プログレッシヴ・ロック・バンドの
イエス(Yes)が2年ぶり12度目の来日を果たし、9月16日(月)の東京公演からジャパン・ツアーがスタートしました。〈The CLASSIC TALES OF YES Tour 2024 デビュー55周年記念公演〉とタイトルが付いた今回のツアーは2部構成。60年代の楽曲から最新作『
ミラー・トゥ・ザ・スカイ』収録曲まで、半世紀を超えるキャリアを俯瞰したセットリストとなっています。
今後の公演は、9月18日(水)・9月19日(木)東京・昭和女子大学人見記念講堂、9月21日(土)宮城・仙台GIGS、9月23日(月・祝)愛知・名古屋 岡谷鋼機名古屋公会堂(名古屋市公会堂)、9月25日(水)大阪・NHK大阪ホール。
公演初日のオフィシャル・ライヴ・レポートが公開されています。
[ライヴ・レポート] 東京公演は、イエスとして初めて昭和女子大学の人見記念講堂での開催となった。まず注目したいのが、5人の出で立ちの変貌ぶりだ。2年前と比べ、彼らの雄姿は一段とスケールアップしていて、ステージ上の佇まいも堂々としているのがわかる。それはまさしく“団結”と“自信”の現れなのだろう。それを早々に証明したのが1曲目の「マシーン・メシア」だった。いきなり10分強の曲を、ほぼレコードと同じスピードで一糸乱れず演奏し、この曲のオリジナル・パフォーマーであるスティーヴとジェフの掛け合いもお見事。
続く定番曲「アイヴ・シーン・オール・グッド・ピープル」では、ジョンとビリーとスティーヴによる流れるようなコーラス・ハーモニーが美しくて早くも夢心地となる。3曲目は遂に日本初演となる「究極」が登場。スティーヴによるスティール・ギターの絶妙なボトル捌きが映える曲で、そのダイナミックなロックンロールが体を揺らす(スティーヴはスティール・ギターを左右に移動させながらソロを弾くという妙技も披露!?)。
「アメリカ」は中盤から後半にかけての「Southern Solo」と呼ばれるインスト・パートが演奏され、ここでもスティーヴのギター・ソロに注目が集まる。彼はソロを弾きながら歩き回ったり片足を上げたりと、とにかく元気一杯で、ひところ心配されていたリズムの遅れも皆無になった。続く「時間と言葉」と「世紀の曲り角」はフル演奏。こうしたバラード曲におけるジョンのヴォーカルの伸びやかな高音の美しさは、まるで天使のようだ。また「世紀の曲り角」におけるスティーヴのアコースティック・ギターの静謐な響きを始め、彼の得意技である曲中でのギターの持ち替えやジェフの優雅なピアノ・ソロ、ジェイのマレット演奏など、この曲のオリジナルのイメージを損なうことなく、大切に演奏されたのが何よりも嬉しかった。
第1部の最後は「シベリアン・カートゥル」が演奏された。当初予定されたセット・リストには入っていなかったものの、サウンド・チェック中に急遽変更されたらしい。今回の公演は前回公演とは選曲が重複しない(アンコールを除く)はずだったので、これは嬉しいサプライズ。変拍子やキメの多い曲だが、もちろん完璧な再現演奏で、大歓声のもと第1部は締めくくられた。
約20分の休憩後、第2部は「南の空」で幕を開けたが、なんとあの『こわれもの』と同じ靴音のSEから始まったのにはビックリ。この曲は難易度が高く、中盤のピアノ・ソロや後半におけるギターとシンセの掛け合いなどキーボードの見せ場が多いのだが、ジェフが奮起してスティーヴとの激闘を見せてくれた。スティーヴが赤いストラトに持ち替えた「カット・フロム・ザ・スターズ」は、この5人のメンバーでレコーディングした最新曲ということもあり、抜群にシャープでドライヴするグルーヴィなサウンドは、今日イチバンの出来映えだった。
第2部の最後で今晩のハイライトは、イエス史上最強の超大作『海洋地形学の物語』(合計80分)を20分強の長さにアレンジしたダイジェスト・メドレーだ。このアルバムがリリースされた当時でさえ全曲を演奏する機会は決して多くはなかったのに、スティーヴはこのアルバムの全体像をなんとかライヴで披露したいと考え、壮大なダイジェスト構想に至ったという。スティーヴによれば「クラシック音楽のように演奏者を変えることはできても、聴衆のイエスに対するイメージを変えることはできない」ということで、オリジナル・アレンジからの編集作業にはかなり苦労したようだ。だが実際に作業を始めてみると、単なる時短のためにハサミを入れる編集とは異なり、組曲に新しい視点を与え、誰も想像したことがなかった“新しい組曲”として成立させることに成功している。なんと我々リスナーは、あの大交響曲のエッセンスを一気にライヴ体験することができてしまったわけだ。言葉で表現するのは難しいが、このメドレーの素晴らしさは実際に会場で爆音体験してもらうのが一番わかりやすいだろう。
アンコールは定番中の定番である「ラウンドアバウト」と「スターシップ・トゥルーパー」が演奏された。プログレだから大合唱というわけにはいかないが、誰もが小声で「ラウンドアバウト」を一緒に歌っていたのは実に微笑ましい光景だったし、終演後に皆が口を揃えて「楽しかった!」と言っているのを聞いてホッコリ。休憩を除いてきっかり2時間のパフォーマンスは、選曲、演奏、満足度ともに過去最高レベルに達してきている。超絶テクニックにあふれるコテコテのサウンドを体験するのもプログレの醍醐味だと思うが、印象派の絵画のように芸術的で繊細なイエス・ミュージックを生で味わうのも、極上で贅沢な時間となるに違いない。
なんと言ってもスティーヴ・ハウの奮闘ぶりにはいつも驚かされる。77歳という年齢をまったく感じさせない壮絶ギター・プレイを披露してくれただけでなく、曲の進行ポイントやカウント出し、照明の指示に至るまで、もうなんでもかんでも一人で背負ってる感じがヒシヒシと伝わってくる。現在のイエスは平均年齢が65歳であり、若いロック・バンドと比較することはできないものの、複雑な構成や変拍子をものともせず、いまも現役感たっぷりの演奏でもり立てているのはさすがだし、必ずしも年齢の高さがパフォーマンスに直接影響を与えるわけではないということが証明された、感動的な初日公演だった。
イエスのジャパン・ツアーは始まったばかりで、この後東京公演2日間と仙台、名古屋、大阪へと続いていく。音楽界のスターシップ・トゥルーパーたちが奏でる、極上のライヴ・パフォーマンスを見逃すことなかれ!――片山 伸(Shin Katayama)