1948年、東京に生まれた
信藤三雄は、デザイン学校を出た後、デパートの業界紙記者を経て、一般企業をクライアントとするデザイン事務所に勤務。その後、フリーのデザイナーとして活動するかたわら、伝説のバンド
「スクーターズ」のメンバーとして82年にデビュー。しかし、バンドはシングルとアルバムをそれぞれ1枚ずつ発表して解散してしまいます。そして、84年に発表された
松任谷由実のアルバム
『NO SIDE』のジャケットを手がけたことをきっかけに本格的にジャケット・デザインを手がけ始め、85年にコンテムポラリー・プロダクションを設立します。
コンパクト・オーガニゼーションや
スタイル・カウンシルのジャケットが好きだったという信藤は、86年に
ピチカート・ファイヴの12インチ・シングル「ピチカート・ファイヴ・イン・アクション」のジャケットを手がけ、その後、長年にわたってタッグを組むことになる
小西康陽と出会います。「自分と同じ価値観を持つ人/アーティストだった」という小西と出会ったことで、かなりの衝撃を受けたという信藤は、ピチカート・ファイヴの作品で次々と斬新なデザインによるジャケットを制作していきます。
『ベリッシマ』では意図的にサントラ調のジャケットに仕上げ、
『女王陛下のピチカート・ファイヴ』では、世界初(だったらしい)透明トレイの使用と今では当たり前となった裏面印刷(小西発案)。
『月面軟着陸』では小さいブックレットを封入(小西発案)と、それまでのアートワークにはなかった斬新なデザインをほどこしていったのでした。
信藤三雄のデザインといえば必ず挙がるのが、
フリッパーズ・ギター、ピチカート・ファイヴ、
オリジナル・ラヴといった“渋谷系”アーティストのジャケット。小山田圭吾が主宰していたレーベル「トラットリア」の作品や
クレモンティーヌの作品なども手がけ、渋谷系=信藤三雄といった図式が成り立っていたといっても過言ではありません。また、この時期にデビューした
Mr.Childrenのアートワークも担当。デビュー当時のミスチルのジャケットで信藤は、
ビートルズやフリッパーズ・ギター的なものをデザインとして表現しようとしていたそうです。そして、94年にフードをかぶって叫ぶジャケットが印象的なシングル
「イノセント・ワールド」、小西康陽が「信藤三雄の最高傑作」と称した
『アトミック・ハート』で、あらゆる人々に信藤三雄のアートワークが届き、世間に浸透。一躍、信藤三雄の名前も一般に知れ渡ることになるのでした。(この時期のMr.Childrenのビデオ・クリップも信藤三雄が手がけています)。
そんな信藤三雄のデザインの特徴を挙げるとすれば、文字(大きさやフォント)を最大限に活かし、3D写真などを利用した特殊ジャケット、プラスティックの外箱をつけたパッケージなど、CDのサイズをフル活用したデザインになるでしょう。その多くはジャズのアルバムや海外の雑誌、広告などを参考にし、商品パッケージとして有効であることを前提にしたデザイン、時代のアイコンになるようなデザインを念頭に作られているそうです。それはレコードからCDへと移行するその時代に、ジャケット・デザインを手がけ始めたのも一因かと思われます。また、ジャケットをカラー・コピーで入稿することも多く、その色彩感が独特だったといったことも特徴のひとつに挙げられるかもしれません(フリッパーズ・ギター
『海へ行くつもりじゃなかった』、オリジナル・ラヴ
『セッションズ』など)。作品に関わるポスターや広告、プロモーション盤などのデザインまで手がけるのも信藤三雄らしいところです。
現在では、映像作家としての活動も盛んに行ない、2003年の「ほっとけない世界のまずしさ」キャンペーン(ホワイトバンド・プロジェクト)では映像プロデューサー、アートディレクターを務め、
桑田佳祐「東京」のビデオ・クリップで『SPACE SHOWER MUSIC VIDEO AWARDS “BEST VIDEO OF THE YEAR”』を受賞。 2006年には映画
『男はソレを我慢できない』で劇場用映画を初監督し、同年秋には
坂本龍一と雑誌『エロコト』を創刊と多岐にわたっての活動を繰り広げています。
松任谷由実、サザンオールスターズといった大物から、
MISIA、
元ちとせ、
GLAY、
m-floなどの人気アーティスト、
SMAP、
観月ありさなどのアイドルまでジャンルを問わず幅広いアーティストを手がける信藤三雄。手がけたCD、レコードジャケットはなんと約900枚にも及ぶそうです。家のCDを引っ張りだしたら、そこには信藤三雄の名前があるかもしれませんね。
●信藤三雄(C.T.P.P.)公式サイト:
http://www.ctpp.org/◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆※ 記事は掲載日時点での情報をもとに書かれています。掲載後に生じた動向、および判明した事柄等は反映しておりません。ご了承ください。