8時間におよぶ寝ながら聴く音楽『Sleep』や
ヴィヴァルディ「四季」の再構築など、先駆的な作品を発表する一方、映画やドラマの音楽でも独自の地位を確立している現代を代表する作曲家、
マックス・リヒター(Max Richter)。クラシックとエレクトロニクスを融合し、反復を基調としたシンプルな音楽が高い支持を得ている彼の、オーケストラによる録音のニュー・アルバム『エグザイルス』が8月6日(金)に発売されます。演奏は
クリスチャン・ヤルヴィ指揮バルト海フィルハーモニック。タイトル曲のショート・エディットが配信中です。
アルバムの中心となっているのは、世界屈指のコンテンポラリー・バレエ・カンパニー、ネザーランド・ダンス・シアターのバレエ『シンギュリア・オディセ(例外的な旅)』(2016年)のために2015年に作曲された「エグザイルス」の初録音。この作品は、“アラブの春”の民主化運動による内戦から逃れ、ヨーロッパに難民が殺到した移民危機をテーマにし、亡命・歩行・動きの概念をモチーフに音楽が構成されています。リヒターの過去作『メモリーハウス』がコソボ紛争を、『
ブルー・ノートブック』がイラク戦争への抗議を、『
インフラ』がロンドン同時多発テロをそれぞれテーマにしていたように、今回も社会的・政治的な問題を扱った作品です。リヒターは「音楽は文化において本質的な役割を果たしています。それは私たちがどのように生きるべきかについての会話の一部で、それが創造性です。ニーナ・シモンが言ったように“アーティストの義務は……時代を反映することです”」とコメントしています。
アルバムには「エグザイルス」のほかに、「オン・ザ・ネイチャー・オブ・デイライト」など、彼の代表曲のオーケストラ演奏によるニュー・ヴァージョンを5曲収録。リヒターはオーケストラによるニュー・ヴァージョンについて「〈オン・ザ・ネイチャー・オブ・デイライト〉は、もともと弦楽五重奏の曲でしたが、今回は65人以上の弦楽オーケストラで演奏されているので、質感・エネルギー・性質が違ったものとなります。オーケストラ・ヴァージョンは異なる感情的な記録であり、より大きなキャンバスなのです。五重奏では、誰かがあなただけに静かに話しているように感じますが、オーケストラではより幅広い対話がとなるのです」と語っています。
Photo by Seiri Kumari