東京音楽大学(TCM)が本年度より新たに開講した付属オーケストラ・アカデミー。世界で通用するオーケストラ奏者を育成することを目的とし、オーケストラで長年活躍してきた経験豊富な同大学の指導陣のもと、アカデミー生は研鑽を積んでいます。開講直後の5月には、〈別府アルゲリッチ音楽祭2022〉において、世界的ピアニスト、
マルタ・アルゲリッチと指揮者
チョン・ミンと共演し、アカデミー生にとって華々しいデビューを飾りました。次なる公演は
荒井英治指揮で10月2日(日)に行われます。
曲目は、
ベートーヴェンの交響曲第1番 全楽章と
シューマンの交響曲第2番 第2楽章。前古典派に生まれた交響曲という音楽の形式は、
ハイドン、
モーツァルトを経て、ベートーヴェンに至り、一つの完成を迎えます。その第1歩となる交響曲第1番を作曲したのは、ベートーヴェンが30歳の時であり、若々しさに溢れ、新しい挑戦を試みた作品です。交響曲第2番を書き始める頃、シューマンはすでに神経系の病気を患い始めていました。そのため、この作品は病気との戦いの中で生まれたと本人は述べています。ベートーヴェンにも通ずるデモーニッシュな第2楽章は、音楽的だけでなく、演奏者側も高いアンサンブル能力を必要とし、スリリングな内容となっています。
今回のベートーヴェンの交響曲は、荒井英治がコンサートマスターをしながら、指揮を行う、「弾き振り」で演奏されます。ピアノ協奏曲などでの弾き振りは時たま見られますが、オーケストラにおいては決して多くはありません。弾き振りでは、常に指示を出してくれる指揮者がいるわけではないため、一人ひとりの奏者の責任が重大になります。積極的かつ慎重に、周りをよく聞き、気配を感じ、音楽を合わせることは、アカデミー生にとって大きな学びになることでしょう。学生オケとも、寄せ集めのオケとも(もちろんプロオケとも)違う、TCM付属オーケストラ・アカデミーの公演で、躍動する若者たちの音楽をぜひ、その成長する過程と共に、お聴きいただきたいところです。
©有田周平