『ハンニバル』で使われているピアノ曲・・・・
『羊たちの沈黙』でも、同じ曲が物語のターニングポイントで印象的に使われていましたね。これはバッハの「ゴールトベルク変奏曲」の冒頭部分のアリアです。「ゴールトベルク変奏曲」はこの曲をさまざまな形で弾き換え、約1時間、たっぷり30通りの変奏を展開した後にもう一度このアリアを繰り返して何事もなかったかのように終わる、という大規模かつ不思議な音楽。バッハの時代にはこういう長大で複雑な音楽を作曲できるということが知性の証とみなされたわけですが、そういった点は明晰な頭脳を持った天才レクター博士のイメージと重なるような気もしますね。
一説によるとこの曲は「不眠症に悩むとある貴族が、聴きながら安らかに眠れる音楽を、とバッハに作曲してもらった音楽」とのこと。この逸話の真偽はともかく、聴いていると心が澄んで安らかな気分になる癒し効果があるのは確かです。CDでは、全曲版ならアンジェラ・ヒューイットのものがおすすめ。おだやかなピアノの音がしみじみ心に沁みる丁寧な演奏――「丁寧」と「音楽性」が結びつくって実はなかなかできることじゃないと思うんですが、ヒューイットのバッハではそれがばっちり体現されているのです。冒頭の「アリア」(3〜4分の音楽)の単独演奏も
コンピレーション盤などでよく見かけます。映画のサントラも発売されていますのでそちらもどうぞ。
余談ですが、『ゴールトベルク変奏曲』といえば、20世紀を代表するピアニストのひとりグレン・グールド。彼は高さ30cmくらい?の椅子に座って鼻歌を歌いながら演奏するなどエキセントリックな行動で知られ、30過ぎから完全に録音だけしかせず一切コンサートをしなかったことでも有名な人なんですが、その長いレコーディング歴の最初と最後、2度にわたりこの「ゴールトベルク変奏曲」を録音しています。最初のものはスピーディでエキサイティング、晩年のものは止まりそうなくらい遅くて深遠。と、明らかに違う演奏を聞き比べるのもオツなものです。両方収録した3枚組CDをご紹介しておきます。
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