間もなく
ザ・フーが24年ぶりの新作
『エンドレス・ワイヤー』を、
ミートローフが『地獄のロック・ライダー』シリーズ第3弾となる『Bat Out of Hell III: The Monster Is Loose』をリリースするとあって、ロック・オペラという言葉を耳にする機会が増えたかもしれません。そこで、簡単ながらロック・オペラについて考察してみようと思います。
まず、ロック・オペラと似たような概念で“コンセプト・アルバム”という言葉が存在します。これはひとつのコンセプト、テーマに沿った内容で作品を制作し、全体に統一感を持たせたアルバム、と言えるでしょう。さまざまな意見はありますが、ロック・シーンにおける初のコンセプト・アルバムは、
ザ・ビートルズの
『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』(67年)であるとされています。このアルバムは、サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンドという架空のバンドによる演奏というテーマで、アルバムの最初と最後にセルフ・タイトルの曲を配置、全体をひとつのショウに見立てた作品です。
ロック・オペラもおおまかに言えばこの概念と違いはありません。では、なぜ別の呼び方をするのかというと、ロック・オペラにはストーリーがあるのです。『サージェント・ペパーズ〜』は確かにテーマはありますが、各曲は独立したものとなっており、時間軸を追うストーリーはありません。それに対し、ロック・オペラには明確な物語があります。ロック史上初のロック・オペラとされる
プリティ・シングスの
『S.F.ソロウ』(68年)は、セバスチャン・F.ソロウという人物の数奇な人生を綴ったもの。内ジャケットに掲載された各曲の歌詞には、前文のような形でストーリーが記されています。また、ロック・オペラという言葉を決定的にしたザ・フーの
『トミー』(68年)は、目が見えず、耳も聞こえず、言葉も話せないという主人公トミーの人生を描いた内容。ストーリーの緻密さは当然のことながら、収録曲はほぼ曲間を空けずに繋がっており、SEや小曲を挟むなど、よりトータルなアルバム作りがなされるようになりました。ザ・フーの作品の中では、モッズの少年の過激な青春を描き、74年にリリースした
『四重人格』もロック・オペラの傑作とされています。
しかし、この“ストーリーの有無”による呼称の違いも、現在では混在しているのが現実。88年、米国シアトルのヘヴィ・メタル・バンド、
クイーンズライクがリリースした
『オペレーション:マインドクライム』は、マインドコントロールによって暗殺者となったニッキーの悲劇が明確なストーリー性を持って綴られています。が、この作品をコンセプト・アルバムとは呼んでも、ロック・オペラという声はあまり聞きません。プログレッシヴ・メタル・バンド、
ドリーム・シアターの
『メトロポリス・パート2〜シーンズ・フロム・ア・メモリー』(99年)も、輪廻転生をテーマにした物語を持っていますが、同様です。
現在ではストーリー性に加え、語源ともなっているクラシックの歌劇=オペラにあるような、ドラマティックかつ壮大なサウンド・メイキングをともなった作品をロック・オペラと呼ぶ傾向にあるようです。その代表的な作品としては、ミートローフの
『地獄のロック・ライダー』(77年)、
『地獄のロック・ライダー2〜地獄への帰還』(92年)、米国のヘヴィ・メタル・バンド、
サヴァタージの
『ストリーツ・ア・ロック・オペラ』(91年)などが挙げられます。なお、このサヴァタージのメンバーとプロデューサーのポール・オニールは、90年代後半から立て続けにクリスマス・アルバムをヒットさせているロック・オーケストラ、Trans-Siberian Orchestraに参加しており、ロック・オペラの精神を受け継いでいます。
音楽をまるで映画や舞台を観るように楽しめるのが、ロック・オペラやコンセプト・アルバムの醍醐味。曲ごとのダウンロード購入が当り前になってきている現代だからこそ、逆に新鮮に聴こえる可能性もあるのでは? ロックの歴史においては、多数のロック・オペラ作品が発表されていますので、若いファンの方々はいろいろとチャレンジしてみてください。
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