さる12月5日、86歳の誕生日の前日に演奏活動からの引退を表明したオーストリアの巨匠指揮者、
ニコラウス・アーノンクール(Nikolaus Harnoncourt)。引退によって、アーノンクールの“ラスト・レコーディング”となった最新アルバム
『ベートーヴェン: 交響曲第4番&第5番「運命」』(SICC-30250 2,600円 + 税)が2016年2月3日(水)にソニー・ミュージックジャパンからリリースされます。
2003年、それまで40年以上レコーディングを続けてきたテルデック・レーベルを離れRCAレッド・シール・レーベルに移籍し、一枚一枚にこだわりのある魂のこもったアルバムを発表してきたアーノンクール。もともとはアーノンクールにとって2度目の『ベートーヴェン: 交響曲全集』の第1弾となる予定だった本アルバムが、アーノンクールの最後の録音、音楽活動の総決算となりました。
本アルバムは、今年5月にウィーンのムジークフェラインザールで行なわれ、ソールドアウトとなった
ウィーン・コンツェントゥス・ムジクスの定期演奏会でライヴ収録された
ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」と第4番の2曲を収録。1991〜2年にアーノンクールがレコーディングしたベートーヴェンの交響曲全集がヨーロッパ室内管弦楽団との演奏であったのに対し、今回は1953年の創設以来みずから手塩にかけてきたピリオド楽器オーケストラ、ウィーン・コンツェトゥス・ムジクスとの初めての(そして最後の)ベートーヴェン録音です。
アーノンクールが「再録音に踏み切ったのは、ピリオド楽器の使用がいちばん大きい」と語っているとおり、今回の新録音では、当時の楽器の特性や響きを知りつくしていたベートーヴェンがあちこちに仕掛けた独特の響きが徹底的に掘り起こされています。今回の演奏と録音にあたっては、いつものように自筆譜やさまざまな出版譜を含む一次資料を丹念に洗い直し、「ベートーヴェンの楽譜には何も足さない」というストイックな姿勢も貫かれ、「まるで映画のフラッシュバックのよう」とアーノンクールが語っている通り、ベートーヴェンの指示に従って第5番の第3楽章の主部の繰り返しも実施されています。同じく第5番第4楽章で登場するトロンボーンの強調、ピッコロの独自のバランス、そして最後の和音連打のタメは、作品の初演に接した聴衆の驚きを想起させるほどの衝撃を聴き手の耳に届けます。第4番もこれまでにないほどの重量感を持ち、“北欧神話の巨人に挟まれた優美なギリシャの乙女”という
シューマンの言葉をも覆すほどの個性的な相貌を獲得しています。
ライナーノーツには、引退を表明する前に行なわれたアーノンクールへのインタビューからの長文のコメントを掲載。「すべての真に偉大な芸術作品は、謎を残すものだ。〔中略〕これは、私が音楽家である限り、けっして同じ演奏を繰り返せない、ということを意味する。〔中略〕私には“完璧”という言葉を使うことすら、何かの間違いのように思える。完璧になり得るものなど、この世には存在しないからだ」と、つねに新たな挑戦し続けてきたアーノンクールらしい言葉がつづられています。
Photo: Marco Borggreve / Sony Classical
■2016年2月3日(水)発売
『ベートーヴェン: 交響曲第4番&第5番「運命」』SICC-30250 2,600円 + 税
[収録曲]
ベートーヴェン:
01. 交響曲第4番 変ロ長調 op. 60
02. 交響曲第5番 ハ短調 op. 67「運命」
[録音]
ニコラウス・アーノンクール指揮ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス