[こちらハイレゾ商會]第62回 ダイアナ・クラールが御大トニー・ベネットと歌うガーシュウィン・アルバム
掲載日:2018年12月11日
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こちらハイレゾ商會
第62回 ダイアナ・クラールが御大トニー・ベネットと歌うガーシュウィン・アルバム
絵と文 / 牧野良幸
 今回はトニー・ベネットとダイアナ・クラールのデュエット・アルバム『ラヴ・イズ・ヒア・トゥ・ステイ』のハイレゾである。「スワンダフル」「バット・ノット・フォー・ミー」などジョージ&アイラのガーシュウィン兄弟の名曲を歌ったアルバムだ。
 このアルバムの発売がアナウンスされた時、世のオーディオ・ファンは「ええー」とため息をついたかもしれない。せっかくダイアナ・クラールの新作なのにトニー・ベネットとのデュエットとは。
 そう、オーディオ好きにはダイアナ・クラールのファンが多い。ダイアナ・クラールのアルバムはどれも高音質である。そんないい音でアンニュイなヴォーカルに浸るのは無常のリスニング・タイムなのだ。とくにジャケット写真に目をやりながら聴けば、それは天国タイム。
 しかし今回は「思い出のサンフランシスコ」の御大トニー・ベネットとの共演である。ダイアナとの二人だけの時間を過ごせると期待していた僕は複雑な思いであった。
 でもトニー・ベネットは70年代にビル・エヴァンスと共演したアルバムを出したことでもわかるように、ポピュラーだけでなくジャズでも実績を残したシンガーだ。近年もいろいろな女性ヴォーカリストとデュエットをこなしている。今年でなんと92歳。歳を重ねるほど精力的になるところは、同じ男としてすごいと思う。年齢を考えると、僕みたいな還暦の“若造”がヤキモチを焼くなんておこがましい。ここはダイアナ・クラールがトニー・ベネットをいたわってフォローするのを、温かい目で見てあげよう……。
 そう思ってハイレゾを聴いたのだが、このアルバム、トニー・ベネットとの共演がいい感じなのである。
 まずトニー・ベネットはやはり御大だけあって聴きどころを押さえるのがうまい。そしてダイアナ・クラールも、いつもより歌い方がリラックスしているように感じる。トニー・ベネットがいることで安心感を得ているのだろうか。濃厚なダイアナ節がいつもより軽やかなように僕は感じた。ガーシュウィンの曲にちょうどいい按配だ。聴いていて楽しい。
 先にダイアナ・クラールと過ごす時間は天国タイムと書いたけれど、ダイアナ・クラールのアルバムを丸ごと聴いていると、それはそれでのぼせすぎてしまうものだ。その意味でもトニー・ベネットと交互に聴くほうが、ダイアナのヴォーカルがより引き立つことを新たに発見した次第。共演で恩恵を受けているのは、ひょっとしてダイアナ・クラールかもしれない。そう考えると、ますます恐るべしトニー・ベネットである。
 今回はダイアナ・クラールはヴォーカルだけでピアノは弾かない。バックはビル・チャーラップ・トリオによる演奏である。ビル・チャーラップのピアノも聴きもので、ただの伴奏で終わらない。ヴォーカルの合いの手のフレーズも面白いし、ソロをとっても面白い。3人目の共演者と言える存在だ。
 ハイレゾの音質もあいかわらず素晴らしい。これまでのダイアナ・クラールのハイレゾどおりの音質と書けば、皆さん容易に想像していただけるだろう。しっとりとしたドラムスに締りのいいベース。そしてガッツリと全体を支えるピアノの音。そこに二人のヴォーカルが生々しく浮かび上がる。 
 ということで、このデュエット・アルバムは成功していると思う。ダイアナ・クラールのこれまでのアルバムと比べても遜色がないばかりでなく、むしろお気に入りの作品となった。トニー・ベネットのヴォーカルも聴けば聴くほど好きになるだろう。これが高音質で聴けるのだから、今回もやっぱり天国タイムである。よかったら聴いてみてください。



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