のジャズマスターで繰り出されたのは、97年のアルバム『TIME ACID NO CRY AIR』の冒頭曲「SERIAL」。ゲストを招くことで3人ではやろうと思わない楽曲がセレクトされたのだろうが、パワーコードが主役の曲を選ぶのは意外だった。が、想像を超えて分厚く、重いパワーコードの質量感は圧巻だ。実在の殺人鬼の名前が並ぶ歌詞にも、かつてない凄みを感じる。

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 アルバムでの田渕ひさ子参加曲「the place to go」をはさみ、94年発表作『i'll』より田渕のフェイバリット「空に揺れたい」も演奏された。東芝EMI(当時)時代の楽曲が続き、往年のファンも熱い気持ちになったが、この日の「空に揺れたい」の迫力は格別だった。ナガタのサイケデリックなベースラインの存在感が増し、高速のギターカッティングが駆け抜け、轟音が吹き荒れる。原曲の疾走感に重みが増し、何倍にも増幅された出来だ。最後の方にダムド「Neat Neat Neat」のようなギターソロが一瞬挿入されたのもたまらなかった。

 続いて、田渕の2曲目のアルバム参加曲「il faut continuer」。ギター・アルペジオと重めのカッティングを湛えた、スロウ・テンポの曲ながら、ゆっくりと爆発していく田渕のギターソロ部分は聴きどころだった。一瞬、ヤマジが弾いているようにも聴こえ、ヤマジのギターと同質の魅力も放てるギタリストだと実感する。一人で二人のギターが存在するように聴かせるヤマジの工夫も魅力的だが、田渕ひさ子の参加は今後のライヴでも意義深いのではないだろうか。

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 細海魚がアルバムでシンセを担当した「eva」に続き、『i'll』、2009年作『AFTER LOUD』と2度アレンジを変えて収録された「Human Flow」では、細海魚がジャジーなフレーズも交えたソロを披露した。dipとジャズはかなりレアだと思うが、dip特有の冷たい質感のワルツの新たな魅力を引き出していた。

 そして、『love to sleep』から「WAITING FOR THE LIGHT」、「LUST FOR LIFE」と畳みかける。「LUST FOR LIFE」はヤマジのソロ・アルバム『400 Moai Eyes』にも収録されているが、この日はどちらのヴァージョンに近かったのだろう。ヤマソロ版でのアルペジオも聴こえたが、田渕も加わりより迫力が増した轟音は『love to sleep』版のものだった。また、ナカニシのドラムソロも盛り込まれたのも特筆すべきところ。ヤマジのギターは“冷気”と形容されることが多いが、この日のライヴでは一番冷たく研ぎ澄まされていたのはナカニシの淡々と、しかしビシビシと刻まれるドラムだったのではないか。とにかくdip屈指のアンセムで本編ラストは終了。

 アンコールで披露されたのは、『love to sleep』から「MY SLEEP STAYS OVER YOU」。『love to sleep』の中でも、最も速く、轟音を吐きながら上昇していく同曲は、この日のライヴを象徴するような選曲だ。

 2度目のアンコールでは、イギー&ザ・ストゥージズ「I Wanna Be Your Dog」が披露された。dipのライヴといえば、列挙するのも気が滅入るほど数々の洋・邦カヴァーが演奏され、その名カヴァーも楽しみの一つ。細海魚による原曲通りのキーボードリフにのせて、ヤマジのギターソロを堪能した。来年1月26日には、ヤマジと細海魚、百々和宏、クハラカズユキ、穴井仁吉からなる“ももヤマ穴Q魚”の公演も控えており、ロック、パンク・クラシックの名カヴァーが連発されることだろう。こちらも気になる。

 ファイナル公演とあって、この日の観客の盛り上がりは大きく、3度目のアンコールがあったのも嬉しかった。「もうやる曲がない」と言いながら、贈られたのは96年のミニ・アルバムから「13階段への荒野」。これまで何度もdipがサントラを担当してきた豊田利晃との初タッグとなった『ポルノスター』(98)の主題歌で、豊田監督のリクエストだったとのこと。『i'll』『love to sleep』『TIME ACID NO CRY AIR』と、dipが轟音の武器を手に入れた90年代後半が、より進化した形で披露された一夜の締めくくりにふさわしいナンバーだった。

 終焉後は、ヤマジのアートとも言える、半月状に並べたエフェクターを撮影する人でステージの前に人だかりができていた。〈LABO〉での実験の数々は、強いインパクトを残したが、やはり記念として、また研究のために記録したい気持ちは痛いほど分かる。待望のニュー・アルバムがリリースされて早1年だが、ライヴごとに聴きどころが変わる楽曲群を聴くと、もう何回かはリリース・ツアーを開催してほしいところだ。

 なお、ヤマジのXをのぞくと、ツアーの前・後半のセットリストともに、12月20日に開催される自身の2ndソロ・アルバム『Crawl』の再現ライヴ、また先日Z.O.Aに幕を下ろした森川誠一とともにヤマジが音響を担当する楠本まきの展覧会〈D is for Decadence〉の告知など早くも掲載されていた。次回のdipのライヴまで、こちらに足を運んでみるのもお勧め。詳細は、dipのオフィシャルサイト、オフィシャルXをチェックしてみて下さい。

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写真: 井上恵美梨(Emily Inoue)
文: 川上影森UNXUN


memento mori presents〜ヤマジカズヒデ「CRAWL REPRODUCTION」
日時:2024年12月20日(金)18:30/19:30
場所:東京・下北沢 Que
clubque.net/schedule/6935

楠本まきデビュー40周年展覧会「D is for Decadence Maki Kusumoto 40th anniversary 1984-2024」
2024年12月14日(土)〜2025年1月13日(月・祝)
vanilla-gallery.com/archives/2024/20241214
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https://www.cdjournal.com/main/cdjpush/tamagawa-daifuku/2000000812
https://www.cdjournal.com/main/special/showa_shonen/798/f
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