楽曲の第1印象に大きくかかわってくるといってもいいタイトル。曲調や歌詞が頭に思い浮かべやすいものや素っ気ないものなど、アーティストによってネーミングの仕方も千差万別です。
岡村靖幸「
あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」や
大黒摩季「
別れましょう私から 消えましょうあなたから」、
B'z「
愛のままにわがままに 僕は君だけを傷つけない」など、日本では90年代頃から特に長い曲名が目につくようになった気がします。
2010年以降になると
misonoが2014年にリリースした『
家-ウチ-※アルバムが1万枚売れなかったらmisonoはもうCDを発売することができません。』に収録された「セカンドseasonガールFRIEND〜女友達?妹的存在?ただの幼なじみ?恋愛対象?友達以上?恋人未満?2番目でもない?好きでも嫌いでもない?都合のいい女どまり?〜」が82文字、その翌年に
AKB48がリリースしたメジャー34thシングル「
鈴懸の木の道で「君の微笑みを夢に見る」と言ってしまったら僕たちの関係はどう変わってしまうのか、僕なりに何日か考えた上でのやや気恥ずかしい結論のようなもの」は76文字と長く、「鈴懸なんちゃら」という公式の略称がついたことも話題となりました。
さて、日本で一番長い曲名ですが、音楽活動を行なっている全てのアーティストの中から判断することは難しいため、メジャー、インディを含め、ある程度知られているアーティストから、その候補を探ってみたいと思います。
まずは、
BEGINが2002年に発表したアルバム『
島人ぬ宝』に収録された「それでも暮らしは続くから 全てを 今 忘れてしまう為には 全てを 今 知っている事が条件で 僕にはとても無理だから 一つずつ忘れて行く為に 愛する人達と手を取り 分け合って せめて思い出さないように 暮らしを続けて行くのです」が100文字。「鈴懸なんちゃら」が76文字ですから、30文字近くも多いことになります。
もうこの時点で曲名を一字一句間違えることなく言える人はなかなかいないような長さですが、1998年から2010年まで活動したプログレッシヴロック・バンド“
内核の波”(ないかくのわ)が2006年に発表した2ndアルバム『
殻』には「すっげー深い穴を見つけたんだ! 今から飛降りるよ。存在証明なんかじゃない、この深さなら誰にも見付かる事はないだろ? 生まれてしまった償いをしなきゃいけねぇんだ、生きる事と死ぬ事によって。俺はもう立派に一つの精神として立った、これ以上殺生を繰り返す理由なんて何処にも見付からねぇよ。そもそも人は今しか生きられねぇ常に生きているのは今だ。でも「今ここ」と思ったその瞬間には既に過去になっているわけで、次々に未来が押し寄せては今を認識する間もなく過去になる「生」という刹那を証明するのは不可能だろ。証明しようとする時には常に過去のモノとなり、生きていたという記憶に過ぎねぇ。つー事は、生きていようと死んでいようと、そんなもんどっちだって同じじゃねーか。だったら俺は希望に向かってスペシャルダイブ!」という曲名が(343文字)。7分を超える長い曲ですが、同アルバムには15分超えの曲もあり、曲名の長さに反して全6曲中5番目の長さというのが面白いところです。
また、“仙貨”や“貨物”の愛称で知られる
仙台貨物が2016年に発表したシングル「
仕事をサボりTIGHT」(写真)には、「ソレはおなかの中で密かに作られ胴体のローエンドから排出されるものであり、特に肉やイモ、ニンニクなどを食べた次の日のソレはまさに悪魔そのもので、ときには他人の嗅覚と精神を粉々に破壊する力を持っていると言っても過言では無いが、しかし極稀にソレを鼻腔の奥深く吸い込みそのニオイを認識した暁にはテンションが上がってしまうという珍妙な人種が存在するだけではなく、その悪魔の生みの親に限っては良い香りだと感じてしまう不思議な現象が起こり得るが、なんにせよ上司や先輩など目上の人間の前では決してその悪魔を生み落してはいけないし鳴らしてもいけない上、もちろん「どうせ気づかないだろうしスカしてごまかしてしまおう…!」などという考えはもっての他であるとともに、誤って自分の意思と裏腹に思わず生まれてしまい、その産声が響いてしまった場合、隣の人間をチラッと見ることで汚名を被ることを回避出来る可能性が僅かながらあるにせよ、悪意を持って生み出した者にはことわざの通り「目には目を」の言葉の元にその悪魔の力をもって下されるであろう、その裁き鉄槌の名は握り…」という曲が。あまりに長いため、オフィシャルサイトも“「ソレは〜(中略)〜握り…」※全466文字”と全曲名を載せていないほど。しかしながら、逆に曲の長さは4秒という短さで、コミック・バンドらしい遊びも窺えます。
その上をいくのが、ヴィジュアル系バンドの“レム”で、2010年に発表した楽曲のタイトルは「拝啓、大好きなキミへ。誰かに手紙というものを書くのは初めてです。最初で最後の手紙を書きます。キミは覚えていないだろうけど、初めて会った時のこと。涙を見せながら必死に笑顔を作るキミは、どこか寂しくて、奇麗で、僕が生きてきたこの世界のものとは思えないほど繊細でした。それは温かい陽射しのような、優しい春風のような、雨上がりに架かる虹のようで。僕の生きる真っ暗な世界に温もりと色をくれた。キミに触れた時、僕は初めて生きていることを感じることができた。だけど。いつしか僕らは大人になり、キミとの日々はいつからか日常になった。押し殺したはずの真っ黒な渦が世界を飲み込んでいく。苦しくて苦しくて、痛くて辛くて。キミとの思い出が、キミとの日々が色を失っていくのがただ怖かった。だから。僕は僕を終わらせる。温もりが冷めないうちに。色を失わないうちに。キミはきっと勝手だと僕を罵るだろう。でも誰かのために生きるなんて奇麗事、僕には似合わない。僕が色を失わないうちに、温もりを抱いて逝きたい。生きたいキミと、逝きたい僕。幸せの守り方は一つじゃない。考え方が違うだけ。大好きなキミへ。キミを守れなくてごめん。僕に光をくれてありがとう。先立つ僕を許して。敬具」という、圧巻の517文字。400字詰め原稿用紙1枚では収まりきらない長さです。
ちなみに、世界では、フィリップ・スプリンガー(Philip Springer)とニタ・ジョーンズ(Nita Jones)の競作による1961年のシングル「Green with Envy, Purple with Passion, White with Anger, Scarlet with Fever, What Were You Doing in Her Arms Last Night Blues」が以前ギネス認定されていましたが、インディのアーティストだと800文字もある曲もあるようで、真の最長曲名を決めるのは非常に難しそうです。
さらに、曲名ではなく作品のタイトルとなると、
フィオナ・アップルが1999年に発表した2ndアルバム『
真実』の原題が355文字あり、最も長い題名のアルバムとしてギネス認定されていました。
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