ベートーヴェンの生誕250周年を記念して制作された、テノール歌手
イアン・ボストリッジと
アントニオ・パッパーノ(p)のアルバム『ベートーヴェン:歌曲・民謡編曲集』のプロモーション映像がYouTubeで公開されています。2人がこのアルバムを語るほか、2019年10月に英ロンドン、セント・ジュード・オン・ザ・ヒル教会で行なわれた録音の模様が見られます。アルバムは7月に輸入盤で発売されており、アルバムに収録された『25のスコットランドの歌』Op.108 より「インヴァネスの愛らしい乙女」のパフォーマンス映像も公開中です。
このアルバムの中心となるのは、1816年に作曲された連作歌曲集「遥かなる恋人に寄す」。この時期のベートーヴェンは第7交響曲を出版したばかりで、少しスランプに陥っていたとされますが、この歌曲集は第1曲の主題が最後の第6曲で回帰するなどの工夫が凝らされているだけではなく、パッパーノは「ベートーヴェンがこれまでになく集中して書いた13分から14分の音楽」と評し、ボストリッジも“遠く離れた最愛の恋人”というテーマはベートーヴェンの秘められた情熱を感じさせると高く評価し、限りない共感を込めて優しく歌い上げています。
この歌曲集と同じく、よく知られる「アデライーデ」は1790年代の作品。歌の主人公はこの世を去った男で、遺してきた恋人に語り掛けるという内容ですが、ゆったりとした導入部と活発な後半部の対比が美しく、発表当時から大変な人気を誇った曲です。このような曲を歌わせるとボストリッジの右に出る者はいないでしょう。切々と語り、時には哀願しながら感情の高まりを歌い上げるボストリッジの妙技をお楽しみください。
こちらも良く知られる「ノミの歌」や爽やかな風が吹き抜けるような「5月の歌」などベートーヴェンのチャーミングな一面を楽しむとともに、あまり耳にすることのない一連の民謡編曲集では名手
ヴィルデ・フラング(vn)とニコラ・アルトシュテット(vc)がアンサンブルに加わり、パッパーノとともに奏でる上質なピアノ三重奏を伴奏にしたボストリッジが「気の置けない楽しい歌」を披露。そして最後に置かれた「モルモット」。小動物を連れて“あっちへ、こっちへ”さまざまな国を旅する大道芸人の歌でアルバムを締めくくるというのもボストリッジらしいひねりの効いた選曲です。