アンサンブル・コルディエ、バッハ・コレギウム・ジャパンなどの通奏低音奏者で、NHK-FM『古楽の楽しみ』の案内役を務める
大塚直哉が、埼玉・彩の国さいたま芸術劇場で開催している〈大塚直哉レクチャー・コンサート〉。このシリーズの番外編公演「バッハ“平均律”前夜 〜月明りのもと書き写した楽譜たち〜」が7月3日(日)に同劇場音楽ホールで行なわれます。
大塚は2018年から2022年2月まで、「オルガンとチェンバロで聴き比べるバッハの“平均律”」と題して、
バッハの『平均律クラヴィーア曲集』全2巻48曲に取り組んできました。その番外編として行なわれる今回の公演でテーマにするのは、“平均律”を生みだす前の、修業時代のバッハです。
また、このシリーズと並行して彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホールで録音してきた、ポジティフ・オルガンによる『J.S.バッハ 平均律クラヴィーア 第1巻』が5月30日(月)に発売されます。
[コメント]J. S. バッハの2冊の《平均律クラヴィ―ア曲集》を見渡してみると、あちこちに仕掛けられたバッハの創意工夫とともに、若い時からバッハが受けてきたほかの音楽家たちからの影響を随所に見ることができます。少年時代のバッハはどれほど貪欲に、それまでの音楽伝統を学んだことでしょうか。幼い頃、月明かりの下で楽譜をこっそり写したエピソード、また徒歩で遠くの北ドイツの街まで出かけて行って巨匠の演奏に聞きほれた話、などが伝えられています。これらの逸話の真偽のほどは今となってはもうわかりませんが、バッハの長兄ヨハン・クリストフが編纂したとされる『メラー写本』『アンドレアス・バッハ本』と呼ばれる楽譜集には、そのエピソードとのつながりを思わせる様々な作品が、バッハの青年期の作品とともに書き込まれています。《平均律クラヴィーア曲集》を1曲1曲追いかけてきたシリーズの番外編として、これらの楽譜集の中の作品をチェンバロやクラヴィコード、オルガンでお聴きいただきながら、少年期から青年期にかけてのバッハが夢中で書き写したかもしれない音楽、そしてそれらから刺激を受けながらバッハがのちに“平均律”のような充実した作品を生み出す独自の書法を練り上げていった様子に想いを馳せたいと思います。羊皮紙研究家の八木さんをお招きして、バッハが月明かりのもとで使ったかもしれない当時の筆記具や紙についてのお話も伺う予定です。どうぞお楽しみに。――大塚直哉Photo by 横田敦史