カンヌ国際映画祭で監督賞・国際批評家連盟賞のダブル受賞を果たし、アカデミー賞国際長編映画賞ロシア代表にも選出され、世界の映画祭を席巻した映画『Beanpole』(原題)の邦題が、『戦争と女の顔』と決定し、7月15日(金)より東京・新宿武蔵野館、東京・ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国にて順次公開することが決定しました。
日本でも話題の証言集『戦争は女の顔をしていない』(岩波現代文庫)を原案に、戦後、PTSDを抱えた元女性兵士の生と死の闘いを描く本作。1945年、終戦直後のレニングラード(現サンクトペテルブルグ)。荒廃した街の病院で、PTSDを抱えながら働く看護師のイーヤ(ヴィクトリア・ミロシニチェンコ)は、ある日後遺症の発作のせいで、面倒をみていた子供を死なせてしまいます。そこに子供の本当の母で戦友のマーシャ(ヴァシリサ・ペレリギナ)が戦地から帰還。彼女もまた後遺症を抱え、心身ともにボロボロの二人の元女性兵士は、なんとか自分たちの生活を再建するための闘いに意味と希望を見いだすが……。
本作は、巨匠
アレクサンドル・ソクーロフの下に学んだ新鋭カンテミール・バラーゴフ監督が、ノーベル文学賞受賞作家・スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの証言集『戦争は女の顔をしていない』を原案に、戦後の女性の運命を描いたもの。プロデューサーは、『
ラブレス』('17)や『
裁かれるは善人のみ』('14)をはじめ、ハリウッドでも実績のあるウクライナ出身のアレクサンドル・ロドニャンスキー。主演の2人は、新人のヴィクトリア・ミロシニチェンコとヴァシリサ・ペレリギナが見事に複雑な心理状態を演じきっています。終戦から77年。これは戦争を知らない世代のスタッフ、キャストらが今も起こっている戦争の恐ろしさを伝える作品。
現在、ロシアによるウクライナ侵攻によって、ロシアのカバルダ・バルカル共和国出身のバラーゴフ監督は、侵攻後すぐに国外へ脱出。また、ウクライナ出身のプロデューサーで、息子がゼレンスキー大統領の経済顧問をしているアレクサンドル・ロドニャンスキーは、ロシア政府から名指しで、彼の作品がロシア国内での放映が禁止され、SNSで反戦のコメントを連日投稿しています。日本での公開に際し、2人から反戦のメッセージが届きました。
[カンテミール・パラーゴフ監督コメント]戦争と、それを招いたロシア政府の政治的決断に強く反対している。だから私はロシアを去らなければならないと感じた。この戦争は、ただ普通に人生を送りたい何百万という人々にとっての悲劇だ。彼らの多くにとっては、この戦争を乗り越えること、これからの人生を送ることが難しくなるかもしれない。ましてや、不可能になるかもしれない。これは、『Beanpole』で描かれていることと一緒だ。戦争より悪は存在しない。 [アレクサンドル・ロドニャンスキー(プロデューサー)コメント]私は今までロシア大統領選で投票をしたことがないが(ウクライナのパスポートを持っているので)、耐え難いほど恥じている。そして、とてつもなく深い悲しみにいる。戦争に言い訳などはない。どんな主張があったとしても。私はよく覚えている。ソ連が私たちにアフガニスタン戦争の絶対的な必要性を説明した時のことを。それが悲劇的な間違いだったと認めるまで、10年の月日を費やし、15,000人のソ連兵士と100万人近くのアフガニスタン人の命を犠牲にしたことも。今日、ベトナム、イラク、アフガニスタン戦争など自国の戦争について言い訳できるアメリカ人はほとんどいない。そして、またしてもこの戦争は痛ましい過ちだ。国家の経済が崩壊し、私たちの国が世界的な孤立の中停滞し、かつてないテクノロジーの格差が深まるから、という理由ではなく、この過ちにおける恥は消え去ることがないからだ。これは私たちの子供や孫の代にも残る。私たちは黙ってはいられない。戦争に「NO」を。 ©Non-Stop Production, LLC, 2019