クイーン+
アダム・ランバート(Queen + Adam Lambert)の来日公演〈The Rhapsody Tour〉が、2月4日の愛知・名古屋 バンテリンドーム ナゴヤ公演を皮切りにスタート。「ボヘミアン・ラプソディ」「ドント・ストップ・ミー・ナウ」「キラー・クイーン」「ウィ・ウィル・ロック・ユー」「伝説のチャンピオン(We are the Champions)」などを披露したこの公演のオフィシャル・レポートとライヴ写真が公開されています。
クイーン+アダム・ランバート〈The Rhapsody Tour〉日本公演の今後の日程は、2月7日(水)大阪 京セラドーム大阪、2月10日(土)北海道・札幌ドーム、2月13日(火)・14日(水)東京・東京ドーム。北海道公演にはスペシャルゲストとして
GLAYが出演します。また、名古屋公演のセットリストのプレイリストが公開されています。
[オフィシャル・レポート] ザ・ラプソディ・ツアーと題したクイーン+アダム・ランバートのニュー・ツアーが、2月4日のバンテリンドーム ナゴヤを皮切りにスタート。初日となる名古屋公演のパフォーマンスは、まさにリヴィング・レジェンドによる壮大なロック美学を、余すことなく表現した2時間半(正確には2時間13分)だった。「マシーン・ワールド」からメドレー風にリンクさせて冒頭やショーの締めくくりで演奏されたおなじみの「RADIO GA GA」や、紅白歌合戦でも披露されて話題になった「ドント・ストップ・ミー・ナウ」を筆頭に、名曲やヒット曲30曲あまりを機関銃の如く披露して、これが夢なら醒めてほしくないぐらい楽しくて、時には涙が出てくるぐらいの感動的なステージだった。
バンテリンドーム ナゴヤは名古屋以外ではまだなじみが薄い呼称と思うが、元々親しまれていたナゴヤドームを命名権の関係で2021年から5年契約で新しい呼称にしたものである。前回のクイーンの名古屋公演(2020年1月30日)実施時はまだナゴヤドームと呼ばれていた。あれから丸4年ぶりの名古屋のステージとなるが、この間は世界を震撼させたコロナ禍の時期と重なる。その予兆を感じさせた前回の客席には嵐の前兆のようなピリピリした緊張感があったが、今回はコロナを克服してやっと我らのヒーローたちの凱旋が実現したようなホッとたような空気感があった。それだけに、4年ぶりのクイーン+アダムの演奏や熱唱を目の前にしてオーディエンスの感情移入も半端ではなかった。地震で揺れるのは困るが、ずっとトーム内が人々の熱狂で揺れていた感じだった。
クイーンの音楽はハード・ロックを基軸にしながらファンクやR&B、ロカビリー、オペラなど様々な音楽表現を貪欲に取り入れているのが特徴で、そのヴァリエーションがロック・ミュージカル『ウィ・ウィル・ロック・ユー』誕生のヒントにもなったが、前回同様今回のツアーもドームという巨大なスペースを異次元の空間に仕立てて、一種の壮大なロック・オペラもしくはロック・ミュージカル的なショーに仕立てていた。「RADIO GA GA」のミュージック・ビデオにも映像が使用された伝説のSF映画『メトロポリス』(1927年)に登場するロボット、マリアがヴィジュアルの核になっていて、アルバム『世界に捧ぐ』(1977年)のジャケットを飾ったイラストのロボットや、『スター・ウォーズ』シリーズのC-3PO、『ターミネーター』のターミネーターなど映画でおなじみのキャラクターのイメージもシンクロさせ、さらにマルチスクリーンとレザーによるライティングを駆使してまさに一大ページェントになっていたのである。それは『シルク・ドゥ・ソレイユ』のようなアート的エンターテインメントともリンクする表現だ。宇宙空間に浮かんだ巨大な惑星に立ってギター・ソロを奏でるブライアン・メイは、まさに音楽の神様の如く神々しかった。ブライアンとロジャー・テイラーという天才的ミュージシャンがメンバーだったという幸運と情熱が、フレディ・マーキュリーという不世出のアーティストを失いながらも、悲劇を克服して長い歴史を積んだクイーンのキャリアの基礎になっているのだと思う。
さすがだったのは、異次元の空間と化したドームの中で、ダイナミックでありながら時にやさしく囁くかのようなギターで魅了するブライアンと、地球の時間を支配したようなリズムを刻むロジャー、フレディ・マーキュリーのスピリットを継承しながらもさらにクイーンの音楽を進化させたヴォーカリスト、アダム・ランバートの3人が、2時間半ずっとハイテンションをキープしながら演奏し、歌い上げていた点だ。ブライアンやロジャーのようなキャリア派のレジェンドに付きまとう老いのイメージを克服したような、超越した存在のミュージションが持つ天才的な才能があるからだが、そのためにプライベートにおけるストイックな体力作りや入念なリハーサルをしているように思えた。
加えて今回のツアーの大きな収穫は、アダム・ランバートがヴォーカリストとしてさらなる成長を遂げていたことだ。4年前の彼もすごかったが、今の彼は明らかに前進していた。全体のヴォーカル表現にどっしりした重量感が加わり、一方では頭を突き抜けるような高音のパートも素晴らしい。
ブライアンが日本で紹介しながら英語と日本語で弾き語る「手をとりあって」や、彼が会場のオーディエンスのコーラスを伴ってパフォームし、スクリーンに登場するフレディ・マーキュリーとコラボする「ラヴ・オブ・マイ・ライフ」を筆頭に、クイーンの歴史を実感させる外せない名演、名場面は今回もハイライトになっている。今後の公演のためネタバレはそれぐらいで避けるけど、日本人が最も愛した伝説のバンドの現在進行形のライヴは永遠に感動的である。
名古屋初日に続いて、クイーン+アダム・ランバートはこの後2月7日に京セラドーム大阪、10日に札幌ドーム、13日と14日に東京ドームと日本のメガドームを制覇する。42年ぶりとなる札幌公演ではGLAYがスペシャルゲストに迎えられるそうだ。どこよりも早く、名古屋でリヴィング・レジェンドの圧巻のパフォーマンスを体験出来てその余韻に浸っているにもかかわらず、大阪や札幌、東京のオーディエンスを羨ましく思っているところである。
――村岡裕司(音楽評論家) Photo by Hiromichi Satoh