正式名称をグロッケンシュピールと呼ぶその楽器は、たぶんどんな人でも一度は触れたことがあろう楽器。それは音階のある打楽器であり、譜面上ではフルート、ピッコロやクラリネット等の木管楽器と同じ動きをする事が多い楽器・・・。そう、それは鉄琴。
グロッケンシュピールは、ヴィブラフォンやマリンバなどと同じ音板打楽器のひとつ。鉄琴の中で最高音域を受け持ち、明るくて高い、よく通る澄んだ音を奏でます。楽曲の中では、ソロを奏でる楽器として、もしくはリコーダーなどの他の高音部楽器と重ね合わせたり、アルペジオを奏でたりなどします。
このグロッケンシュピール、直訳すれば分かるのですが、「鐘を演奏」という意味になります。しかし、現在のものには鐘なんて見当たりません。本来、グロッケンシュピールは教会などに設置された鐘を鳴らして音を奏でるカリヨンを示すものだったのです。16世紀ごろにはそれぞれの鐘を手元で演奏できるように、ワイヤーで繋げられた鍵盤がつけられるようになります。それを専門の演奏家がこのかなり大掛かりな鍵盤を操作し、鍵盤楽器として奏でていたのです。これが18世紀になると、大きな鐘ではなく、金属の棒を叩く楽器が作られます。それが19世紀になると、そこから鍵盤がなくなり、直接金属をバチで叩く楽器へと変わっていったのです。これが現在でいうグロッケンシュピールの始まりなわけです。
グロッケンシュピールという名称はドイツ語での呼び方で、ドイツにおいては普通に鉄琴のことを指すそうです。しかし、ここ日本でグロッケンシュピールというと、コンサート用の鉄琴を指すことが多かったりします。そのコンサート用のグロッケンシュピールは音域が2オクターブ半強、楽譜には2オクターブ低く書かれる(楽譜より2オクターブ高い音が出る)ため、移調楽器に分類されます。音板は、共鳴箱を兼ねた箱に収められるか、箱を使わずに音板の下に共鳴管を並べます。また木琴などよりも硬く、小さい打部のマレット(ばち)を使用し、真鍮、プラスティック、木材などの材質のものを使います。
そんなグロッケンシュピール(以下、グロッケン)を使用した楽曲、アーティストなどを挙げてみると。
クラシックでグロッケンを用いた代表曲といえば、ストーリーにもグロッケンが登場する
モーツァルトの「魔笛」。ただ、モーツァルトが活躍していた時代のグロッケンは先に挙げたように、現在のものとは違う形でした。ロックにおいてはポスト・ロックや音響系と呼ばれるアーティストに使用されることが多いのですが、いわゆるロックの世界でももちろん使用されています。
レディオヘッドのアルバム
『OKコンピューター』に収録された「ノー・サプライゼズ」。前奏から続くそんなレディオヘッドのような雰囲気を感じ取れる
ポール・マッカートニーの「ヴァニティ・フェア」。
『ケイオス・アンド・クリエイション・イン・ザ・バックヤード』に収録されたこの曲で、グロッケンはなんとも言えぬ不安感を誘ってくれます。 ちなみにこの2作品ともプロデューサーはナイジェル・ゴドリッチ。彼は効果的にグロッケンを響かせる、いい使い手なのかもしれません。
シガー・ロスもグロッケンを効果的に響かせているアーティスト。元
マジー・スターの
ホープ・サンドヴァルのアルバム『バヴァリアン・フルーツ・ブレッド』では1曲目からグロッケンが響いていました。
ビーチ・ボーイズ(
ブライアン・ウィルソン)も「サーフズ・アップ」などで使用していましたね。初期
ゴッド・スピード・ユー・ブラック・エンペラーにはグロッケン担当のメンバーがいました。
日本では
Mr.Childrenが
「くるみ」「mirror」などでグロッケンを使用。「mirror」をライヴで演奏した際にはギターの田原健一がグロッケンを演奏していました。また、彼らのプロデューサーである
小林武史が手がけるアーティスト(
Salyuや
レミオロメンなど)でもグロッケンが使われていることが多く、小林武史のお気に入りの音なのかもしれません。他には
BUMP OF CHICKENが
「オンリー ロンリー グローリー」「車輪の唄」などで効果的にグロッケンを鳴らしています。
ACOのアルバム
『irony』でもその音を聴くことができますね。
グロッケンがバンドの音を左右するアーティストと考えると、一部で話題のニューウェイヴ・オブ・プログレッシヴ・ロックの代表格、元JET LAGのメンバーが在籍する
henrytennis。グロッケン担当のメンバーが在籍する彼ら。ステージ上ではグロッケンがセンターに構え、ポリリズムを多用した複雑な音楽をさらりと引っ張っていきます。初期はポスト・ロックなどに影響を受けたバンドとして括られていたみたいですが、グロッケンが加わってからの彼らは、唯一無二のプログレ・サウンドを奏でています。5月3日に発売されるファースト・アルバム
『Eight Rare Cases』(写真)でも全編にわたってグロッケンが響き渡っていることでしょう。他にグロッケンを使用しているインディ・バンドには、テルミンをフロントに置くインスト・バンド
good music !やウィスパー・ボイスでソフト・ロックを奏でるメルティング・ホリデイズなどが挙げられます。
値段的にもさほど高くなく、手軽に購入できるグロッケン。ちょっと部屋で鳴らして気軽に楽しんでみませんか。キラキラ星とか奏でれば、純粋な気持ちになれますよ、きっと。
※ 記事は掲載日時点での情報をもとに書かれています。掲載後に生じた動向、および判明した事柄等は反映しておりません。ご了承ください。