こちらハイレゾ商會
第50回 伸びやかなヴォーカルとサウンドは“ハイレゾ様々”
今回はとりわけ“ハイレゾを聴いてきてよかったなあ”と思うハイレゾだった。k.d.ラングの『アンジャニュウ』。その25周年記念スペシャル・エディションのハイレゾだ。
『アンジャニュウ』は、それまでカナダのカントリー・シンガーとして活躍していたk.d.ラングが、ポップスへと舵を切った作品で、1992年にリリースされた。アルバムは大ヒットを記録。グラミー賞でも最優秀女性ポップ・シンガーを受賞し、5部門でノミネートされた。シングルの「コンスタント・クレビング」も大ヒットした。
つまるところ『アンジャニュウ』で世界中の音楽ファンが、k.d.ラングという女性シンガーを知ったのだと思う。実際僕もこのアルバムでk.d.ラングを知った人間だ。ちょうど彼女がカミングアウトして驚かされた時期でもある。今ならあそこまで話題にならないと思うが、当時はまだそんな時代だったのだ。
しかしそんな周辺の騒ぎも吹き飛ばすほどに、『アンジャニュウ』は多くの音楽ファンの心を捕えたのだった。彼女の伸びやかな歌声に誰もが惹き付けられたと思う。ロックもパンクもヒップホップも登場し終わった90年代に、まさかこのような心温まるヴォーカルに出会うとは思っていなかったのだった。
僕はk.d.ラングの歌声を聴いていると、唯一無二の歌い手だったカレン・カーペンターを思い浮かべてしまう。もちろん『アンジャニュウ』の音楽はカーペンターズとはだいぶ違う。しかしk.d.ラングの歌い回しには“カレンでしか味わえなかった歌心”をすごく感じるのである。カレンの話はともかく、k.d.ラングの歌声に惹かれたのは音楽ファンだけではなかった。エルトン・ジョンなど、いろいろなアーティストから共演に引っ張りだこであったと思う。
その『アンジャニュウ』が今回ハイレゾで、空気感のある深みのあるサウンドになった。同時に押し出しのいい音が素晴らしい。まるで自分の横にまで伸びてきそうなくらいの音である。
『アンジャニュウ』というと、k.d.ラングのヴォーカルばかりが注目されがちであるが、アレンジや演奏も素晴らしいアルバムだ(そこはもう、みんなご承知かと)。冒頭の「セーブ・ミー」には、僕なんかロキシー・ミュージックの『アヴァロン』のような浮遊感を覚えてしまうし、「ミス・シャトレイン」はフレンチ風味のポップ・ソング。そのほかにも無垢なアレンジながらツボを押さえた楽曲が並ぶ。
そんな音楽がハイレゾではかなり迫ってくるところが快感だ。バック・コーラスの溶け具合もすごく綺麗である。92年にはここまで深く堪能できたわけではなかった。まさに“ハイレゾ様々”と言いたい気分である。この伸びやかな音を前にすると、5年後の30周年にはサラウンドも聴きたいと思ったくらい。
なお25周年記念スペシャル・エディションということで、本編のあとには93年のMTVアンプラグド・ライヴも収録されている。『アンジャニュウ』のなかの8曲を演奏。もともとアコースティックな楽曲だからアンプラグドでも遜色のない、ライヴ感あふれる演奏だ。このライヴもまたいい音で聴けるのだから、またまた“ハイレゾ様々”である。
//////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////