ギタリストの
鈴木大介が、今年が没後25年にあたる
武満徹の「ギターのための12の歌」をはじめ、
ピアソラの「天使のミロンガ」、エディット・ピアフの歌唱で知られる「愛の讃歌」、
デューク・エリントンの「イン・ア・センチメンタル・ムード」などを弾いた新録アルバム『ギターは謳う』を9月22日(水)に発表します。
「ギターのための12の歌」は、童謡や民謡、映画音楽、スタンダード、そして4曲の
ビートルズ・ナンバーなど、武満が好きだった楽曲をギター用にアレンジしたもの。1995年に録音した「ギターのための12の歌」からの4曲などを収録する鈴木のデモ・テープを聴いた武満は、「今までに聴いたことがないようなギタリスト」と評し、後の鈴木のキャリアに決定的な影響を与えました。「ギターのための12の歌」の全曲録音は今回が3度目になります。
アルバムの制作には名器イグナシオ・フレタ・エ・イーホスを用い、5月19日から21日までの3日間でレコーディングされました。
[コメント]My Guitar's Story 序
2020年は武満徹さんの生誕90周年でした。そして今年2021年は武満徹さん没後25年になります。
この間、武満さんが編曲した『12の歌』を数度にわたってコンサートと放送のために演奏、録音する機会を得ましたが、時を同じくして世界は新型コロナウイルスによる未曾有のパンデミックを経験させられています。
コンサートはネット配信や人数制限のもとに行われるようになり、音楽の受容には、僕の周囲でも様々な変化が起きました。僕はギタリストですので、たった一人で誰もいないコンサートホールからライヴ演奏を配信することもありました。もしかするとインターネットの向こうで、一人で聴いていてくださった方もいらしたはずですし、弾きながら、1対1という感触を持ったこともほんとうです。そのような体験を経て、制限された人数のお客様たちとホールで対峙すると、まるで自分とお客様のおひとりおひとりが無数に張り巡らされた糸でつながっているような感覚になりました。音楽は何人で演奏していても、何人で聴いていてもらっても、かならずひとりひとりの心に帰るものであるということをあらためて認識したのです。
ギターで“謳う”のは、声にならない詞(ことば)に思いをこめるということです。いつおさまるとも知れぬ不安のなかで、“歌”を奏でることにのせる気持ちはますますふくらんでゆきました。第二次世界大戦に疲弊した日本で音楽を志し、世界的に愛される作曲家となられた武満さんが、高度成長期の激動の後にようやく安定した生活を取り戻したかのようだったであろう1977年に、“ひとつの地球が歌うことへの讃美”として編まれた曲集を、僕はコロナによって誰もが等しく危機に直面している地球で弾いている、そのことを思った時、まさに自分にとってもう一度この作品集を録音する機会がやってきているのだと気づきました。
今回は、僕にとって3回目の全曲録音になります。最初の録音では収録時間の都合で繰り返しを省略せざるをえなかったため、その4年後という早い時期に再録音したので、およそ20年ぶりの録音になります。
『12の歌』に添えて、ローラン・ディアンスの名アレンジや、自分の編曲でさらにいくつかの美しい“歌”を収録したい気持ちが最初にありました。この20年間、編曲や作曲に多くの機会をいただけたことは得難い経験となり、わずかではありますが自信ともなりました。そして今回は自編の選曲やアレンジについて、中川ヨウさんからたくさんの貴重なアドヴァイスと励ましをいただけたことに心から感謝しています。また、前作『シューベルトを讃えて』からディレクションしてくださっているアールアンフィニ・レーベルの武藤敏樹さんにも録音とテイク選びにご助言いただきました。お世話になったたくさんの皆さん、音楽を助けてくれている多くの素敵な皆さんに囲まれて、僕の側にずっといてくれた歌たちをこのようなアンソロジーにできたことをとても嬉しく思います。――鈴木大介