先ごろ発売されたニュー・シングル「Baby Cruising Love/マカロニ」もシングル・ウィークリー・チャート第3位を記録するなど見事にブレイクを果たしたPerfume。そんな彼女たちから先駆けること約25年、“早すぎたPerfume”ともいうべき3人組がひっそりと活動していたのを皆さんはご存じでしょうか? その名はスターボー。いまだ伝説として語り継がれる元祖テクノ・アイドル・グループの足跡を駆け足で辿ってみましょう。
「太陽系第10惑星・スターボーから“A・I(愛)”を伝えるため地球にやってきた宇宙三銃士」というコンセプトのもと1982年に誕生した3人組アイドル・グループ、
スターボー。メンバーは当時17歳だった、ナガト、イマト、ヤエトの3人。スターボーがデビューした82年は“花の82年組”という呼称があるように、
中森明菜、
小泉今日子、
松本伊代、
堀ちえみ、
早見優、
シブがき隊など錚々たる顔ぶれが一斉にデビューを果たした、日本芸能史的にも類を見ないアイドルの当たり年。どちらかといえば地味な部類に入る3人のアイドル予備軍を、なんとかサヴァイヴさせるべく、当時の所属事務所によって導き出されたのが冒頭の壮大かつ荒唐無稽なコンセプトだったのです。
グループのデビューに際して、作・編曲家として迎えられたのは当時、
YMOのリーダーとして世界的に活躍していた
細野晴臣。なお“星の架け橋”を意味するスターボー〈=スター+レインボー〉というグループ名も彼の考案によるものでした。80年代初頭といえば、大ヒットを記録した
イモ欽トリオの「ハイスクールララバイ」を筆頭に、
真鍋ちえみの「ナイトトレイン・美少女」、
山田邦子の「哲学しよう」など、細野が優れたテクノ歌謡を次々と世に送り出していた時期。そんな彼が周到なコンセプトのもとに作り上げたのが、テクノ歌謡の隠れた名曲との誉れも高い、スターボーのデビュー・シングル「ハートブレイク太陽族」(82年)だったのです。
宇宙服とレオタードを合体させたかのようなコスチューム、もみ上げをスパッと切り落としたテクノ・カット、アンドロイドを彷彿とさせる独自の振り付け、中性的な雰囲気を強調するため意図的に男っぽい低音で歌われたヴォーカル(
松本隆が手掛けた歌詞も「〜ぜ」「〜さ」といった語尾が頻出する男口調)などなど、徹底したイメージ戦略が敷かれることとなったスターボー。とはいえ、ここまで手の込んだコンセプトが、一般リスナーの間で浸透するはずもなく、当時のリアクションは、ほぼ皆無! ちなみに、とある歌番組に出演した際には、プラスティッキーなイメージを貫き通すため、司会者の問いかけに対してメンバーが始終、無言&無表情を貫きとおすという放送事故スレスレの事態も発生していた模様。というワケで、“宇宙三銃士”という斬新なコンセプトはデビュー1枚目のシングルにして、あえなく頓挫。唯一残されたアルバム『STARBOW1』(83年)に封入されたファンへの直筆メッセージで彼女たちは当時の心境をこのように語っています。
「スターボーのデビュー曲は、ガンダムに出てくる超能力を持った、あの“ニュータイプ”みたいな3人として、太陽系の10番目の惑星を脱出し、偶然に地球へ出現した、というストーリーで、ちょっぴりアニメチックに展開されたんだけど、セカンド・シングルでは、大変身して普通の地球の女の子として活躍しています。(中略)スターボー・チェイサー“星の虹を追いかける者達”は、これからもどう変身するか予想が付きません。そこが他のタレントと違うところかな?」。
普通の地球の女の子に“大変身”って、要するにアイドルとして振り出しに戻っただけなのでは……? “言わされてる感”バリバリの、とってつけたようなメッセージが、当時のリスナーに、どのような形で捉えられたのかはさておき、大々的にプロモーションを仕掛けた「ハートブレイク太陽族」が、実売7,000枚(シングル・チャート最高位98位)という予想外の結果に終わってしまったことを考えれば、突然の方向転換も、事務所的には、やむをえず、といったところだったのでしょう。
「ハートブレイク〜」に続く2ndシングル「たんぽぽ畑でつかまえて」からは、まるで何事もなかったかのように、フリフリな衣装に身を包んだ正統派アイドル・グループに転向。その後、84年に3rdシングル「サマー・ラブ」を発表したものの、まったく話題に上ることもなく、デビューから約2年という短期間で早くも音楽業界からフェード・アウトしてしまった彼女たち。そんなスターボーのストレンジな魅力を今に伝えてくれるのが、先述した唯一のアルバムに初CD化音源3曲を加え、2006年7月に紙ジャケ盤として復刻された
『STARBOW1 たんぽぽ畑でつかまえて』。
細野晴臣&松本隆という黄金コンビが全面的に制作を手掛けたM1.〜M.7(LPでいうところのA面)で展開される80’sフレイヴァー漂うテクノ・サウンドは今、聴いても十分に新鮮。かたや、一足遅くキャンディーズ・タイプの楽曲に取り組んだM.8〜M.14のアイドル・サイド(B面)も“ローファイ”や“モンド”といった概念が定着した現代的な耳で聴けば…………それなりに楽しむことができるように思います。
「すべてはここから始まった!」とまでは言いませんが、Perfumeがブレイクを果たした今だからこそ、“テクノ・アイドル・グループ”という新手のジャンルを(無自覚ながらに)切り開いたスターボーというグループの存在に注目してみてはいかがでしょうか?
※ 記事は掲載日時点での情報をもとに書かれています。掲載後に生じた動向、および判明した事柄等は反映しておりません。ご了承ください。