かつて、アナログ盤世代からは“オモチャ”などと揶揄されたCDも、近年ではさまざまなパッケージに彩られるようになり、見た目にも楽しい作品が増えてきました。そこで、今回はそのCDパッケージがどのような変遷をたどってきたのか、非常に簡単ながら振り返ってみたいと思います。
■ロング・ボックス/トール・ケース
CDが普及し始めた80年代後半から90年代前半にかけて、輸入盤でよく目にしたのがこのロング・ボックス、もしくはトール・ケースと呼ばれるもの。普通のジュエル・ケース(プラケース)のCDを、高さ31.5cm、幅14.5cmの箱に入れた仕様です。これは決して限定盤などではなく、レコードからCDへの移行期にのみ現れた例でした。それまではレコードが主流だったため、レコード店にはCDを陳列する棚(什器)がなく、レコード用什器(いわゆる“エサ箱”)に収納するために考え出された箱なのです。
ご存知の通り、レコードはLPサイズで直系30cm。したがって、このロング・ボックスにプラケースのCDを入れることで、レコードと同じように陳列できるようになりました。棚を代えればいいじゃん、とお思いでしょうが、レコード/CD店にある什器というのは非常に高価。程度の差こそあれ、1台で何十万円もする代物なのです。それだけの設備投資は店にとってはかなりの出費。そのような訳で、レコード会社などでもいろいろと考えた結果、このような箱を付けることになったようです。
このロング・ボックス、CDの普及と店側の対応が進んだこと、また、資源のムダ使いとの批判もあり、90年代半ばまでには完全に姿を消しました。きちんとデザインされた箱も多く、独自のアートワークとして楽しむことができるだけに、今にして思えば手許に残しておけばよかった、と悔やんでいる30代以上のマニアもいるのでは?
■デジパック
CD自体が完全に定着すると、いよいよパッケージにもこだわりを持つ作品が出てくるようになります。ジュエル・ケースとは異なる仕様で、現在最も普及しているのはデジパック(Digipak)と呼ばれるものでしょう。このデジパック、台紙にCDトレイを貼り付けたもので、高級感を醸し出す作りが特徴。米国の
AGI社によって開発され、芸術性も高かったアナログ盤のデザインを引き継ぐものとして生まれました。形もさまざまに加工でき、3面開きや6面開き、デジパックそのものがブックレットになっている“デジブック”など、限定盤などによく採用されています。
なお、材質が紙であることから、かつては“紙ジャケ”と混同されることもあったようです。詳細は下記に記しますが、“紙ジャケ”とはまったく異なるものですので、お間違いのないように。
■紙ジャケット
90年代後半に登場、2000年代に入ってから日本で爆発的な人気を誇っているのが紙ジャケット、いわゆる“紙ジャケ”です。簡単に紙ジャケを定義すると、“レコードの時代に発売された作品を、ジャケット・デザインもそのままCDサイズに復元したもの”ということになるでしょうか。もちろん、
ジェスロ・タル『スタンド・アップ』(ダブル・ジャケットを開くとメンバーを模した人形が立ち上がる)や
レッド・ツェッペリン『III』(ジャケットに回転する台紙が組み込まれている)のような特殊ジャケットも再現しています。したがって、同じ紙でできていてもデジパックや、輸入盤のシングルで見受けられる紙ケース(“Cardboard Sleeve”“Pocket Sleeve”と言われるもの)などは、“紙ジャケ”とは呼ばないということになります。(写真右:
サンタナ『ロータスの伝説』)
この紙ジャケ、もはや日本独自の文化と言っても過言ではないほどの盛り上がりを見せており、その技術は世界一。ただ、海外の音楽関係者の間では、どうやら紙ジャケは理解し難いもののようです。作る場合でも恐らくLPを完全に再現しようという意識はないのでは、と思われます。という訳で、その仕様で物議を醸した
ザ・ビートルズのボックス
『ザ・ビートルズ '64BOX』や『'65BOX』の海外盤も、“Cardboard Sleeve”と言った方が良いのかもしれません。(写真左:
フランク・ザッパ『フランチェスコ・ザッパ』)
CDが普及しはじめて約20年。これからもまた新たなパッケージが登場し、ファンを楽しませてくれることでしょう。なお、今回はCDのパッケージ全体を顧みる企画のため、個々に発売された特殊ジャケットには触れていませんので、ご了承ください。
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