京都を拠点に国内外で活躍する音楽家、
原 摩利彦が、2020年6月の『
PASSION』に続くニュー・アルバム『ALL PEOPLE IS NICE』を突如リリースしました。現代アートや舞台芸術、インスタレーションから映画音楽までとその活動の場は多岐にわたり、ポスト・クラシカル、フィールドレコーディングを取り入れたサウンドスケープなど、さまざまなスタイルを持つ原ですが、2013年に制作を始めたという今作は軽やかなビート作品となっています。
原は『PASSION』のリリース以降、ライヴ・アルバム『MARIHIKO HARA SELECTED LIVE RECORDINGS 2018-2019』のリリースや、映像作品・CMへの楽曲提供、美術展やホテルのサウンドスケープ、
野田秀樹作・演出『フェイクスピア』サウンドトラックのリリースなどと精力的に活動しており、9月4日(土)には、京都ロームシアターノースホールにて室内楽コンサートシリーズ〈For A Silent Space 2021〉を開催します。
[コメント]原 摩利彦 《ALL PEOPLE IS NICE》に寄せて
このアルバムを作り出したのは2013年秋に遡る。オーストラリアの数都市でライブツアーをしたときのこと。シドニーの小さな宿泊所にはネット環境がなく、ぽっかり空いた午前に「Remember Me」(Tr.1) を作り始めた。
出演イベントは全く宣伝されていなかったり、せっかく現地のラジオ出演が決まったのにコーディネーターがすっぽかしたり。イベント主催者の「関係者」という人にタクシーに乗せられて怪しげなパーティに連れて行かれたり、今思うと散々なツアーだった。それでも数十部しかリリースしていない私のディスクを持っているコアなリスナーたちとの出会い、メルボルンで飲んだ「世界で一番おいしい」ブラックコーヒーやゼロウェイストを実践しているカフェの人が話してくれたこと、ピクトンという郊外の街で見た美しい南半球の星空などはいい思い出として残っている。
それから8年、断続的にトラックは作り続け、今年やっとアルバムとして完成するに至った。音楽家として身を立てようと悪戦苦闘していた時だったので、深く考えず、底抜けに明るいトラックを作ろうというのが当初の動機であった。途中、とにかく明るく振る舞い何も考えないでいることが一瞬怖くなったこともあったが、この作品に関しては突き進んでみた。
2019年夏にローマの街を歩いていて、街路樹に「all people is nice」と落書きがあるのを見つけた。直訳すると「みんないい人だ」かもしれないが、「みんな(ほんとうは)いい人なんだ」とも解釈できるし、「みんないい人だ(いや、そんなはずはない)」とも捉えられる。アルバム制作過程の心情と似ているような気がしたので、これをタイトルにしようと思った。
ビートトラックのリリースとしては《Credo》(2011)、《FAUNA》(2012)、サニーデイ・サービス「さよならプールボーイ(feat. MGF)Marihiko Hara Remix」(2018)、《ムードホール》(2019)に続く。マスタリングはベルリンのDubplates & Mastering Studioに依頼。アートワークはデザイナー見増勇介さん(ym design)によるもので、落書きがされていた木の写真を素材に構築してもらった。
最後に、ここ数年の私の作品を聴いてくださっている方にとっては、本作は唐突な内容に思われるかもしれませんが、これも私の音楽の一側面です。それではお楽しみください!――原 摩利彦