クロアチア出身のルカ・スーリッチ(Luka Šulić)とステファン・ハウザー(Stjepan Hauser)によるチェロ・デュオ“
2CELLOS”が、11月19日(月)に東京・日本武道館での来日公演を開催。2011年に新人としてデビューして以来、2012年、2013年、2014年、2015年、2017年に計5回の単独公演を行ない、2016年には〈FUJI ROCK FESTIVAL〉にも出演している2人にとって、満を持しての武道館デビューとなりました。 期間限定で本公演の
セットリストが公開されています。
バックにトーキョー・スター・オーケストラ・ヴィルトゥオーソ(Tokyo Star Orchestra Virtuoso)を従えたライヴは、映画音楽名作選で開幕。「初めて日本に来た時から武道館で演奏するのは僕たちの夢でした。皆さん、どうもありがとうございます」とルカが感謝を延べ、優美かつ流麗なストリングスの響きで満員の聴衆を魅了。彼らのデビュー曲「スムーズ・クリミナル」で2本のチェロだけの演奏をした直後に、2CELLOSのライヴには欠かせないクロアチア出身のドラマー、ドゥーシャン・クランツ(Dusan Kranjc)も交えたロック・パートへなだれ込む2部構成で、アンコールを含めMCをはさみながらノン・ストップで全24曲を披露しました。今回の武道館公演にむけて実施された“2CELLOSに演奏してほしいロック名曲”企画に寄せられたリクエストから選ばれた「影武者」も演奏され、会場を沸かせました。
[武道館公演ライヴ・レポート]
1964年9月に完成、10月に東京オリンピックの柔道競技場会場として開館した日本武道館(東京都千代田区北の丸公園2の3)。1966年6月にビートルズ初来日会場として使用されて以降は、国内最大の音楽ホールとしても愛され続けるコンサートの“聖地”。語り継がれる多くの名演・名盤を生み続けるこの場所は、2020年8月の東京五輪の柔道会場利用のため来年6月から1年間の改修工事に入ることが決まっている。2018年11月19日、滑り込む形で「昭和・平成の日本武道館」の歴史に名を刻んだのはステファン・ハウザー&ルカ・スーリッチ=2CELLOS。そしてこの夜あらたなat BUDOKAN伝説が誕生した。
一夜限りの武道館公演は、ほぼ定刻通りにスタート。大歓声に包まれてステージに登場したステファンとルカ。オープニングは『炎のランナー』よりタイトルズ。映画さながら、たった2本のチェロによる情熱パフォーマンスで走り続けてきたふたりが7年目にして夢舞台へのゴールを果たした瞬間をファンと一緒に祝福するかのような感動のオープニング。「初めて日本に来た時からBUDOKANで演奏するのは僕たちの夢でした。皆さん、どうもありがとうございます」」(ルカ)。2階席の後ろまで埋め尽くした満員の観客の拍手喝采が止まない。
1部は、10人のストリングス隊(Tokyo Star Orchestra Virtuoso)をバックに前作『スコア』を中心にスクリーンを飾った名曲が次々に披露していく映画音楽名作選。バックステージに掲げられた大きなデジタル・スクリーンに映し出される映画のイメージ映像とステージで流麗なメロディを奏でるふたりの姿が溶け込んでいく演出はまるで映画のワンシーンを観ているかのようだ。情感のこもった1曲ごとの演奏が終わるたびに客席のあちらこちらからため息がこぼれる。贅沢で極上の時間が続いていく。
このまま時間が止まってくれてもいい。そんな会場全体がうっとりとするような均衡を破ったのは、彼らの初期代名詞とも言える「スムーズ・クリミナル」。ロック・セクション(2部)スタートを告げる号令に、ふたりも目を合わせてニヤリ。「サンダーストラック」の驚愕パフォーマンスでは激しい演奏に早くも弓がブチブチと切れ始める。クールに“激奏”ルカを横目に、縦横無尽にステージで“豪奏”するステファンはもはやお家芸ともいえる寝そべるフロア演奏をこの日も披露。会場の大喝采に気を良くしたのか、転がる時間がいつもより長いようだ。いつのまにかアリーナ客席は総立ちになっていた。
聞き慣れていたはずのお馴染みのロック・カヴァーもよりスケールが増して身体に伝わってくるのは、ライヴ経験値に裏付けされたチェロの演奏方法や工夫を凝らしたアレンジの向上にほかならない。ステファンとルカが目まぐるしく入れ替わる高音ソロと低音バッキング応酬はさらに磨きがかかり観客を魅了。独特に音をひずませたふたりのエレクトリック・チェロから放出される熱量は、武道館先達のハードロックやヘビーメタル・バンドをも凌駕する規格外の反響となって会場を揺るがした。同郷クロアチア出身のドラマー、ドゥーシャン・クランツのパワフルなリズムも気持ちいい。垂れさがったチェロの弓がスクリーンに映し出されると大きな歓声が巻き起こる。2階席も総立ちの様相だ。
最新アルバム『レット・ゼア・ビー・チェロ〜チェロ魂』から披露されたアンコール曲「デスパシート」(ルイス・フォンシfeat,ダディー・ヤンキー)と3作目『チェロヴァース』収録「ウェイク・ミー・アップ」 (アヴィーチーfeat.アロー・ブラック)は、比較的新しいヒット曲のメロディとビートをチェロでアプローチすることの楽しさを生で伝えてくれた。そしてこの日のもうひとつの楽しみは「武道館公演で2CELLOSに演奏してほしいロックの名曲」のキャンペーンで選ばれた曲の披露。奏でられたのは「影武者」。歓声が巻き起こる。2013年、NTTドコモのツートップCM曲としてお茶の間の話題となった日本では特別な1曲。髪を振り乱して向かい合うステァン&ルカの“白と黒のツートップ!”の雄姿に、筆者後方席から「待ってました!」。おそらく他国では起こり得ない日本特有の優越感にも似た瞬間だ。「次は東京ドームで演奏したい!」(ステファン)。この夜の超絶パフォーマンスと観客の一体感を見るかぎり、そのステージも夢ではないかもしれない……。
静と動を兼ね備えた全24曲、1時間45分の全身全霊の演奏。チェロは、胴体を胸に当てて、足に挟んで、抱きかかえこむように弾く独特の奏法。実際に音を出している時に、演奏者の身体に一番振動が伝わる楽器でもある。やはり演奏者の人柄や個性をこれほどまでにストレートに表現する弦楽器は見当たらない。無限の楽器を自由自在に操る唯一無二の2CELLOS。
スケールアップした一夜限りの武道館公演アンコールのラストはデビュー時から大切にしている「ウィズ・オア・ウィズアウト・ユー」。観客がスマホのライトを灯す美しい会場でふたりは時おり目を閉じながら流麗なメロディをなぞる。ふたりはすでに次の光景を見ているのかもしれない。チェロ2本で実現できる可能性をさらに探求し続けながら……Let there be CELLO.
2018年11月19日 安川達也