1997年に始まったオーケストラ作品の作曲コンクール、“武満徹作曲賞”。毎年ただ1人の作曲家が審査にあたり、それぞれ独自の判断でその年の受賞作品を選考します。その18回目(2005年と2006年は休止)となる2016年度は、104曲の応募作から規定に合致した33ヶ国97作品が正式に受理され、2015年10月初旬〜11月中旬にかけて行なわれた2016年度審査員の
一柳 慧による譜面審査の結果、ミヒャエル・ゼルテンライク(Michael Seltenreich)、パク・ミョンフン(Myunghoon Park)、中村ありす、茂木宏文の4名がファイナリストに選ばれました。
[ミヒャエル・ゼルテンライク(イスラエル)「ARCHETYPE」] 生き生きとした発想による、音楽を展開する力が全体に漲っていて、緊張感の高まりを覚えます。各楽器の使い分けと、洗練されたオーケストレーションのテクニックが一体となって提示され、それが、それぞれのセクションの楽器群の存在感を際立たせ、作品の構造に反映されています。
ニュアンスの付け方に繊細な工夫が感じられ、そこから音楽の振幅と表現の豊かさが伝わってくる独特の作品と言ってよいでしょう。(一柳慧)[パク・ミョンフン(韓国)「triple sensibilities」] 配慮がゆきとどいた丁寧な楽器の扱いと、その活用によって、音楽の質感が高められているのを感じさせる作品です。浸透し合う楽器間の音の出入や、音色に対する敏感な感受性が、音楽の一貫した流れの中に生かされて、その書法が音楽全体に、繊細さと力強さを共鳴させ合っています。
ソフトな音の楽器のみならず、金管群にも充分場を与え、それらの特殊奏法も自然な形で配されているところは、この作曲家の鋭い感性の反映として聴こえます。(一柳 慧)[中村ありす(日本)「Nacres」] いわゆる描写的でない、はっきりしたビジュアルな対象のイメージを音楽的に分析し、その内容を深く洞察した作品で、全体を通して発想の豊かさを感じます。微分音の生かし方も必然性があり、全体の構成の中で後半に出現してきて、イメージを更に際立たせる役割を果たしていて秀逸です。楽譜を読んでいて、どんどん引き込まれる作品で、音楽への興味が果てしなく拡がるのを感じました。詩的な佇まいを持った希有な作品と言えるでしょう。(一柳 慧)[茂木宏文(日本)「不思議な言葉でお話しましょ!」] リズムとポルタメントという2つの異なる要素の使い方が独特。よく練られた構想が随所に見られます。音楽的内容が転換する場所では、作者の言う不思議な音の世界が立ち現れ、そこではあたかも日本の序破急のような感覚が示されて、次につながる緊迫感を形成する役割を果たしています。細かい動きを交えた質感が、終りへ向けて弛緩することなく保持され、あまたの音が遍在する音の環境は、失われることなく、最後迄維持されて聴く者を惹きつけます。(一柳 慧) 譜面審査に際しては、作曲者名等の情報は伏せられ、作品タイトルのみ記載したスコアが使用されたとのこと。この4名の作品は、2016年5月29日(日)の本選演奏会にて上演され、受賞作が決定されます。
写真: 2016年度審査員 一柳 慧 / ©岡部 好
■コンポージアム2016
“2016年度武満徹作曲賞本選演奏会”
2016年5月29日(日)
東京 新宿 東京オペラシティ コンサートホール: タケミツ メモリアル
開演 15:00
審査員: 一柳 慧
川瀬賢太郎指揮東京フィルハーモニー交響楽団