年末の風物詩のひとつとしておなじみとなった「日本レコード大賞」は、今から65年前の1959(昭和34)年12月27日に第1回が行なわれました。会場は東京都文京区にあった文京公会堂で午後3:00頃からスタート。栄えある第1回日本レコード大賞の大賞には、
水原弘が歌う「黒い花びら」が選ばれました。
当時、若者たちがジャズやロカビリーに熱中するなか、ミドルエイジ以上は戦前から続いて日本の音楽シーンの主流となっていた歌謡曲や流行歌を支持するなど、世代間のギャップが生まれていました。そこで、アメリカのグラミー賞を見学した日本作曲家協会の初代会長・
古賀政男たちが、グラミー賞にならい、ジャンルを問わずにその年の日本を代表する歌を選出する賞を発案し、「日本レコード大賞」が生まれました。
ただ、当初は知名度が低く、多くのレコード会社や大手メディアの協力も得られなかったため、参加者に不安が募りましたが、運営委員長を務めた古賀が私財を投じて運営費の一部をまかない、開催にこぎつけました。TV局ではラジオ東京テレビ(現・TBS)のみが賛同したこともあり、現在までレコード大賞はTBS系列で放送されています。
第1回大賞受賞者となった水原は、
守屋浩、
井上ひろしとともに当時のロカビリーブームを牽引した「日劇ウエスタンカーニバル」の“三人ひろし”として人気を博していました。その水原を東芝音楽工業(現・EMIミュージック・ジャパン)が起用し、放送作家の
永六輔に作詞を、ジャズマンからフリーへ転身した
中村八大に作・編曲を依頼して完成したのが「黒い花びら」です。
「黒い花びら」は、当時の音楽界の主流とは異なる作風(ロカビリー)ゆえ対象外とすべきといった意見や、作曲した中村がノミネート基準となる作曲家協会所属ではなかったため、急遽同協会に加入させるなどの経緯がありましたが、決選投票で
フランク永井の「夜霧に消えたチャコ」を1票差で抑えて大賞を受賞。それまでの歌謡曲・流行歌とは異なる、甘くモダンな曲調による画期的なポップス歌謡と、水原の個性の強さで支持を獲得しました。しかしながら、現在のような華々しく脚光を浴びるものではまだなく、受賞した水原はレコード大賞の存在もわからなかった様子。放送も午後の時間帯に約30分と短く、派手な演出もなく、表彰と受賞曲を紹介するというシンプルな構成でした。それでも、水原、永、中村ともにデビューとなった当時の音楽界で非主流だった作品を大賞に選出したことで、その後、新たなジャンルからの受賞が生まれ、日本の歌謡シーンにさまざまな音楽作品が登場する土台を築いたといえます。60年代末から70年代は黄金期を迎えることになりました。
昭和最後の年となった1988年の第30回は
光GENJI「パラダイス銀河」、平成となった翌年1989年の第31回は
Wink「淋しい熱帯魚」、第38回、第39回は「女性ソロ」として
中森明菜以来2度目となる
安室奈美恵が連覇(「Don't wanna cry」「CAN YOU CELEBRATE?」)、第43回から第45回までは
浜崎あゆみが史上初の3連覇(「Dearest」「Voyage」「No way to say」)、第50回から第52回までは
EXILEが浜崎以来2度目の3連覇(「Ti Amo」「Someday」「I Wish For You」)、平成ラストイヤーとなった2018年の第60回は
乃木坂46「シンクロニシティ」、翌年の令和初となった第61回は
Foorin「パプリカ」など、さまざまな作風の楽曲が受賞を飾り、音楽界を発展、活性化させてきました。その一方で、
坂本九「幸せなら手をたたこう」をはじめ、
西城秀樹「YOUNG MAN (Y.M.C.A.)」、
岩崎宏美「聖母たちのララバイ」、
DA PUMP「U.S.A.」が外国由来のカヴァーあるいは外国人作家の作曲という理由で対象外となったり、最近でも世界的なヒットを記録し、視聴者からも圧倒的本命と目されていた
YOASOBI「アイドル」が大賞候補から除外されるなど(特別国際音楽賞、
Ayaseが作曲賞は受賞)、審査対象の不明瞭さや視聴率の低下、賞レースをよしとしないアーティストたちの辞退も増加するなど、かつての権威が失墜しているととらえる向きもあります。
第66回を迎える2024年は、
Da-iCE「I wonder」、
Omoinotake「幾億光年」、
山内惠介「紅の蝶」、
NewJeans「Supernatural」、
FRUITS ZIPPER「NEW KAWAII」、
Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」、
BE:FIRST「Masterplan」、
純烈「夢みた果実」、
Mrs. GREEN APPLE「ライラック」、
JO1「Love seeker」の10曲が優秀作品賞を受賞。このなかから栄えある大賞を受賞を勝ち取るのはどの楽曲になるでしょうか。また、新人賞ほか各賞の受賞にも注目です。放送は12月30日(月)17時30分から、TBSの安住紳一郎アナウンサーと女優の川口春奈の総合司会によって行なわれます。
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