2005年6月に発足した日本初のエアギター公式団体“AGJ(エアギタージャパン
http://airguitar.jp)”が制作したエアギター年表によれば、エアギターの始まりは「有史以前 史上初めて楽器の弾き真似をする猿人が現る」とされている。雨の日の駅のホームには傘でスウィングをする“エア・ゴルファー”、
矢沢永吉の武道館ライヴ終演後には肩にタオルを掛けた“エアYAZAWA”が大勢いるように、有史以前に何がしかの楽器を弾く真似する猿人がいても不思議ではないが、今のところそのような記録を裏付ける発見、発掘は為されていない。サーファーいるところ陸サーファーがいるように、ギタリストいるところエアギタリストあり。ギターが世に誕生したその日から、ギターを買えない者、弾けない者たちによるエアギター・プレイが今日まで繰り広げられてきたに違いなく、かの
ジミ・ヘンドリックスも幼少時にはホウキを愛器にギターを弾く真似をしていたほど。つまり、ギターなくしてエアギターがないのはもちろんだが、エアギターなくしてロック・ギターの発展もなかったわけであり、ライヴ・ハウス、ディスコ、CDショップの試聴機の前などなど、ギター轟く音楽があれば、それにはひとりならずエア・ギタリストがいたはずだ。
では、エアギター隆盛の歴史はいかに? エアギター世界選手権(AIR GUITAR WORLD CHAMPIONSHIPS)の始まりは以外に古く、96年にフィンランドにて初めて世界選手権が開催されたのが大きなムーヴメントの始まり。毎年8月に開催されているこの選手権も、今ではきちんとステージ上にて行なわれ、すっかりと規模も大きくなったが、数年前の選手権の映像を観ると、観客の輪の中で演者がプレイしていたりして、じつにストリート臭があふれている。そのイヴェントが、回を重ねるにしたがい規模を増し、ついには雑誌『TIME』やイギリスの報道番組などでも紹介されるほど知名度が上昇。ここ日本でも2004年ごろから、スペースシャワーTV『BBL WORLD』内企画「エアギター部」や『タモリ倶楽部』で、2005年にも惜しまれつつ終了してしまったテレビ東京『ヘビメタさん』内コーナー「エアメタル」などで紹介され始め、前述『BBL WORLD』を契機に選手権に出場した
金剛地武が2004年の選手権で世界4位に入賞するなどの話題を集め、今年のロック・フェス“サマーソニック05”では、ついに日本初の公式選手権が開催されるまでに。余談ではあるが、オークションサイト“ebay”に、世界で初めてエアギター(80年代製・鑑定書付き)が出品され、見事5.5$で落札されていることも予備知識として蓄えておかれたし。
「オリジナリティ」「リズム感」「カリスマ性」「テクニック」「エアネス(芸術性及びエアー感)」の5要素で採点されるエアギター選手権だが、ここ数回の優勝者のパフォーマンスを見るかぎりでは、見た目の分かり易さが勝負の分かれ目になっているような気もしなくないが、ギターケースから愛器を取り出しストラップを肩に掛ける(&ストラップのよじれを直す)などの動作など、細かなネタを丁寧に披露するギタリストも少なくないことからも、今後のエアギターの流れは、過剰な妄想力・陶酔力を前面に押し出した衝動派と、ギターの位置が極端に高い(たとえば
サンボマスターの山口隆のように)、あるいは低いなどの細部にこだわった、ほとんど「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」のような描写派の二派に分かれるのではなかろうかと予想される。
現時点のルールでは、“目に見えないかぎり”ローディの参加が許可されてはいるものの、残念ながらグループでの演奏は許可されていない世界選手権。だが、先だって行なわれたアメリカ予選大会の終盤では参加者一同がステージの集まって
ニール・ヤングの「ロッキン・イン・ザ・フリー・ワールド」を演奏する余興が。その際、ひとりだけギターではなくドラムを叩いていた男がいたように、今後はグループ一丸となってのエアネスあふれるパフォーマンスが見られる日はそう遠くないだろう。その日を見越して、リード・ギタリストをあきらめサイド・ギタリストに徹する者や、早々とギターを見切りベース、ドラム、ヴォーカル(つまりは口パクだが)などの練習に勤しんでいる者もいるだろう。すでに日本エアギター協会会長の“かながわIQ”氏は前代未聞のエアバンド“red reborn works”を結成しており、その動向にも注目だ。団体戦が許可されれば、
レーナード・スキナードや
ブルー・オイスター・カルトのような豪華トリプル・ギターも実現。それゆえ、いずれ音楽性の違いによりグループを解消なんて事態が、エアギター界でも日常風景となるやも!? いずれにせよ、本格エアギター映画『これが青春だ』(
http://airguitar.jp/movie/)の製作も決定したことだし、今後もエアギター人口は増加の一途を辿ることは確実。忘年会、新年会での出し物として、エアギターが定番になる日も遠くないだろう。
また、当HPでも紹介したように、ついに
“音が出るエアギター”も登場した。が、“本当に”音が出てしまってしまっては、エアギターの魅力である「弾けないギターを弾くんだぜ」な心意気、暴走力、妄想力、陶酔力などの占める比重が下がってしまい、結局のところ技巧勝負へと土俵の趣旨が変わってしまうのではないかと危惧してしまう。あくまで、“裸の王様”ならぬ“裸のギタリスト”だからこそのエア・ギターなのではないかと、日本エアギター元年となった2005年の今、強く思うのだ。
よりエアギターを知るために、ステキなエアギター・プレイが見られる映像作品をいくつか紹介しておこう。エアギター・マニアの間では、あの
キアヌ・リーブスが
スティーヴ・ヴァイの弾く旋律に合わせてエアを披露する映画
『ビルとテッドの地獄旅行』が“聖典”とされているようだが、CDJ.com的オススメ作品としては、『チーチ&チョンの気分は最高』(81年・原題:“Nice Dreams”)を挙げておこう。この作品の中で、
『ポリスアカデミー』シリーズでの“効果音警官”ジョーンズ役でおなじみのマイケル・ウィンスルーが、棒切れを手にジミ・ヘンドリックスの音真似(得意の効果音声帯模写で)&弾き真似を披露していて、かなり笑える。エアギターが盛り上がりを見せている今こそ、国内DVD化を望みたい。
また、実在のミュージシャンによるエアギター・プレイとして、多くの音楽ファンにとっての“はじめてのエアギター”がコレだったに違いない
ジョー・コッカーの名パフォーマンスが見られる映画
『ウッドストック 愛と平和と音楽の3日間』をオススメ。左に実際のギタリスト、右にエアギターを弾くコッカーと、途中何度となく画面が分割されるこの作品は、“実際に弾く人以上にエアギタリストは動きが過剰”であることがよく分かる点からも恰好の“教材”であり、その情熱的なプレイは何度見ても感動的。エアギターの持つファンタジックな魅力が詰まった名演として永遠に記憶されることだろう。コッカーと対照的にクールなプレイで魅せるのが、
エルヴィス・プレスリーの
『エルヴィス・オン・ステージ』。とくに、エアギターを弾く直前に見せる動作は、スタイリッシュなエアギタリストを目指す諸兄には必見のクールさである。
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