「うたごえ運動」との言葉を聞けば蝶や小鳥をはべらせなにやら楽しげにうたい踊る、いかにも愛らしい乙女の姿などを想像してしまいますが、かつて歌声喫茶を拠点に盛り上がったという「うたごえ運動」とそこで歌われた「歌」について、CDJournal.com的考察をまとめてみました。
新宿・歌舞伎町が発祥地という「歌声喫茶」。見知らぬ若者同士でも仲良く肩寄せあい歌をうたう喜びに興じたという、きっとお父さん・お母さんも若い頃に通ったに違いないそんな場所を拠点に、当時の若者たちの間で急速に広まったムーヴメントが「うたごえ運動」。60年代に盛り上がりをみせた合唱を中心とした社会運動のことだとか。
その内容は「労働歌」や「反戦歌」「革命歌」などをはじめとした“プロテスト・ソング”を皆で歌うことで“思想”を活動家のものから人々へと浸透させ、世の中を変えていこうという試み。もちろん現在も継続的に活動しているサークルがあり、それをまとめる全国協議会も存続しているとのこと。
「うたごえ運動」をはじめとした社会運動で歌われた楽曲として有名なものは「インターナショナル」や
ショスタコーヴィチの曲に詞をつけた「《森の歌》よりぼくらは木を植える(ピオネールは木を植える)」、そして「聞け万国の労働者」などでしょうか。
なかでも「インターナショナル」は世界中で歌われ、70年代イタリアのジャズ・ロック/プログレッシヴ・ロックのバンド、
アレアがレパートリー(アルバム
『ライヴ・トリノ’77』などに収録/写真左)としていることなどで、思想的な意味を知らずとも耳になじみのある方もいらっしゃるはず。
近年では
ソウル・フラワー・ユニオンの労働歌や民謡、はやり歌を取り上げる別ユニットである
ソウル・フラワー・モノノケ・サミットのヴァージョン(アルバム
『レヴェラーズ・チンドン』収録/写真右上)もお馴染みでしょうか。さらに興味がある方には
『決定盤!日本の労働歌ベスト〜がんばろう』というコンピレーション盤(写真右下)がオススメ。明治後期からはじまった日本の労働運動で歌い継がれてきた曲が集められています。共産主義を歌った政治色の強い楽曲から比較的平穏な平和運動のものまで多数が収録されているので、入門編にはぴったりの一枚。
60年代の新宿といえば上記の歌声喫茶以外にも、“新宿西口フォーク・ゲリラ(反戦フォーク集会)”と呼ばれたベトナム反戦運動の音楽集会も開かれ、歌声にあふれていた街。
現在も活躍するフォーク・シンガー、
高石ともや、
岡林信康、
高田渡……といったアーティストをはじめ無名のフォーク・シンガーも多数参加し、当時の若者達が“時代”を変える一つの手段として歌とその力を信じ、連帯したことがうかがいしれます。そんな新宿の街にさまざまな想いをめぐらせつつ、これまでの日本で唯一、リスナーの心にダイレクトに響き、社会に影響を与えたムーヴメントといっても過言ではない、この60年代の歌の力に触れてみてはいかがでしょうか。
※ 記事は掲載日時点での情報をもとに書かれています。掲載後に生じた動向、および判明した事柄等は反映しておりません。ご了承ください。