2ndソロ・アルバム『ケモノと魔法』の発表を記念して、8週連続でお届けする短期集中連載『原田郁子秘宝館』。4週目となる今回は、原田郁子本人によるアルバムの全曲解説をお届けします。これを読めば『ケモノと魔法』の世界に、さらに深く入り込めるはず。参加アーティストの作品も併せて紹介しておりますので、気になる方はコチラもチェックしてみてください。 原田郁子
『ケモノと魔法』
2008年6月4日発売
※ 各トラックの曲名にマウスのカーソルを重ねると各曲毎の解説が表示されます。
1.青い闇をまっさかさまにおちてゆく流れ星を知っている
詞:原田郁子 曲:オオヤユウスケ
4.サヨナラ オハヨウ
詞:高野寛、原田郁子、永積タカシ 曲:高野寛
6.感嘆符と溜め息(instrumental)
曲:亀井奈緒子・原田郁子
8.やわらかくて きもちいい風(弾き語り)
詞:原田郁子 曲:永積タカシ・原田郁子
9.ケモノと魔法
詞:原田郁子・オオヤユウスケ 曲:オオヤユウスケ
オオヤくんとは、今まで何曲も一緒に曲をつくってきたんだけど。はじめて詞を渡して、そこにメロディをつけてもらいました。そこからぐんぐんと、まるで曲がひとりでに歩き出していくように、ふくらんでゆきました。そばでみていても身震いするくらい。みんなの力をかりて、美しくて、たくましい、1曲めが誕生しました。ありがとう。とてもうれしい。
この曲はクラムボンの『imagination』というアルバムに入ってる曲。ソロのライヴで、ときどき歌ってきたんだけど、おおはた雄一くんに会ったら急に演ってみたくなりました。窓際のソファで向き合って録りました。山におちかけた夕陽と、ギターの音が溶けていて、きれいだった。フルートの太田朱美ちゃんは、その上に、まるで水墨画のような、絵を描いてくれました。
原マスミさんのアルバム『イマジネーション通信』に入っている曲です。中学の頃に、たしか母親がこのアルバムを買ってきて、晩ご飯の時間に聴いたりしてたんだけど。この「ピアノ」という曲が一番好きだった。東京で暮らすようになって、吉祥寺のKuu Kuuというレストランに原さんのライヴを観にいったときに、この曲と再会して、あらためてすごい曲だなーと。これは、ギャラリートラックスに来て、最初に録音したテイクです。調律もなにもしていないピアノの音がすごくよかったから。「よろしくー」の気持ちをこめて。
『サヨナラCOLOR』という竹中直人さんの映画のためにつくった曲です。サントラの打ち合わせをしてる時に、高野さんから、こっそり紙が廻ってきて、見ると最初の4行が書いてあった。そこに私が書き足して、隣に座ってたタカシくんにまたこっそり廻したら……歌詞ができあがりました。授業をぜんぜん聞いてない中学生みたいな、そんな3人がつくった曲です(笑)。一緒に演奏してくれているのは三田村管打団?っていう関西で活動中のブラス・バンド。それぞれ別に仕事を持ちながら音楽をやってる人たちなんだけど、なんだろうね、彼らの音は味わい深い。
『気配と余韻』に入ってる方の「あいのこども」は、タカシくんとはじめて歌を一緒にあわせた時の音です。こっちのヴァージョンも録音していたんだけど、曲が変化していく、っていうのも楽しんでもらえたらなーと。まず、デモを聴いてもらいました。ある時、人を動かすのは、〈おかね〉か、〈あい〉しかない。って気がついて。そんな風に世界はまっぷたつに割れてる気がして。さらにどんどん加速してってる気がして。そのことを歌にしておきたかった。
三田村管打団?のレコーディングがおわって、片付けしてるときに、亀ちゃん(初対面)と連弾して遊んでたら、こんなことになりました。並んで弾いてると、自分の手がさらに、もう2本あるみたいでワクワクした。同じタイミング、同じ呼吸で、ぐんぐん弾けるのがうれしかった。その喜びを、あえて言葉にするなら、いったいなんだろう?って思って、このタイトルをつけました。音楽とは、まさにこういうことなのかも。
一緒に演奏してるのは、“ペ・ド・グ”っていう、メンバー全員トランペットのバンドで、グッケンハイム邸の住人のみなさんです(笑)。彼らは古い洋館を直しながら、アトリエにしたり住居にしたりして、暮らしています。わたしとZAKさんがレコーディングに訪れたときに、歓迎ライヴをしてくれて。それがとにかく凄かったの。半分くらいのメンバーは、ちゃんと吹けてないんだけど、なぜか胸を打たれたんですね(笑)。なんていうんだろう、気持ちで吹いてるっていうか、「へたっぴでも吹きたいの!」っていうみんなのパワーにやられてしまって。急遽この曲を覚えてもらって、録音しました。どこかの国の子供たちが裸足で歌いながら行進してるみたいなね。気づいたら、アルバムの中でも重要な曲になってしまいました(笑)。
映画『百万円と苦虫女』のためにつくった曲。これは、PVの撮影のときに演奏したテイクです。いつもPVと言えば、録音した音にあわせて、弾いてるみたいに撮影することが多いんだけど。ほんとに弾いてしまおう、と。それをそのまま映像にしてしまおう、と。大雪のギャラリートラックスにグランドピアノを運び込んで、現場にはスカンク兄弟が全員来てくれて、撮影しました。この曲はつくづく、映画の主人公、鈴子がいなかったら生まれなかったと思う。タナダ監督が、歌詞を見てすぐに電話をくれて、読みながら涙がでた、と話してくれて。それにわたしも泣けてきて。ふたりして「うぅーーーー」って泣きました。うれしくて。
4年前にはじめてソロ・ツアーをやったとき、「大谷曲3」という仮タイトルで最後に演奏した曲。あのときは、録音するにはすこし早いかもね、と言って、ライヴでしかやらなかった。ずいぶんと、この曲の存在を忘れていたんだけど(笑)、ある時、急に思い出して、ギリギリセーフで音源になりました。植野隆司くんがやってくれたグラスハープ(ワイングラスのふちを指でこすって音をだす)の音はやばかったです。何日も脳がゆれました。
なぁちゃん(妹)ちである日、雑誌をパラパラめくっていたら、友部さんの写真が載っていて、その顔が、ほんとうにいい顔だったんですね。特に目が、ものすごく透き通ってて、思わずぼーっとしてしまった(笑)。いい年の取り方をしてきている、というのがその1枚から滲み出ていて、感動してしまった。「あぁ、この人に歌詞をかいてもらいたい」とすぐ思って、おおはたくんのライヴ会場ではじめてお会いしました。そこで、つたないながらに、いくつかヒントになるようなことを話したんだけど。そのとき話したことが、友部さんの言葉で噛み砕かれて、見事に曲になって、ふるえました。またひとつ、大事な曲が生まれました。
そもそもわたしは、メロディを作るということにあんまり自信がないんですね。美しいメロディを書ける人が自分の周りにいて、その人たちに、「どうしたらこんな曲ができるの?!!」って、いつも感動している(笑)。だけど、たまーに、ひとりごとみたいな曲が、できることがあって。自分の奥の方から、ぽこっとでてきたんだろうから、説明ができない。最後の曲にはふさわしいような気がして。ちいさな部屋でつぶやいたことが、空に響き渡るような。そんな曲だと思います。