ポール・マッカートニー&
ウイングスが1974年に行なった歴史的レコーディング・セッションの模様を収める、ライヴ・ドキュメンタリー映画『ポール・マッカートニー&ウイングス - ワン・ハンド・クラッピング』。
この映画の10月4日からの全国拡大公開を記念して10月6日に東京・TOHOシネマズ 日本橋で開催された、
萩原健太と
藤本国彦によるトーク・イベントのレポートが公開されています。
[トーク・イベント オフィシャル・レポート @TOHOシネマズ 日本橋] 1974年8月、ポール・マッカートニー&ウイングスのアルバム『バンド・オン・ザ・ラン』(1973年)がUKチャート1位を独走する中、アビイ・ロード・スタジオで撮影されながらも50年の間お蔵入りし、“史上最もブートレグが出回った作品の一つ”(Paul McCartney official)と言われていた本作。
初の劇場公開に、「感慨深いですねぇ。こんな大きなスクリーンでこの映像を見る日が来るとは!」(萩原健太さん)、「ほんとですね。映画で観られることが奇跡的ですね」(藤本国彦さん)と客席に向かって語られたお二人。同じ思いを抱いていたファンの方々からの共感が広がる中、トークイベントはスタートしました。
冒頭、2010年『バンド・オン・ザ・ラン』デラックス・エディション発売時に、ポール・マッカートニーに直接電話インタビューをされたという萩原さんのお話に会場は興味津々に。
ウイングスはどんなバンド? との質問に「ウイングスの良さはリンダにある」と話していたというポール。「リンダのコーラスが聞こえるとウイングス、という感じがしますよね」と萩原さんが話されると「そうですね。やっぱり大きいですよね」と藤本さんも共感。「後は、あまり上手くないシンセね。決してけなしているわけではなくて、今のバンドのウィックス(Paul "Wix" Wickens:長年ポールのツアーに帯同する鍵盤奏者)だったら、左手で難なくこなしてしまうようなフレーズを、一生懸命弾いているあの感じ、仲間が集まって、アマチュアぽい所もあるんだけれど、このメンバーじゃないと出せない音を出す所に、バンドのウイングスの魅力がありますよね。それをとても愛おしく感じます」と萩原さん。
そのインタビューで同じく語られていたというポールのバンド愛に関連して、“作品の中でも楽しいと話していたものの、自分の方が何でも上手くできて、決してバンド向きではないと思われるポール”が、「それでもバンドをやりたいという情熱を持っていた時のいいドキュメンタリー」(萩原さん)とのお話もありました。
途中、白隠慧鶴(はくいんえかく)の禅問答というタイトル“ワン・ハンド・クラッピング”に関連して、「1971年にジョンとヨーコが来日した際、白隠の禅画を購入していて、イマジンにも影響を与えているのでは」(藤本さん)というレアなエピソードが語られたり、作品に挿入されるインタビューに関して、「ロックンロール以前の音楽性に対する思いが本人の口から語られるのは興味深かった」(萩原さん)、「作品の冒頭に登場する今のポールや、〈1985〉をハンド・マイクでシャウトする姿も含めて、素顔のポールが観られるのがいい」(藤本さん)など、「色々と発見がある作品」(萩原さん)、とのお話も。
終盤、エディ・コクランなどの曲をギターで弾き語るバックヤード・セッションの最後に“古い曲ばっかりだな”、とポールが呟く場面に関して、「今やポール自身の曲が古い曲になっているわけですが(笑)。でも、今この映像を見返して改めて思い知るのは、若い頃つい気にしがちな“最先端じゃないといけない”とか“時代の空気感がないとダメだ”とか、そういう価値観がいかに曖昧なものかということ。歳をとっても全然衰えず現役感たっぷりの作品を作り続けてくれるポールのようなアーティストはそんなことをごく自然体で教えてくれますよね」と話された萩原さん。
続いて「ポールは変わらないですしね。作品を作り続けますし、ライヴもやり続けますし、生涯現役なのが、本当にすごいです」と藤本さんが話されると、「それをやりたくてもできない、ジョン・レノンという存在がいるからこそ、自分はやり続けるんだ、と思っていることもあるのかな、という気もしなくはないですね」と、萩原さんが話を継がれ、藤本さんと会場からも深い頷きがありました。他にも、本作はもちろんビートルズ、ポール、ウイングスはじめ、音楽シーンに精通する専門家として、また作品を愛するファンとしての視点から、時に笑いも誘いながら様々なお話が語られ、大きな拍手を持ってトークショーは終了となりました。