2013年12月10日に永眠した名ギタリスト、
ジム・ホール(Jim Hall)の偉業を盟友
ロン・カーター(Ron Carter)とギタリストの
ラリー・コリエル(Larry Coryell)と
ピーター・バーンスタイン(Peter Bernstein)が称えるトリビュート公演が、1月19日にブルーノート東京にて行なわれました。本日は音楽評論家の佐藤英輔氏によるこの公演のライヴ・レポートをお届けします。
■三者自然体でのそんだ、ジャズ・ギター巨星への思慮に満ちたトリビュート。 ジャズ・ギターの巨星であるジム・ホールに捧げるトリビュート公演は、ロン・カーター(76歳)をホスト役に、ラリー・コリエル(70歳)とピーター・バーンスタイン(46歳)という2人のギタリストを迎えて、持たれた。前者は1960年代後期に尖ったロック調ギターでジャズ界に新風を吹き込んだ著名ギタリストであり、後者はホールに教えを受けた実力派の奏者だ。
本来この帯は、『アローン・トゥゲザー』というデュオの名盤を1972年に出したホールとカーターのデュオ公演として予定されていた。だが、昨年12月10日にホールが83歳で亡くなってしまったため、カーターが新たなトリビュート公演を成就させようと、この2人に声をかけている。
そうした流れがあるため、それぞれのギタリストとカーターとのデュオが披露されると思うではないか。ところが、カーターとともに、2人のギタリストは最初から一緒にステージにあがり、演奏を始める。そんな三者協調の図は、ホールのギター演奏は誰も達せないものであり、ゆうに2人ぶんの情報量や重みを持つということを、示唆するものではなかったか。とともに、両ギタリストを左右に座らせて中央に立つカーターの凛とした様は、この場は私が仕切るという思いを透けさせてもいた。
『アローン・トゥゲサー』に収められていた表題曲やソニー・ロリンズ曲やカーター曲などとともに、「ハウ・ディープ・イズ・ジ・オーシャン」や「アイム・ゲッッティング・センティメンタル・オヴァー・ユー」といったホールが見目麗しく取り上げたスタンダードも取り上げ、3人は自在に重なる。テーマ部の導き方やソロの順序等、それらは曲によってさまざま。ながら、2人のギタリストは手癖を交え延々とソロをとるようなことはせず、とても全体のシェイプや接合感に留意しているようにも、ぼくには思えた。
また、途中でバーンスタインとコリエルはそれぞれ、スタンダードを素材にソロで演奏もする。バーンスタインはホールから受けた技量や発想をあますことなく出そうとするものを聞かせ、アコースティック・ギターに持ち替えたコリエルは
ガーシュイン曲を素材にハーモニクス音を効果的に散りばめた演奏を披露し、ホールの奥にある優美さや豊かさを露にしていた。
……全16本の弦による、三者思いに満ちたインタープレイ。そこにはジャズという表現において弦楽器だけが出し得る繊細さや軽妙さや飛躍力がこれでもかと存在していたが、それもまた彼らがホールに覚えた美点であり、今回出したかったものであったのだと思う。とともに、この実演は、偉大なギター・アイコンを借りて、3人が自らのジャズ人生を反すうすることにも繋がっていたのでないだろうか。
取材・文 / 佐藤英輔
[佐藤英輔プロフィール]
音楽評論家。1986年からフリーランスになり、ロック、R&B、ジャズ、ワールド・ミュージックなどさまざまな分野にいる担い手を取材 / 執筆している。ライヴのことを主に書くブログは、43142.diarynote.jp