ドージャ・キャット「セイ・ソー」やザ・ウィークエンドなどの楽曲をカヴァーしてオリジナルのアーティストたちから絶賛された、“ヒジャブ”を纏ってキュートに歌うインドネシアのRainych(レイニッチ)が、竹内まりや「Plastic love」をカヴァーして脚光を浴びたり、韓国のプロデューサー / DJのNight Tempoが“昭和グルーヴ”と謳って日本の歌謡曲のリエディット作品を発表するなど、近年海外で注目されている日本のシティ・ポップ。1979年リリースの松原みきのデビュー・シングル「真夜中のドア〜Stay With Me」は、これまでも多くのアーティストがカヴァーしてきた名曲で、2020年代に入って“シティ・ポップ・ブーム”の代表曲として再び光が当たり、世界各国のサブスクリプションの再生回数でランクインを記録しています。
同曲は作詞が三浦徳子、作曲・編曲が林哲司で、クレジットにはオフィシャルとして何かをサンプリングや引用したということは書かれていないのですが、アイディアやインスピレーションとして参考にされたと思われる楽曲があります。『007 私を愛したスパイ』のテーマ「Nobody Does It Better」など映画の主題歌や、ディオンヌ・ワーウィックがエルトン・ジョン、グラディス・ナイト、スティーヴィー・ワンダーとの共演で発表してヒットした「That's What Friends Are For」(邦題「愛のハーモニー」)などを、当時のパートナーのバート・バカラックとのコンビで手掛けたシンガー・ソングライターのキャロル・ベイヤー・セイガーが歌う「It's The Falling In Love」(邦題「恋をしましょう」)がそれ。1978年のアルバム『...Too』に収録された楽曲で、「真夜中のドア〜Stay With Me」の前年にリリースされました。セイガー版は70年代のAORファンには知られるところですが、知名度としてはマイケル・ジャクソンのアルバム『オフ・ザ・ウォール』に収録されたパティ・オースティンとのデュエット・ヴァージョンが最も知られているといえるでしょう。
松原みきは癌を患い、闘病の末2004年に44歳の若さで惜しむらくこの世を去りましたが、2020年頃からのシティ・ポップ・リバイバルによって、アルバムが復刻されたり、シティ・ポップ関連のコンピレーション作品に収録されたりするなど、良質の楽曲にあらためて耳目が集まっています。「真夜中のドア〜Stay With Me」以外にも多くの名曲を遺し、また“スージー・松原”の名前でアニメ『Gu-Guガンモ』のテーマ曲「ガンモ・ドキッ!」「ヒョコポン関係」で歌唱を務めるなど“外仕事”でも活躍。いま一度、松原をはじめ、日本のシティ・ポップに注目してみるのも面白いかもしれません。