[注目タイトル Pick Up] 鮮烈でパワフル、ヨーロッパのオケとはひと味違うオレゴン交響楽団 / ハイレゾ・マスター、オノ セイゲンがいくつもの作品で大活躍
掲載日:2019年5月28日
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高音質放送i-dio HQ SELECTIONのランキング紹介番組『「NOW」supported by e-onkyo music』(毎日 22:00〜23:00)にて、この連載で取り上げたアルバムから國枝さんが選んだ1曲を放送します。今月の放送は6月11日(火)から。

注目タイトル Pick Up
鮮烈でパワフル、ヨーロッパのオケとはひと味違うオレゴン交響楽団
文/長谷川教通


 アメリカのオーケストラといえば、いわゆるビッグ・ファイヴといわれたシカゴ交響楽団、ニューヨーク・フィルハーモニック、ボストン交響楽団、クリーヴランド管弦楽団、フィラデルフィア管弦楽団が定番だったが、それはもう過去の話。現代はまさに群雄割拠の時代。各都市でそれぞれハイレベルで独自のカラーを出しながら活動している。オレゴン交響楽団もそのひとつ。オレゴン州ポートランドにあるオケだが、創立は1896年というからかなり長い歴史を誇っている。1980年代のジェームス・デプリーストが音楽監督の時代に急速な発展を見せ、レコーディングも活発になったが、いまやカルロス・カルマーのもと、アメリカの主要なオーケストラのひとつとして注目されている。
 カルマーはウルグアイ生まれだが、オーストリアの家系でウィーン国立音楽大学で学んでいる。2003年からオレゴン交響楽団の音楽監督を務め、PENTATONEレーベルに『戦争の時代の音楽』『イギリスの音楽』といったテーマ性を意識したアルバムを録音しており、その中でも2014年の『アメリカの魂』、2018年の『アメリカの様相』は、もっともオレゴン交響楽団にふさわしいシリーズと言えそうだ。『アメリカの魂』ではコープランド、アンタイル、ピストンというアメリカ音楽を作り上げた作曲家3人の作品を取り上げ、その系譜を引き継ぐバーバーと現代のアメリカを代表する作曲家による『アメリカの様相』へと続くシリーズだ。ケンジ・バンチによる「ある象の様相」は、目の不自由な数人が象の一部だけを触って“なんだかんだ”と語り合うインド発祥の寓話『群盲象を評す』からインスピレーションを得た作品で、オレゴン交響楽団の委嘱作だ。現代アメリカの多様性や価値観の衝突に対するアイロニーでもあり、同時にアメリカのダイナミズムの源泉なのかもしれない。カルマー指揮するオレゴン交響楽団のサウンドはきわめて鮮烈でパワフル。ヨーロッパで収録されるサウンドとはひと味違うダイレクトに迫ってくるワイルド感やダイナミック・レンジの広さ……アメリカンPENTATONEと言えそうだ。


 注目の女流指揮者ミルガ・グラジニーテ=ティーラ率いるバーミンガム市響の新録音。彼女がドイツ・グラモフォンとの契約後、その第1弾にヴァインベルクを持ってくるとは、さすがなみの指揮者じゃない。2016年9月に音楽監督に就き、2017年のBBCプロムスに出演したときの映像が鮮烈で、リーラ・ジョセフォヴィッツの弾くストラヴィンスキーのヴァイオリン協奏曲もすごかったけれど、まるでベートーヴェンが現代に甦ったかのような「レオノーレ序曲第3番」と交響曲第5番の弾ける音楽。その推進力を引き出すダイナミックな指揮ぶりに、もう目が釘付け。バーミンガム市響も“これが自分たちの新しい演奏だ!”と言わんばかりに勢いづく。
 そんな彼らの新録音がヴァインベルクだ。1919年、ポーランドのワルシャワでユダヤ人の家庭に生まれ、ワルシャワ音楽院でピアノを学ぶが、1939年のナチスによるポーランド侵攻で旧ソビエトに亡命。ショスタコーヴィチとも親しく、また大きな影響も受けている。かなりな多作家だが、今回の録音では1946年の弦楽のための交響曲第2番と第21番「カディッシュ」が取り上げられている。第2番ではヴァインベルクの紹介に積極的に関わってきたギドン・クレーメルとクレメラータ・バルティカが演奏し、グラジニーテ=ティーラが指揮。「カディッシュ」ではバーミンガム市響が加わる。
 第2番はとても清冽な音楽で、氷のような肌合いがある。アダージョの叙情性と終楽章のエネルギッシュに突き進む音楽が突然ピアニシモになる……戦争の影を感じずにはいられない。「カディッシュ」はヘブライ語で“祈りの歌”を意味する。作品はワルシャワ・ゲットーの犠牲者たちに捧げられている。1991年、ヴァインベルクが完成させた最後の交響曲だ。重いテーマだが、グラジニーテ=ティーラは情感を込めながらも、その一方で熟達の作曲家が持てる技法を駆使して書き込んだ楽譜を怜悧な視点で見つめ、きわめて洗練された響きを引き出している。透明であるがゆえに痛切な音楽が聴き手の心を揺さぶる。終楽章ではソプラノのソロによるヴォカリーズが美しくも哀しい。



 ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団の自主レーベルからブルックナーの交響曲が次々と登場している。指揮はもちろん2015年から首席指揮者として率いるワレリー・ゲルギエフ。就任直後に録音された第4番はオケの本拠地であるミュンヘンのガスタイクで、これもすばらしい演奏だったが、その後ブルックナーゆかりの聖フローリアン修道院での録音シリーズがスタートし、すでに第1番から第3番までが収録され、いよいよ晩年の大作第8番と第9番が登場した。
 ミュンヘン・フィルはクナッパーツブッシュやチェリビダッケ、ケンペ、ヴァントなど伝説のブルックナー指揮者に薫陶を受けてきただけに、楽譜の隅々まで知りつくしているはず。録音会場の聖フローリアン修道院は残響の長いことで知られているが、そうした条件下で内声部まで明瞭に録音するためにはマイクロフォンのセッティングはもちろん、それ以上にオケの演奏技術が肝。会場で聴いている以上に気配りする必要がある。ヴィブラートは抑え気味にし、一音一音を明瞭に発音し、各声部の合わせ込みは言うまでもなくアーティキュレーションの意志統一も必須。ゲルギエフがオケに求めるのは楽譜の意図する表現を正確に音化すること。そのためにミュンヘン・フィルのブルックナーにおける演奏力の高さが必要だった。だからクナッパーツブッシュやチェリビダッケの希有壮大な第8番と比べて……などと言っても詮ないこと。ゲルギエフ指揮ミュンヘン・フィルによるオンリー・ワンの世界だ。
 録音スタッフやマスタリングに凄腕の技術者たちが加わり、驚くほど鮮度の高さ。各楽器の多彩な音色や内声部の明瞭度など聴きどころ満載なので、ぜひともハイレゾ音源で聴いてほしい。さらに欲を言うなら、聖フローリアン修道院の空気感を味わうためにもヘッドフォンではなく、解像度と描写力の優れたスピーカーで鳴らしてみてほしい。全曲録音が完成したら、間違いなく現代のブルックナー像を描き出した名演と評価されるだろう。




 1962年デンマーク生まれのボー・スコウフス。1988年、ウィーン・フォルクスオーパーでの「ドン・ジョヴァンニ」役でセンセーショナルなデビューを果たし、その後もオペラから歌曲まで幅広く活躍しているバリトン歌手だが、もともとはチューバを学んでいたというから面白い。チューバ吹きともなれば肺活量は十分。声量も身長もあり、舞台映えがするとあって、人気もうなぎ上り。とはいえ、彼も50歳代半ばとなり、かつての若々しい姿からスキンヘッドの精悍な風貌に様変わり。彼はデビューしたての頃にもシューベルトの歌曲集を録音しているが、2016年7月に「美しき水車小屋の娘」「冬の旅」「白鳥の歌」を、わずか10日間のセッションで再録音した。
 きわめて集中度の高い演奏で、彼自身再録音できたことを幸せだと語っているが、このおよそ20年で蓄積した経験や深化した解釈が、いっきに湧き出したかと思えるような歌唱に感動させられる。いままで数多くの名演・名盤を聴いてきたが、それらとは一線を画す引き締まった表現が聴きものだ。声の表情を過剰に変化させたり、詩の内容に合わせるつもりで抑揚を付けすぎたり、叙情性を前面に押し出したり……そういった恣意的な表現を削ぎ落として、音楽の骨組みをクッキリと浮き上がらせる。
 「美しき水車屋の娘」では張りのある声質を武器に溌剌とした歌いぶり。バリトンでありながらテノールにも負けない生彩さがいい。ピアノのシュテファン・ヴラダーがかなり積極的に表現に絡んでくるのも聴きごたえがある。「冬の旅」では後半にかけて、どうしても重くて暗くなりがち。「幻の太陽」「辻音楽師」と絶望の淵で胸が締め付けられるが、スコウフスのいくぶん感情の昂ぶりを抑えつつ、淡々とストーリーの展開と作品の性格を的確に描き出すあたりは、表現者としての品格を感じさせる。「白鳥の歌」もすばらしい。シューベルトの死後、出版社や友人たちによってまとめられた曲集で、3人の詩人の歌詞からなる14曲。前2作のような物語性はなく、曲順も決まっているわけではない。スコウフスは曲順を変え、さらに何曲か追加して歌っている。一曲一曲の性格付けを大切にしながら、全体としての統一感を意図したものだろう。


 音楽の世界にパラリンピックはない。たとえ身体的なハンディがあろうとも、あくまで評価は音楽そのもの……のはず。もちろんスポーツとは違い、勝ち負けや順位とは別次元の話であり、音楽家それぞれがオンリー・ワンの個性を磨き、さらなる高みを目指すのが音楽だ。フェリックス・クリーザーというホルン奏者もすばらしい音楽家だ。1991年、ドイツのゲッティンゲン生まれだが、彼は生まれながらに両腕がない。でも、4歳からホルンをはじめたというから驚きだ。何故ホルンだったのかは自分でもわからないという。楽器との出会いって、ほんとに運命的なもので神様のイタズラとしか思えない。ホルンをはじめたころは楽器を床に置いて吹いていたらしいが、本格的に練習を始めるころにはスタンドに楽器をセットして左足の指でバルブの操作を行なうようになったという。13歳からハノーファー音楽演劇大学で学び、ベルリン・フィルの元首席奏者マルクス・マスクニッティやペーター・ダムらにも師事している。いまやドイツでも引っ張りだこで、2017年には来日も果たしている。
 まず聴いてほしい。とても軟らかく芳醇な音色で、音のつながりがとてもスムーズ。伸びやかな旋律はモーツァルトには欠かせない要素。通常ホルン奏者が右手をベルに入れて音色や音程をコントロールするようなことはできないが、そのかわり口の形や顎の位置など彼独自の工夫で作品に合わせた音色を作り出しているという。彼の自然で奇をてらったところのない表現は、聴いていてとても幸せな気分にさせてくれる。アレグロ楽章の速いパッセージでもまったく不安のないテクニック。第3番第1楽章のカデンツァのソロなど最高! 続くロマンツァの歌わせ方も巧い。モーツァルトの曲もいいけれど、とにかく演奏が愉しい。カメラータ・ザルツブルクの好サポートもあって、素敵なアルバムに仕上がった。

ハイレゾ・マスター、オノ セイゲンがいくつもの作品で大活躍
文/國枝志郎

 ハイレゾ全盛、というかハイレゾであるのがあたりまえの時代になっていると僕は思っているのである。プロトゥールス録音はあたりまえだけど、まさか16bitで最初から録音するやつはいないだろう。24bit、32bitあたりでまず録っておいてそこからミックス、マスタリングと進み、最終的にCDマスターにするために16bitにダウンコンバートという手順を踏む。なので、新録音であれば24bitの状態のマスターを手に入れるのは容易なはずなのだ。それなのにいまだすべての新録音がハイレゾで出るわけではない。新作なのにハイレゾがなくて近年もっとも残念に思ったのは、アート・リンゼイの2017年のソロ・アルバム『ケアフル・マダム』だった。2017年という発売年を考えても、絶対ハイレゾは用意されているだろうと思っていたが、結局いつまで待っても出ることはなかった。アメリカ生まれで70年代からニューヨークのアヴァンギャルド・シーンで活躍し、またブラジル音楽からの大きな影響を自身の音楽に反映させはじめてからはカエターノ・ヴェローゾのプロデュースはじめさらにいっそう音楽性を広げ、坂本龍一や大貫妙子、またエンジニアとしても活躍するオノ セイゲンら日本のミュージシャンとの交流も深いアートだが、あの破壊的でもあり、またきわめて繊細で美しくもある12弦ギターの音が16bitでしか聴けないのは人類にとっての大きな損失だと本気で考えていたら、同じように考えるひとはやはりいるものである。素晴らしいドラマー、山木秀夫を迎えて代官山の“晴れたら空に豆まいて”で2016年8月に行なわれた奇跡のセッションのライヴ・レコーディングが、超ウルトラハイレゾ(DSD11.2および96kHz/24bit)で登場したのだ。山木といえば数え切れないほどのセッションやディスクをリリースしているが、やはりハイレゾ的には2014年に井上鑑(key)、三沢またろう(perc、g)とのトリオ、その名もDSD Trio(shiosaiレーベル)がDSD5.6だけでリリースされていたことを思い出すのだが、今回のこのアート&山木デュオもshiosaiが関わっているといえば合点もいく。ライヴ録音にはフィッシュマンズや坂本龍一などを手掛ける音響マジシャンzAk、ミックスとマスタリングは我らがハイレゾ・マスター、オノ セイゲンというだけでもできばえの素晴らしさは予想できるが、実際に聴いてみると予想と期待をはるかにうわまわる超絶音響で悶絶。コルグから出た話題のADC/DAC、Nu 1を使用してのオノ・マジックも話題だが、とにかく扱いにくさゆえかなかなか名盤が生まれないこのスペックにおいて、今後長くリファレンスとなるに違いない。


 このところ、みらいレコーズのハイレゾ攻勢が止まらない。相対性理論のハイレゾもそうだが、やくしまるえつこのハイレゾがここのところリリースが続いていて、ファンとしてはうれしい悲鳴をあげているところである。2018年11月に砂原良徳とやくしまるえつこによる坂本龍一のカヴァー・シングル「Ballet Mecanique」が登場し、12月末には「あたりまえつこのうた(いちばん〜じゅうばん)」と「フラッシュ オブ ドーパミン」「放課後ディストラクション」が相次いで96kHz/24bitのハイレゾ配信スタート。明けて2019年4月には『松本隆作詞活動四十五周年トリビュート 風街であひませう』に収録されたはっぴいえんどのカヴァー「はいからはくち」と、2013年に発表されたスタジオ・ライヴ・アルバム『RADIO ONSEN EUTOPIA』もまた96kHz/24bitで配信が始まっている。とくにハイレゾ的にはレコーディングとミキシングに名手zAkがかかわった『RADIO ONSEN EUTOPIA』のハイレゾ化には快哉を叫んだものである。だがしかし! さらにすごいものが控えていた。それがYakushimaru Experiment名義による2016年度作品『FLYING TENTACLES』だ。まずこの名義からしてヤバい匂いがぷんぷんするが(笑)、内容はさらにその斜め上をいくものだった。まず一聴して、ユニット名の“Experiment(実験)”というのがあまりにもストレートにその内容を表わしていることにしばし呆然。1曲目からして、やくしまえるえつこ(オリジナル9次元楽器dimtakt)、ドラびでお(レーザーギター)、伊東篤宏(OPTRON)、ドリタ(スライムシンセサイザー)という自作楽器演奏者4名による光の即興演奏という触れ込みである。続く「タンパク質みたいに」は、作家の円城塔が書き下ろしたテキストをやくしまるが16分にわたって朗読する。坂本龍一とのコラボレーションでも有名なフェネスや作家の円城塔、ICCの畠中実らも惜しみない賛辞を贈る本作は、これもまたハイレゾ・マスター、オノ セイゲンの手によってマスタリングが施され、96kHz/24bitと、DSD5.6(!)での配信が実現。DSDで聴かれることを前提に作られたとしか思えない空間性、そして時間感覚の喪失をたっぷり味わっていただきたい。


 チェリストであり作曲家でもある音楽家、溝口肇といえば、1987年から続く長寿紀行番組『世界の車窓から』のテーマ曲でもっともよく知られているだろう。それだけに、この曲のヴァージョン違いもいったいどのくらいあるのか……というくらい存在するようだけれど、溝口氏はハイレゾへの共感度が非常に高いアーティストでもあり、ハイレゾでリリースされている溝口氏のタイトルとしても15枚ほどあるなかで、「世界の車窓から」はその半分近くの7ヴァージョンが確認できるのだからやはりこの曲の存在感は格別だ。ライヴ・テイクやボサ・ノヴァ・ヴァージョン、はたまた溝口氏自身の演奏によるピアノ・ソロ・ヴァージョンまでハイレゾで揃ってしまうのもすごいが、それがすべてそのヴァージョンならではの美しいたたずまいを見せているのはやはりこの曲が名曲であることの証左であろう。今回、同曲の最新ヴァージョン(溝口のチェロと松本圭司のピアノによる)を含むオリジナル・アルバム『WORDLESS』が溝口が主宰するレーベルGRACEよりハイレゾでリリースとなった。今回のアルバムは東京・原宿のHAKUJU HALLでの録音であるが、この録音のエンジニアをつとめたのがハイレゾ・マスター、オノ セイゲンであるというのがこの欄で取り上げる大きなポイントでもある。今月はとくにオノが手掛けたアルバムはアート・リンゼイ&山木秀夫のライヴ盤、Yakushimaru Experimentによる実験的なアルバムに続き3つめであるが、いずれも音楽の方向性はバラバラながら、出てくる音の指向性には一貫したものを感じさせるところがさすがというしかない。アート&山木盤に続き、こちらもコルグの新製品Nu 1を使って制作されている。収録とマスタリングはDSD11.2という究極フォーマットでなされているが、エディットは384kHz(明記されていないが32bitだろうか)で、配信フォーマットはすべてPCMの24bitでサンプリング周波数は48kHz、96kHz、192kHz、384kHzの4種類となる。とくに384kHz/24bit(DXD)の音質は圧倒的だった。しかしやはり……可能ならこの美しい音楽をDSD11.2で聴いてみたくてしかたない自分がいるのも事実ではあるのだが。


 関西を拠点として2015年から活動するユニット、Vampillia。正式メンバーが何人いるのかすらわからないエクストリームでハードコアなユニットで、実は日本よりも海外のほうが人気あるんじゃないかというくらい、つまり最高にドゥームなサウンドを聴かせるグループである。摩崖仏の吉田達也がドラマーとして在籍しているということに反応する層もあるだろう。そしてこのVampilliaのメンバーにアメリカのPete Swanson(Yellow Swans)やフランスのExtreme Precautionsといったインダストリアル/テクノ系のプロデューサーなどが加わったユニットViolent Magic Orchestra(VMO)も最近は活動が活発化しているわけだが、これらふたつのユニットにおける重要なメンバーのひとり、銀髪がクールなVelladon(ギター、キーボード、ヴォーカル、作曲などを担当)が、2019年3月をもって両ユニットを脱退していたという知らせが5月16日、Velladonの誕生日に届いたときはなんだよ悲しいじゃないか……神も仏もない……と思って悲嘆にくれたのである。だが、神は存在したのだ! 同じ日にソロとなったVelladonのシングルと、なんとアルバムまでリリースされてしまったのだから……もうびっくりさせんなよでもうれしくて泣いてるよ状態なわけです。レーベルはVelladon自身が主宰する〈Gebacondor Rec〉(ちなみにゲバコンドルとは『仮面ライダー』に登場する怪人の名前で、それまでライダーに倒された怪人の優れた部分だけを抽出して作られた最強の怪人)。シングル「Demons EP」と1stアルバム『Forbidden Colors』(いずれも48kHz/24bit)がわずか1ヵ月の制作期間で作られたということは、Velladonのソロにかける本気度を物語るものだろう。Vampillia/VMO的な重いドローンなドゥーム・サウンドがベースになっているものの、よりカラフルでキラキラした音の粒が見えてくるようなパートもあって楽しめる。すべての作曲、演奏、アレンジ、ミックスダウンはVelladon自身によるものだが、マスタリングをScornなどで活躍、ドローン界にこのひとありとうたわれたJames Plotkinが手がけていてこれまたびっくり。ちなみに「Demons EP」は1曲入りだが、Bandcampのみで買えるヴァージョンには「Sleep Well」という20分以上におよぶ長尺ドローンが収録されていて(ただし16bit。「Demons」は24bit)聴きごたえがあるので、アルバム聴いて気に入ったらぜひそちらもお試しあれ。あ、それとアルバム・ロゴとアーティスト・ロゴは『バッファロー'66』のヴィンセント・ギャロによるものだそうです。


 2018年10月に本人のソロ名義では『星くず兄弟の伝説』(1980年)以来じつに38年ぶりのアルバムとして出た『超冗談だから』が、ハイレゾでリリースされなかったことに僕はちょっと、いや、かなりがっかりさせられたのだった。死ぬほどいろいろな名義を使い分ける変幻自在な存在であり、音楽もやれば作家をさせてもタレントやらせても超一流、いやちょっとストレンジなところがあるけどそこがいい、というタイプの得難いキャラクター、それが近田春夫というアーティストである。近田の盤歴は1971年のロック・パイロット名義のアルバムから始まり、現在に至るまでベスト盤を除いても多種多様な名義で30枚近くのアルバムをリリースしているのだが、38年ぶりとなったソロ・アルバムのリリースをきっかけにとくにアナログ期のハイレゾ・リイシューが進まないかなあという期待を持っていたのだが、先に述べたように新作のハイレゾも出なかったことで、ああ、やっぱりダメなのか……とちょっとあきらめていたところだったので、70年代後半のオリジナル・アルバム4枚と、90年代に出たベスト・アルバムの計5枚がこの春にハイレゾに意識的なレコード会社であるキング・レコードよりまとめてハイレゾ(96kHz/24bit)でリリースされたときは盛り上がったなんてもんじゃなかったですねえ。今回のリイシューは近田春夫&ハルヲフォン名義で『COME ON LET'S GO』(1976年)、『ハルヲフォン・レコード』(1977年)、『電撃的東京』(1978年)、『ハルヲフォン・メモリアル』(1994年/ベスト)、そして近田春夫のソロ第一作『天然の美』というものである。ここではとくにハルヲフォンのラストを飾った『電撃的東京』のロック・サウンドから一転して、編曲陣の一角にイエロー・マジック・オーケストラ(YMO/オリジナル・アルバム全10曲中4曲の編曲を担当)を起用した瑞々しいソロ第一作『天然の美』を取り上げよう。いきなり1曲目からエレクトロ色たっぷりのYMO編曲「エレクトリック・ラヴ・ストーリー」で始まるが、なんとこの同じ曲が別のアレンジャー(若草恵)のアレンジで6曲目(LPではBサイド1曲目)に収められるというユニークなつくりとなっている。ユニークと言えばこの曲、作詞は漫画家の楳図かずおである。これを機にぜひ80年代から90年代のビブラトーンズやビブラストーン名義でのアルバムもハイレゾ化していただきたい。

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