──ソロ・デビューしていちばん変わったのって、どういうところでしたか?
畠山 やっぱり歌に対する心構えみたいなものはガラッと変わったかな。メジャーから作品を出すにあたって、関わってくれるスタッフの人数が多くなったり、プロモーションの仕方もインディとは全然違うし。このあたりからシンガーとしての自覚が、ちゃんと芽生えたのかもしれない。遅いっちゃ、相当、遅いんですけど(笑)。あと、デビューしてからは親の反応も変わりましたね(笑)。
──それまでは、どんな反応だったんですか?
畠山 CDを出したりしたら物珍しいってことで喜んでくれてはいたんだけど、歌手としての活動を手放しで応援してくれるようになったのはメジャー・デビュー以降だよね。 “東芝”っていう冠が付いていたのが大きかったのかもしれないけど(笑)。今では母親が私のライヴに口を出すまでになって(笑)。
──メジャー・デビュー以降、ファン層も一気に広がりましたよね。
畠山 自分より年上のファンの方がライヴに来てくださるようになって。それは、すごく嬉しかった。あと、やっぱり教会ライヴをやったのが、すごく大きかったのかなって思う。教会でライヴを行うっていうことに、いろんな人が興味を持ってくれて。それをきっかけに名前を覚えてもらえたり。
──ソロ・デビューした2002年には
松任谷由実さんの30周年記念トリビュート・アルバム
『Queen's Fellows』に
Port of Notesとして参加、翌年、日本武道館で行われた記念コンサートでは、ユーミンと同じステージにも立ちました。
畠山 ずっと憧れていた方だったから本当に夢のようでした。しかも、そのあとPort of Notesのアルバム(
『Evening Glow』)にゲストで参加してもらったり。ご本人は気さくな方なんだけど、私から見たら雲の上にいるような人なので、すごく舞い上がってしまって(笑)、何を話したのか、ほとんど覚えてなくて(笑)。
──永積タカシさん(
ハナレグミ)、
堀込泰行さん(
キリンジ)とのユニット
“真冬物語”をはじめ、
サンディ、
SUGIURUMN、
Panorama Steel Orchestraなど、この時期には他アーティストの作品に参加する機会も徐々に増えてきました。
畠山 これも本当にありがたいことで。いろんな人とご一緒させていただくことで、学ぶこともたくさんあったし。あと、この頃からライヴをたくさんやるようになったんですよ。特にギタリストの笹子重治さんと二人で行ったライヴでは、本当にいろんな発見があって。
──具体的にはどんな発見があったんですか?
畠山 ギター1本に乗せて歌うと、当たり前なんだけど、自分の声が本当によく聴こえるんだよね。そこで歌声に対する感情の細かい込め方とかを学ぶことができて。それまでは“声を張る”っていうことをすごく意識していたんだけど、笹子さんとやらせてもらうことによって、“間(ま)”とかニュアンスみたいなものをより重視するようになって。この時期にシンガーとして、すごく成長させてもらえたような気がしますね。
──そんな経験を踏まえて、レーベル移籍後初のアルバム
『リフレクション』の制作に入るわけですが。
畠山 アルバムの曲作りのために岩手まで一人旅に出かけたり。ストイックな気持ちで音楽に向き合いたいと思ったんだよね。ちょうど、この頃に、お酒もやめたのかな。
──それは、やっぱり体調のことを考えて?
畠山 うん。これから歌い続けていくんだったら、やっぱりお酒を飲んでちゃいけないなと思って。一生ぶん飲んだし、もういいかって(笑)。
──他に体調管理の面で気をつけていることはありますか?
畠山 そんなにまめにしてるほうではないけれど、体力をつけるために走ったり。あとはイメージトレーニングかな。やっぱり体調が悪くて、満足いかないステージをお客さんに見せてしまうわけにはいかないから、“風邪をひくなら今のうちにひいておこう”とか、ベストな状態でライヴやレコーディングに臨むようにしていて。そこもデビューして、すごく変わったところかな。
──2007年には
ジェシー・ハリスのプロデュースによって、アルバム
『Summer Cloud, Summer Rain』をレコーディングされていますが、ジェシーとの作業でも、いろいろと得るものが多かったんじゃないですか。
畠山 4日間という短いレコーディングだったんだけど、歌に対する意識が、この時期にガラリと変わりましたよね。レコーディングのとき、ジェシーからは常に「囁くように、うっすらと揺れるようなイメージで歌ってほしい」って言われていたんだけど、それが、自分でも驚くぐらい、とにかく小さな声で。でも、マイクはちゃんと、その声を拾っていて、しかも、オッケーになったテイクを聴くと、ちゃんと自分の好きな質感に仕上がっていて。あの経験はシンガーとしての活動を始めて以来、もしかしたら一番大きな衝撃だったかもしれない。今まで自分が求めていたヴィジョンが初めて音になったような気がして。力を抜いた声によって構築される世界の豊かさに気付くことができたんです。もちろん、それは笹子さんとのライヴを経て、ニュアンスの大切さを意識するようになったからこそだと思うんだけど。私にとっては宝物のようなアルバムですね。
──そして、『Summer Cloud, Summer Rain』の3ヵ月後には畠山美由紀 with ASA-CHANG&ブルーハッツでアルバム
『わたしのうた』を発表して。ある意味、ミニマムとマキシマムというか、この2枚のアルバムって、作品のアプローチとしては、まったく異なっていますよね。
畠山 ASA-CHANG&ブルーハッツと一緒にやったアルバムでは、バンドで歌うことの醍醐味を身体いっぱいで楽しんだ感じ。しかも、あんな豪華なメンバーが揃うことなんて、ちょっとありえないよね(笑)。
──バンマスのASA-CHANGを筆頭に相当、濃い人が揃ってますからね。
畠山 ブルーハッツのメンバーって、みんな超一流なんだけど、それぞれ個性的な毒を持っているというか(笑)。みんな一筋縄でいかない人たちばかりなんだけど、そういう人たちが出す音って独特の温かさがあるんだよね。あのレコーデイングでは、人柄が音に反映されるってことに、改めて気付くことができて。やっぱり音楽って結局は“人”なんだなって。でも、自分でいうのもなんだけど、私って、つくづく人との出会いに恵まれているなと思うんですよ。
──たしかに。バイト仲間として
Double Famousのベーシスト高木さんと出会って以降(※第2回目
『立志編』参照)次々に、いろんなアーティストと出会いを積み重ねてシンガーとして着実に成長を遂げていますよね。
畠山 いろんな人たちが力を貸してくれて、私を歌の世界に導いてくれたわけだから、今まで出会った人たちには本当に感謝ですよね。それは日ごろ私を支えてくれているスタッフも含め。普段は自分から率先して何かをやろう!というタイプではないんだけど(笑)、そんな私の背中をいつもみんなが優しく押してくれたからこそ、ここまで歌い続けることができたんだと思う。
──それでは、最後の質問になりますが、畠山さんにとって音楽とは一体、どういうものなのでしょう?
畠山 日々、生きていくにあたって、自分にとっての指針になるものですね。私、実はそんなにポジティヴな人間じゃなくて、むしろ物事をネガティヴに考えてしまうことの方が多いんだけど、そんな自分を軌道修正してくれるのが音楽なんですよね。いい音楽を自分が聴いて、嬉しい気持ちになるように、ネガティヴな方向に向かいそうになったとき、もう一度、物事を考え直してみるんです。負のエネルギーに負けるんじゃなくて、音楽が自分に与えてくれるポジティヴなパワーだったり、温かいイメージの中に自分自身を持っていきたいというか。たぶん私、音楽の幸せを知らなかったら、相当、暗い人生を歩んでいたんじゃないかな(笑)。そういう意味でも、音楽に出会えて本当に良かったなって思うんです。
──今後の活躍にも期待しています。
畠山 ずっと自分がドキドキできるような作品を作っていけたらいいですよね。それを聴いてくれる人たちと共有できたら。理想のシンガーを挙げていくと、それこそキリがないんだけど、昔、Port Of Notesをやりはじめた頃、地元に帰ったとき、お世話になっていたヴァンガードっていうジャズ喫茶のマスター(第1回目
『純情編』参照)に「本物になれよ」って言われたことがあって。その言葉が自分の中にずっと残っているんですよね。何をもって“本物”なのかは、まだ、分からないんだけど、気持ちのうえでは、自分が理想とする“本物”のシンガーを目指して、これからもずっと頑張っていきたいなと思っています。
取材・文/望月 哲
祝!芸能生活15周年感謝祭
2008年、芸能活動15周年を記念する畠山美由紀が、盟友アーティスト多数をお招きして、15年の歴史を総括するビッグイベント
『Miyuki Hatakeyama 15th ANNIVERSARY CONCERT』
●日程:2008年12月12日(金)
●会場:Bunkamura オーチャードホール
●開場/開演:18:00/19:00
●「プレミアム・シート/全席指定¥6,900(税込、パンフレット&CD[共に非売品]付)THANKS,SOLD OUT!●サンキュー・シート/全席指定¥3,900(税込)THANKS,SOLD OUT!●ゲスト:アン・サリー、中納良恵(EGO-WRAPPIN’)、ハナレグミ、小沼ようすけ・笹子重治(choro club)(G.)、他、豪華アーティスト出演予定
●友情出演:Double Famous、Port of notes
●バンド・メンバー:坂田学(Dr.)、鈴木正人(B.)、中島ノブユキ(key.)、高田漣・福原将宣(G.)、BIC(Per.)
●お問い合せ:ホットスタッフプロモーション 03-5720-9999(平日16〜19時)